第4話 どこへと向かうのか
カインは、ワムを連れて誰も来ないような場所を目指して旅を続ける。人と出くわすわけにはいかないので、道なき道を進んでいくような感じになってしまう。まさに冒険という感じだ。
だが、そんな危なっかしい道を進んでいくというのに、ワムは特に文句も言うこともなく、カインを信じてついてきていた。
進む間、お互いのことはまったく聞こうとしなかった。まるでお互いの事情を察したかのように、触れないでおこうとしているようだった。
何日か経った日の夜のこと、野宿をしているとワムはカインに対して声をかける。
「あの……」
「何かな?」
おそるおそるという感じだったが、カインはすんなりと反応をしている。
「いえ、どちらへと向かっているのかと思いまして……」
とうとうワムは、行き先が気になりだしたようだった。
ここまで黙っていたとはいえ、あまりにも道が険しかったのか、心配になってきてしまったようなのだ。
いくら人目を避けるためとはいえ、コボルトとはいえども、少女には厳しかったのかもしれない。
「すぐにわかるさ。特に魔族である君なら、ね」
カインも気持ちは察したようだが、はっきりとは答えなかった。それだけでも疑問がわくというのに、魔族であるなら分かると言われては、ワムはさらにわけが分からなくなった。
でも、自分を助けてくれた人なのだからと、ワムはそれ以上の質問をすることはなかった。
やがて、ワムはすーすーと寝息を立てて眠ってしまう。
やはり、少女には厳しいのだろうか、相当に疲れているようにも見える。
「……眠ったか」
毛皮をかぶって眠るワムを見つめながら、カインは火の番を続けている。
人の目を避けて進んできたとはいえ、いや、人の目を避けたからこそ、別の脅威が周囲に渦巻いている。だからこそ、簡単には眠れないのだ。
「うう……、お父さん、お母さん、みんな……」
そんな中、ワムは寝言を言いながら、涙を流している。
おそらくは、逃げていた時のことを思い出しているのだろう。
「まったく、可哀想にな。魔族狩りに遭ったがために、仲間を殺されたんだろう……。いくら魔王に苦しめられてきたからとはいえ、勇者が討伐したからといって、こんな仕打ちをするなんてな」
カインはワムの涙をぬぐいながら、自分が持っている剣へと視線を落とす。
魔族狩りをしていた連中もこの剣に反応していたあたり、ただの剣というわけではなさそうだ。
「ふわぁ……」
しばらくして、さすがのカインも眠くなってきてしまったようだ。
さすがにまったく寝ないというわけにはいかない。
カインは持っている剣を鞘に入れたまま持ち上げると、自分の隣の地面に思いきり突き刺している。
「……これでよしっと」
地面に剣を刺すと、カインは安心したかのような表情を浮かべる。
「俺も眠るから、その間、頼むぜ」
剣に軽く手を触れると、カインは毛皮にくるまってそのまま眠りについたのだった。
目を覚ましたカインたちは、再び移動を始める。
だが、二人の行く手を魔物たちが阻むようになってきた。
「きゃああっ!」
ワムは出くわす魔物たちに完全に怯えてしまっている。彼女はこの辺りの魔物を見たことがないのかもしれない。
だが、カインは怯えるワムを守るように、魔物たちを持っている剣でザクザクと斬り捨てていく。
「大丈夫かい、ワム」
「は、はい。カインさん、お強いのですね」
「まぁな。このくらいの魔物なら、結構な数を倒してきたからな」
カインに声をかけられると、ワムは目を丸くして驚いていた。
ここまでも魔物には何度となく襲われてきたものの、そのすべてをあっさりと倒してきてた。だが、今回はかなり数もいたというのに、それをもものともせず、簡単に倒してしまっていた。だからこそ、ワムは驚いているのである。
あまりの強さに、耳をぴくぴくとさせながら、しっぽを大きく揺らしている。
「しかしまぁ、さすがに目的地も近くなってきて、魔物が増えてきたな。まったく、ここは相変わらずといった感じだぜ」
「も、目的地? カインさん、ここには来られたことがあるのですか?」
「ああ、だいぶ前にだけどな。あの時は一人じゃなかったから、もう少し楽だったな」
「えっ、えっ?」
カインの話がよく分からずに、ワムはものすごく戸惑っている。
なにせ、強い魔物たちがうろついている場所を指して、目的地が近いとか言っているし、以前は楽だったなんて言い始めたからだ。まるっきり理解できた内容ではなかった。
あまりにも混乱しているようなので、カインはワムの頭に手を置いて声をかける。
「俺と一緒にいれば大丈夫だからな。とにかく安心してくれ」
「は、はい……」
くしゃりと撫でられると、ワムは不安はあるものの、不思議と気持ちが和らいでいた。
そのような状況の中、カインたちの目の前にはなんとも不気味な森が見えてきた。森全体から黒い霧のようなものが漏れ出している。
「あそこが目的地だ」
「えっ、あの見るからに恐ろしそうな森がですか?!」
カインが目的地なんていうものだから、ワムは耳を垂れさせながら慌てた様子でカインに尋ねてしまっている。
「ああ、通称『魔瘴の森』と呼ばれる場所だな。そういう場所だから、人間たちはあんまり近づくことはない。隠れ住むにはちょうどいい場所なんだ」
「え、えええ……」
にこやかにカインは話すものの、さすがにワムは怯えてしまっている。
だが、カインは進もうとしている。
「とにかく、今は俺のことを無条件で信じてくれ。絶対に悪いようにはしないからな」
カインは少し進んだところで、ワムの方へと振り返っている。
目の前の場所の恐ろしさにワムは腰が引けてしまうが、あまりにもカインが自信たっぷりに言うものだから、きゅっと覚悟を決めている。
「分かりました。カインさんを信じます」
ここまで来たからには引き返せない。
そのような状況もあって、ワムはカインとともに進むことに決めたのだった。




