第39話 でき上がった剣
それから数日後、イストスに頼んでいたワム用の特別な武器と修繕されたカインの剣が、シスイの手によって二人の手元にやってきた。
「はい、カイン。ボロボロになっていた剣よ。イストスから『こんなになるまで使っているとはけしからん。今度からはこまめに修理に持ってこい』って怒られたわよ。まったく、動けないあんたのために代理でいったのに、なんであたしが怒られなきゃいけないのよ」
「ああ、悪かったな、シスイ。とはいえ、俺はまだ動けないからな。これからもお前に頼らざるを得ないな」
「はいはい。まっ、あたしも外の世界を見られるとあって楽しんでるからいいとするわよ」
文句を言いながらも、シスイは剣をカインに手渡す。
鞘に入った状態から抜くと、刃こぼれも見られた剣はすっかり見違えるほどにきれいになっていた。
「そうそうこれこれ。魔法銀製の剣で俺の手にすっごくなじむんだよな。まったく、イストスのおっさんは天才鍛冶師だよ」
「本当にきれいになったわね。で、そっちの剣は何もしなくていいの?」
剣をくるくると返しながら、その見事な輝きに、カインはほれぼれしている。
そんな嬉しそうなカインを見ながら、シスイは背中に背負っている剣の方のことを聞いている。
「ああ、こいつはお前も知っているだろう。勇者が持っていた剣だ」
「ええ、そうね。あたしが正気に戻った要因の一つだもんね。まったく、バッサリ斬られたのになんともないって変な剣よね」
「そんだけ、お前が悪いやつじゃなかったってことだろ。あいつは正しき姿に戻す剣だって言ってたからな」
「ふーん」
カインの話している内容に、あんまり興味が内容な様子を見せているシスイである。
「あの……。その勇者という方について、詳しくお聞かせ願ってもよいですか?」
二人の様子を見ながら、ワムが恥ずかしそうに話しかけてきた。
「ああ、悪い。渡すものがあるからって呼んだまま放っておいて悪かったな」
ワムが話し掛けてきたので、すっかり放っておいたことをカインは謝罪している。
カインがシスイに視線を向けると、ハッとした様子でシスイは持っているものをカインへと渡す。
シスイから物を受け取ると、カインはワムへと近付いていく。
「ワム、君に渡すものがあるんだ。受け取ってくれるかい?」
「えっ、何をですか?」
カインが話し掛けると、ワムがびっくりしている。その顔を見たカインは、包んでいる布を取り払う。
中から出てきたのは、ちょっと細身の剣だった。
カインはすっと鞘から出して、ワムに剣を見せている。
「君用に作ってもらった剣だ。まさかサーベルとは思わなかったが、イストスのおっさんは注文の向こう側に君の姿が見えていたのかもな」
「わわっ。なんてきれいな剣なんですか。つ、使うのがもったいない気がします」
目の前の細身の剣を見ながら、ワムは驚いている。そして、カインが持っている柄の方へと視線を向ける。柄にはいくつか宝石のようなものが埋め込まれているのが見える。
「そ、その柄は?」
ワムはカインに尋ねている。
「ああ、これか? シスイ、説明してもらっていいか?」
「いいわよ。その剣について詳しく話すわ。ものすっごく長かったけど」
カインから話を振られたシスイは、なんとも嫌そうな顔をしている。
それというのも、剣を受け取る時にイストスから説明を長々とされたからだ。
いろいろと自慢が混ざっていたみたいで、それでシスイは嫌そうな顔をしているというわけだった。
「へぇ、魔法の杖にもなる剣なんですか……」
ワムの素直な感想はそれだった。
シスイはイストスの話した内容からうまくかいつまんで話をしたらしい。それでもとっちらかりだったのだが、ワムは相当に頭がいいらしくてしっかりと理解していた。
やはり、ただのコボルトではないようだった。
手配書を見たシスイ、故郷に実際に足を運んだメイベル、そして何よりワム本人から詳しい話を聞いていないカインは、ワムに対して改めて興味を持ったようである。
「そう。この柄にあるのが魔法使いもよく使う、魔力を増幅させたり、安定させるための宝石なのよ。もちろん、壊れたからって魔法が使えなくなるわけじゃないわ。それは、あたしたちも当然だけど、ワムが一番よく知っていることでしょう?」
「はい、そうですね。でも、大切に使わせていただきます」
「うん。いい子ね、ワムは。カインにはもったいないわ」
「なんの話だよ」
ワムと話をしているはずなのに、唐突な流れ弾にカインはものすごく不快感を示している。怒るカインの姿を見ながら、シスイはにししと意地悪く笑っている。
二人の間のちょっとした険悪な雰囲気に、間にいるワムはあたふたしてしまっている。
「えと……えと……、お二人とも仲良くですよ!」
何を思ったか、ワムはそう言いながら二人の間に割って入る。
あまりにも唐突なことだったがために、カインもシスイもまったくもって反応できないくらいに驚いていた。
行き過ぎてしまったワムが、瞳をうるうるとさせながらカインとシスイの顔を見ている。そのあまりにも可愛い表情に二人とも思わず顔を押さえてプルプルと震えてしまっている。
「えっ、えっ……」
予想もしていなかった反応にワムはものすごく戸惑っている。
「うん、悪い。可愛すぎるぞ、ワム」
「本当にね。コボルトってこんな魔族だったっけ?」
シスイの余計なひと言で険悪になりかけたのだが、ワムの思いがけない行動によってすっかり雰囲気はよくなったようである。
純粋過ぎるコボルトの存在は、どうやらかなりの影響力がありそうだった。




