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青年と少女コボルトの緩い自給自足生活  作者: 未羊


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第45話 里帰りでの決意

 初めて小麦を収穫してから、さらに二十日ほどが経過した日のことだった。

 カインはワムと一緒に、メイベルの案内でとある場所を訪れていた。


「ここは……」


 辺り一帯には焼け落ちてボロボロになった建物がいくつも見える。


「そう、ここはワムちゃんが元々いたコボルトの集落よ」


「こんな……、なんてひどいことを……」


 メイベルの説明を受けたワムは、その場に泣き崩れてしまっていた。

 襲撃された時はまったくわけもわからず、両親に言われるがままに集落から脱出したのだ。まさか、こんな惨状になっているとはまったく知らなかったのだ。


「ワム……」


 さすがのカインも、かける言葉がなかった。

 誰もいなくなった集落の中を、メイベルが先頭になって歩いている。

 魔瘴の森での生活にも慣れ、明るさを取り戻したはずのワム。さすがに故郷の状態を見た今となっては、沈み込んで黙り込むしかなかった。

 そんなワムを思ってか、カインは隣に立って一緒に歩いている。

 そうしてやって来たのは、メイベルがこしらえた簡易の墓場。

 ガラックたちと遭遇した時には、簡単な盛り土をしただけだった状態だったが、今ではそこに多くの亡骸が葬られていると分かるように杭が立てられていた。

 どうやら、ガラックたちとの一件を片付けた後に、再度ここを訪れて整備していったようだ。魔族が相手であっても、このような行動を取るあたり、さすがは聖女といったところである。


「遅くなっちゃったけど、ワムちゃんの無事を報告に来ましたよ。みなさん、安らかにお眠り下さい」


 メイベルは、コボルトたちの墓に向かって祝福の魔法を使う。魔族狩りの手によって苦しみながら死んでいったコボルトたちが、その苦しみから解放されるようにと祈りをささげたのである。

 メイベルの姿にいてもたってもいられなくなったワムは、メイベルの隣へと駆け寄り、一緒になって祈りを捧げていた。

 魔族とはいえど、亡くなった者への気持ちは同じようだった。

 二人の後ろでは、カインがその姿をじっと眺めていた。


 弔いを終えた一行は、その近くにあった石造りとなっている建物へとやって来る。


「なんだ、ここだけ建物の感じが違うな」


「ええ。ここを見て」


「うん? なんだ、隠し通路か?」


 きょろきょろと見回しているカインに、メイベルが声をかける。その声に反応したカインは、明らかに感じの違う床を見つけていた。


「はい。ここは私が集落から脱出した時に使った隠し通路です。お父さんとお母さんは私をここに押し込んだ後、戻れないようにとこの上に覆いかぶさったんです」


「なるほどな……。とはいえ、コボルトがそこまでやるとは、ワム、君は一体……」


 ワムの話を聞いたカインは、腕を組んで首を傾げている。

 そこまで必死に娘を逃そうとした意味が分からなかったのだ。犬に近い魔族だから生存本能はあるにしても、まったくもって理解ができない行動だった。


「実は、ここ……、知られてはいないんですが、コボルトの王国だったんです。対外的には集落といっていますけれど、これでも小さな国だったんです。私は、そのコボルト王国の王女なんです」


「なんと。それで、いろいろと普通のコボルトにしてはおかしかったのか。剣は扱えるし、魔法の能力も高い。おまけに頭もいいしな」


 驚くカインではあったものの、今までのワムのことを思えば、なんとなく納得がいったようだった。

 つまり、ワムはコボルト王国の血を絶やさぬようにと、必死になって守り抜かれた最後の生き残りというわけだったのだ。


「いつか、ここを再建できればいいですけれど、今は特にこだわりません。まずは私が強くなりませんとね」


 下を向いていたワムは、立ち上がって空を見上げる。雲ひとつもない、実に晴れ渡ったきれいな空が広がっている。


「そのためにはカインさん、私を持って鍛えていだけますか。守っていられるだけお姫様は、もう嫌なんです」


 くるりと振り向いたワムは、それまでにあった弱い少女ではなかった。強い心を持った女性へと成長していたのだ。

 その姿にハッとさせられたカインは、ぐっと表情を引き締めている。


「ああ、いいぜ。だが、お前にどこまでついて来れるかな」


「決意を固めたコボルト族を、甘く見ないで下さいよね。どんなに厳しいものであろうとも、絶対耐えきってみせますから」


 カインとワムは、互いにじっと見つめ合っていた。

 その横では、メイベルがやれやれといった表情で見つめている。


「ここへは、またいずれ戻ってきましょう。今、私がいるべき場所は、ここではありません」


 ワムははっきりと告げると、カインの横へと駆け寄っていく。かと思えば、そのままカインの腕をしっかりとつかんでいた。

 そして、メイベルへと顔を向ける。


「メイベルさんには悪いですけれど、カインさんは私がもらいますからね」


 突然の宣戦布告に、メイベルは面食らってしまう。


「ははっ、言ってくれたわね。別にいいわよ。私とカインは、一緒に旅をしたってだけの仲なんだから。ワムちゃんが欲しいならあげるわよ」


「おい、ものみたいに言うな!」


 二人のやり取りを聞いていたカインは、思わぬ言葉に戸惑っている。

 やれやれと頭をかくカインをしり目に、ワムとメイベルは笑顔で笑い合っていたのだった。

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