第40話 安心をその手に
剣を作ってもらったとはいっても、しばらく出番があることはなかった。
カインたちは畑を耕して、小麦などを育てている。
ガラックの襲撃から八日が経過した時だった。
「戻ったわよ」
「おお、メイベル。どうだった」
わけあってカインたちのところから離れていたメイベルが、森に一度戻ってきた。どうやら、カインたちに何か伝えることがあるらしい。
カインとワムは畑の作業の手を止めて、やってきたメイベルを見ている。
「指名手配だけど、うまく外すことができたわ」
「おお、やってくれたな、メイベル」
そう。メイベルは森までやってきて襲撃をかけてきたガラックたちを連れて、冒険者ギルドでカインとワムの討伐を報告させたのである。
メイベルが同行したのには訳があって、ガラックの強さからいって、かけておいた記憶操作が解ける可能性があったからだ。そのかいあって、討伐をきちんと報告させて、掲示板に貼ってあった賞金首の掲示をはがすことに成功したのである。
通常ならば討伐部位の提出というものが必要なのだが、ガラックが勢い余って砕いてしまったということでごまかしておいた。冒険者ギルドの方もガラックの実力を知っているので、その証言を信じたようなのである。
こうした努力の結果、カインとワムに関する指名手配は外れ、晴れて二人は自由の身となったのである。
「いや、メイベル。本当にありがとうな」
「大したことじゃないわよ。カインは苦楽を共にした仲間だもの、当然でしょ」
カインが全身で喜びを表現していると、メイベルはなんだか照れくさそうに話をしている。
話の中で、今度はワムへと視線を向ける。
「魔王を倒したことで、魔族たちと無条件で殺し合うような時代は終わったと思ったんだけどね。一方的に魔族を殺し続ければ、いずれまた新たな魔王が出てくるかもしれない。はぁ、人間って本当に愚かよね」
「俺もそう思うぜ」
「カインさん、メイベルさん……」
ワムを見た後でため息を吐くものだから、ワムはどう反応していいのか困っているようだ。その様子に気が付いたシスイが間に割り込んでくる。
「はいはい。ワムを困らせるんじゃないの」
「わわっ、シスイさん!?」
急に割り込んで来たかと思ったら、シスイは振り返ってワムに抱きついている。突然すぎて、ワムは大慌てである。
「そんなことを言いながらワムを見たら、ワムにそんな風になれって言っているようなものよ。少しは気を遣ってあげなさいよ」
「あっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったのよ」
「そういえば、集落を全滅させられてたんだったな。俺もまったく無神経なことをしちまった。ワム、悪かった」
二人にお説教したかと思うと、ワムを話して背中側へと回り込んでいる。
シスイに指摘されたカインとメイベルは、そろってワムに頭を下げている。
「お、お二人とも、頭を上げて下さい。わ、私はそんなことを考えていませんし、感謝はしても恨むなんてことはしませんよ」
ワムもワムでかなり混乱しているようである。取り乱しながらカインたちに声をかけている。その様子を見ていたシスイが、おかしそうに笑い始める。
「おいこら、シスイ。お前は笑いすぎだぞ」
「いや、なんていうかね。あはははははっ!」
カインが怒っているものの、シスイはお腹を抱えながらずっと笑っている。
もうなんだか収拾がつかなくなってしまい、ワムとメイベルは怒るカインと笑うシスイの様子を、黙って見守るしかなかったようだった。
この日はメイベルは泊まっていくこととなり、夜は四人でそろって食事を取ることになった。
その際、メイベルは小屋の中で不思議なものを見つけた。
「あら、これって……」
「はい。カインさんとシスイさんが私のために用意しくれた剣です。イストスさんという方の作品だそうですよ」
「ああ、あの偏屈おじさんね。カインの頼みだから聞いてくれたのかしら」
「あっ、メイベルさんもご存じなんですね」
剣を手に持って確認しながらメイベルは話をしている。メイベルも知っているということを知って、ワムはびっくりしているようだ。
「当然よ。私も聖女の力を補助するために杖を作ってもらったもの。聖女の力も魔法と同じで、使い続けるには限界があるの。それを少しでも引き延ばすためにね」
「そうなんですね。そんなすごい方だと聞いたら、とても会いたくなりました」
「……いずれ会わせてあげるわよ。ただ、今はその時じゃないわ。せっかく追手が来ないようにしたばかりなんだから」
「あっ、はい……。そうですね」
メイベルにも武器を作っていたと知って、ワムはがぜん興味がわいたようである。
ところが、メイベルはワムを抑止する。その理由は本人が言ったとおりである。
指名手配が出ていたものを、苦労して取り下げさせたばかりなのだ。ここで姿をさらすようなことがあっては、再び手配されてしまう。せっかくの苦労が水の泡になってしまうのだ。
ワムは落ち込んでしまうが、これは仕方のないことなのだ。
「外のことは私やシスイ任せて、ワムちゃんはここでカインと一緒に暮らしていてね。きっと、また自由にできる時が来るでしょうからね」
「はい、分かりました」
メイベルにしっかりと言われて、ワムはこくりと頷いていた。
この日の夜、メイベルはワムと一緒に眠ってあげることにしたのだった。
仲間を失ったコボルトが、少しでも前向きに過ごせるようにと。




