最終話
あれから二年の月日が流れた。
「おーい、飯ができたぞ」
「わーいっ!」
カインが声をかけると、バタバタと小さな子たちが小屋から飛び出してきた。
見た目は完全な犬の姿をした二足歩行をする小さな子どもたち。そう、コボルトの子どもだった。
それから遅れることしばらくすると、まだ走れない子を抱えながら、一人のコボルトが出てきた。
「こら、そんなに走らないの。まったく、みんなしてわんぱくなんだからぁ」
見たことのある服装に身を包んだコボルトの女性、そう、それは間違いなくワムだった。
しかし、なぜこんなに小さなコボルトたちがいるのだろうか。
「本当にな。コボルトの子どもってこんな感じなのかな」
「どうなんでしょうね。私は小さい頃をあんまり覚えていませんし」
子どものコボルトたちにもみくちゃにされているのはカインである。ご飯をねだられているらしく、体のあちこちをつかまれて引っ張り回されている。
そんな状態のカインの質問に、ワムは答えられなかったようだ。さすがはコボルトのお姫様というか、ちょっと世間に対して鈍いところがあるようだ。
「コボルトの子どもは人間の倍くらい、成長速度が速いわよ。一歳ともなれば人間の二歳くらいだから、このくらい元気でも不思議じゃないわ」
カインとワムのところにシスイが姿を見せる。どうやら料理を手伝っていたようだった。
「あっ、シスイのおばちゃんだ!」
「わーい、おばちゃんだぁっ!」
「こーら、精霊に向かっておばちゃん呼ばわりとは言ってくれるわね。お姉さんよ、お、ね、え、さ、ん!」
現れたシスイを見るなり、子どものコボルトたちはこぞっておばちゃん呼ばわりである。しっかり即訂正させるものの、コボルトたちはまったく直そうとしなかった。
「もう、言い直さないなら、ご飯を減らすわよぉ?」
「うわーん、横暴だーっ!」
あまりにしつこいものだから、シスイは強硬手段に出たようだった。さすがにご飯を減らされるとなると、食べ盛りの子どもには効いたらしい。
いつものよう繰り返されるシスイと子どもたちのやり取りに、カインとワムはそろって笑っていた。
出会ってからおおよそ二年半が経った。今ではカインとワムはすっかり夫婦である。
そう、このコボルトの子どもたちは、カインとワムの子どもたちだ。ところが、生まれてきた全員が母親似のコボルトである。コボルト族の復活の使命があるとはいえど、まさかのことである。
この状況にはさすがのカインも笑えなかったのだが、ワムとの間に生まれた子たちなので特に気にすることもなかった。むしろ、ワムの目的を早く達成できるようになるかと、納得したくらいだった。
ワムは子どもたちの世話につきっきりなので、基本的に小屋周りのことはカインとシスイの二人でこなしている。
あれから二年半近く経った小屋の周りは、すっかり畑に覆い尽くされていた。人での足りない状況ではあるものの、十分に生活はできるような状態になっていた。
ただ、服とか生活用品とかは、必要に応じてシスイが能力を使って外の街に買いに行ったり、時々訪ねてくるメイベルの手によってもたらされたりしている。
そうやって小屋を訪ねてきたメイベルは、子どもたちを抱きしめているカインやワムを見て、ちょっと悔しそうな表情を見せることもあった。どこかでカインのことを思っていたのかもしれない。
ワムにその辺りのことを気付かれて声をかけられた時には、自分には聖女としての務めがあるからと、自分に言い聞かせるようにして答えていた。そのことにはワムも気が付いたのか、ちょっと申し訳なさそうにしながら、頑張って下さいと応援する言葉を返していた。
魔瘴の森の奥地ということもあり、住民はまったく増えていない。カインたちも増やすつもりはないようだ。その代わり、自分たちの子どもが六人も増えてかなりにぎやかになっている。
人間とコボルトの間の子どもということもあり、最初はそれなりに不安もあったようだ。
ところが、どっちに似たのか、元気いっぱいでしっかり者の子どもたちばかりで、二人とシスイは安心したらしい。まだまだ小さいながらに、母親であるワムの手伝いができるようになってきているようだ。
この分であれば、もう数年もするとこの小屋の周りはまた一段と賑やかになることだろう。順調にいけば、数年後にはコボルトの集落跡地に引っ越すことができるかも知れない。カインとワムは将来について希望が持てると感じるようになっていた。
ただ、メイベルの話では、まだ魔族狩りが活動をしているらしい。夢の実現のためには、自分たちが力をしっかりつけておかないといけないようだ。
だが、今の二人であれば、どんな困難も乗り越えられるかもしれない。
かつて勇者とともに魔王を打ち倒した剣士カイン。
滅ぼされはしたものの、秘めた能力を持つコボルト族の王女ワム。
二人が紡ぐ物語は、まだまだ始まったばかりなのだから……。
―― 完




