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青年と少女コボルトの緩い自給自足生活  作者: 未羊


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第44話 生活基盤を整えて

 翌日、シスイは宣言通り、イストスのところにやってきた。


「お久しぶり」


「なんだ、あの時の嬢ちゃんかい。水の精霊のくせに、よくもまぁこんな土と火まみれのところにくるもんだな」


 シスイが挨拶をすると、イストスはしっかりと覚えていたようだった。


「まぁ、カインたちのためだからね」


「そうか。で、今回は何を買いに来たんだ」


「いろいろね。今から言うものって揃えられるかしら」


「内容によるな。まっ、ここなら大抵のものはそろうから、いってみろや」


 イストスがにかっと笑うものだから、シスイはその挑戦を受けて、必要なものを次々と話していく。

 ところがその量にもかかわらず、イストスはにやりと笑っている。


「おう、任せておけ。お前はここで待ってろ、仲間内で集めてやるからよ」


「ええ、頼むわ」


 イストスが自信を見せるものだから、シスイはその言葉を信じて待つことにする。

 しばらくすると、イストスが自分の工房へと戻ってきた。


「よう、これでいいんだろ」


 次の瞬間、どさどさと物が置かれていく。どうやらこの短時間で、要望したものが全部集まったらしい。

 さすがにこの状況にはシスイも引きつった笑いをするしかなかった。なんでもあるだろうとは思っていたものの、まさかこんなに早く集まるとは思ってもみなかったのだ。


「おっどろいたわね……」


「ふっ、この街はカインたちには世話になってるからな。あいつらのためだったら、なんだって用意してやるってもんだ」


 イストスが言えば、集まったドワーフたちがそろって何度も頷いている。

 あまりの頼もしさに、シスイは参ったという表情を浮かべていた。

 荷物を受け取ったシスイは、すべてを抱えて戻ろうとする。もちろん、ちゃんと代金を支払ってだ。

 だが、かなりの重いために立っていられないらしく、ふらついてしまっている。


「おい、さすがに心配だぞ。水場まで持っていってやろうか」


「え、ええ。お願いするわ」


 結局、イストスたちの助けを借りて、水場まで移動することになった。


「カインのやつにも、またいつかここに遊びに来るように言っておいておくれ。俺たちはいつでも歓迎だからな」


「伝えておくわ。それじゃ、ありがとう、イストス、みんな」


 シスイは最後にお礼を言って、大量の荷物とともに水場に消えたのだった。

 イストスはその姿を実に自慢げに眺めていたのだった。


 沼から姿を見せたシスイは、ふらつきながらカインたちのところに姿を現す。


「い、今戻ったわよ」


「シスイさん、おかえり……きゃあっ?!」


 真っ先に反応したワムが出迎えるが、その姿を見た瞬間叫んでいた。

 その叫び声を聞いたカインが駆け寄ってくる。


「おい、シスイ。なんだ、その荷物は」


「なにって、買い物に行くって言ってたでしょ。なければ作ってもらおうと思ったんだけど、一回で全部揃っちゃったわ」


「いや、だからって全部まとめて持って帰ってくる必要ないだろ。何回かに分ければよかったじゃないか」


「はっ!」


 理由を話したところで、カインから真っ当な指摘が入る。これにはシスイもなんでそうしなかったのかと後悔したようである。

 まったく、シスイもどこか抜けているものである。

 結果として、カインとワムに手伝ってもらい、荷物を下ろすシスイだった。


 それにしても、シスイが買って帰ってきた荷物はかなりの量である。いくら精霊とはいえ、よく持てたものだ。

 買って帰ってきたものの半分くらいは、カインもワムも知らないものばかり。一体どういう風に使うのか、シスイに尋ねて回る始末だ。


「これは石臼ね。収穫した小麦を引いて粉にするものよ。こっちは収穫用の鎌に、調理用の包丁」


 その一つ一つに、シスイは丁寧に答えていた。だいぶ知識を持っているとは言っていたものの、本当に物知りでカインもワムも驚かされている。

 ひと通り説明を終えたシスイは、試しにパンを作るために小麦の一部を収穫する。

 水でふやかして外皮と中身を分離させ、それを石臼で挽く。ごみを取り除くためにふるいにかけて小麦粉を作っていた。


「さぁ、これで最低限の準備が整ったわ」


 シスイは荷物の中からボウルを取り出して、そこにお試しで作った小麦と自分の魔法で出した水を入れると、じっくりとかき混ぜ始める。

 何を作っているのだろうかと、カインとワムは興味津々である。


「カイン、そこら辺の草を窯の中に入れて火魔法で燃やしてくれない?」


「ああ、分かったよ」


 シスイに言われた通りに、昨日作った石窯に火を入れるカインである。

 小麦粉に水だけを混ぜてこね合わせたものだから、実にシンプルな感じではある。それを丸くしてから少し平らにして潰し、程よく空気を抜いていく。


「さぁ、焼くわよ」


 普通なら発酵とかいろいろあったりするものだが、そこは精霊の不思議。これだけでもう焼きに入るらしい。

 窯に放り込んでしばらく待つ。


「こんなものかしらね」


 見ていたシスイが、窯から焼き上がったものを取り出す。


「さぁ、どうかしらね。初めての収穫で作ったパンは」


「これが、パン?」


 さすがにカインが顔をしかめている。


「なによ、要らないんなら食べなくてもいいのよ。あたしはパン職人じゃないし、材料も不足してるんだからしょうがないでしょ」


 カインに嫌そうな顔をされて、シスイは不満そうだ。

 とにかく食べてみなさいと、シスイは無理やりカインの口に焼き立てのパンのようなものを突っ込んでいる。


「熱っ! あ、でも、意外といけるな」


「どうよ。これが精霊パワーよ!」


 カインの表情が明るくなる様子を見て、シスイはドヤ顔を決めていた。

 ワムも口に入れるものの、さすがに熱かったらしく、口に入れた直後はちょっと悶えていたようだ。


「とりあえず、これで少しは食生活はマシになるでしょうね」


「ああ、そうだな」


 実に適当に作られたパンを食べながら、カインたちは自分たちの畑へと向き直る。

 目の前に広がる光景に、自分たちの生活が充実していくことをしみじみと感じているのだった。

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