第41話 再出発
夜が明けると、メイベルは再びカインたちの元を去っていった。世の中には困っている人たくさんいる。その人たちを救うのが自分の役目だといって。
メイベルの後ろ姿を見送りながら、ワムはなんだか寂しそうな顔をしていた。
「どうした、ワム」
カインに声をかけられたワムは、ちょっと泣きそうな表情を浮かべている。
「そっか。だいぶメイベルに気をかけられていたからな。やっぱ、寂しいか」
「はい、そうですね」
カインの質問に、ワムは少し涙声になっていた。
「そっか……」
ワムのことを思ったのか、カインは短く言葉を返していた。
二人はそのまま、メイベルが立ち去っていった方向を眺め続けていた。
その場にはシスイもいたのだが、なんとも気まずい感じになったらしく、そそくさと一人だけその場を離れていった。
しばらく黙り込んでいた二人だったが、ワムが下を向いたままカインに声をかける。
「ねえ、カインさん」
「なんだ、ワム」
声をかけられたカインは、ワムの方に視線を落としている。
「私がみんなにできる恩返しって、なんですかね」
下を向いたままのワムが問いかけている。声が震えているので、まだ涙を流しているのだろう。
「そりゃ当然、答えはひとつだ」
カインは右手を腰に当てて、前を向いたまま答える。
「それってなんですか」
「お前が無事に生き続けることだよ。みんな、お前を守るために散ったんなら、最後まで生き延びることこそが、最高の恩返しだ」
「そう、ですか……」
前を向いたまま、カインは真面目なトーンで答えている。一方のワムは、下を向いたままだ。
カインはその姿を見て、何かを察したようだ。
ワムの隣に移動して、その頭に左手を置いている。
「わっ!」
急に上から押さえつけられたものだから、ワムは慌てたような声を出してしまっている。
「もし、自分を非力な存在だと思っているのなら、すぐにでもやめることだぜ」
カインの言葉を聞いて、ワムは再び黙り込んでしまう。
「お前は何もできないやつじゃない。畑仕事だってできるし、剣を振り回すことだってできる」
ワムの反応はないものの、カインは返事を待つまでもなくしゃべり続けている。
「それにだ。お前は俺とガラックの戦いの中で、何回か助けてくれただろ。あれがないと、俺はきっと最悪死んでいただろうからな」
「……」
ワムは黙り続けている。
カインはワムの方へと視線を向けると、しゃがみ込んでその目の前と移動する。
「わあっ!」
にゅっとカインの顔が現れたものだから、ワムは耳としっぽをピンと立たせるほどに驚いている。
「か、カインさん……」
声は怯えるような感じなのに、表情としっぽは明らかに警戒しているようだ。相当びっくりしたものだと思われる。
ワムの様子を見たカインは、顔をほころばせている。
「うん、少し元気になったな。昨日の話でちょっくら辛気臭くなってたが、そんな表情ができるなら安心だ」
カインは立ち上がり、再びワムの頭に手を置いている。
「ぶっちゃけていうと、俺もワムには助けられたようなもんなんだよ」
「私が、カインさんを?」
「ああ」
疑問があるというような表情を浮かべているワムに対して、カインは笑顔で話をしている。
「いろいろと話しただろう? 俺は勇者殺しの嫌疑をかけられて、殺されかかってた。それで、世の中のなにもかもが嫌になってたんだよ。生きているようで死んでいるような、そんな生活を送ってたんだ」
カインのこれまでの話がいきなり始まる。一応聞いたことのある話なので、ワムは黙って聞いている。
「そんな時に、魔族狩りに襲われているお前を見つけた。無気力なままだったら、そのまま見過ごしていただろう」
ワムから視線を外し、どこか遠くを見つめるような表情をしている。虚空を見るかのようなその視線は、どことなくはかなげである。
「だが、どういうわけか、俺はお前を助けるために動いちまったんだ。そのおかげで、俺には生きる目的ができた。多分、あいつが散々言っていたことの影響を受けたんだろうな」
再びワムの顔を見たカインは、はにかんだ笑顔を見せている。どこか恥ずかしいといった感じだ。
ここでカインが言っているあいつとは、おそらく一緒に旅をしていた”勇者”なる存在のことだろう。
魔王を討伐すると同時に、跡形もなく消えてしまった勇者。その影響は、まだしっかりと残っているというわけだ。
「ガラックの件では不覚を取ったが、もうあんな無様なことにはならねえ。約束するぜ」
「カインさん……」
カインは右手を強く握りしめながら、ワムに誓っている。
まさかのカインの言葉に、ワムは目を見開いて驚いていたが、ワムも負けじと表情を引き締めている。
「そうですね。と言いましても、私だって守られているだけでいるつもりはありません。先ほども言われましたが、生き延びることがみなさんへの恩返しとなるのであるならば、私は強くなってみせます。心も、体も!」
ワムの方は両手をぎゅっと握りこぶしにして、しっぽを左右に素早く振りながら気合いを入れていた。
「なので、畑仕事もそうですが、剣も魔法も、どんどんと教えてください!」
「おう、その意気だ。ならば、俺も手加減はできねえなぁ」
「どんとこいです!」
真剣な表情を向け合った二人は、突然大声で笑いだす。
急に笑い出すものだから、気まずそうにその場を去っていたシスイが戻ってきた。
「剣も魔法もいいけれど、そっちもちゃんとできるようになってもらわないとね」
シスイは呆れた顔を見せながら、畑の方を指差している。
この魔瘴の森で暮らすと決めた以上は、すべてを現地調達する必要があるのだ。なので、畑はきちんとできるようになってもらわないと困るのだ。
「もちろんだ。よし、ワム。早速、世話を始めるぞ」
「はい、カインさん」
カインの呼び掛けに元気に返事をしたワムは、その後を追いかけていく。
元気そうな姿を見せる二人を見ながら、シスイはやれやれと思うのだった。




