第36話 恨みを抱く男
カインとワムを見つけた男は、急に大声で笑い始める。その姿はなかなかに気持ち悪いとしか言いようのないものである。
「くそっ、なんだってガラックのやつがいやがるんだ」
「私が聞きたいわよ。森に着いた時、まだかなり遅れていたはずなのに、なんで追いついているのよ」
「なんだって?!」
メイベルの言葉を聞いた時、カインはかなり驚いていた。
一部分はシスイの力で瘴気が薄まっているとしても、ここにたどり着くまでにはかなり瘴気の濃い場所も通ってこないといけない。目の前の、カインがガラックと呼んだ男は、そのような場所もあっさりと潜り抜けてきたということになる。
「ふへへへ……。お前らは俺の斧の錆になるんだ。さぁ、さっさとくたばってもらうぜ」
ガラックがゆらりとカインたちに近付いていく。あまりにも不気味な姿に、ワムは怖くなってカインにしがみついてしまう。
ワムにしがみつかれたカインは、持っている剣をしっかりと構えている。
「ちょっと、聞いていいかしら」
ガラックの気を逸らすために、メイベルが声をかけている。
「なんだ。命乞いなら聞かねえぜ」
「あなたと一緒にいた連中はどうしたの?」
「ああ、あいつらか」
メイベルの問い掛けに、ガラックは首を傾けながら反応している。
「あいつらなら、足がとれぇから置いてきてやったぜ。今頃、魔物の餌にでもなっちまってんじゃねえかな」
「あんたってば……。依頼主を置いてきたっていうの?」
「ぎゃははははっ! そんなの関係ぇねえなぁ。お前らをぶっ殺して伝えてやりゃあ、そっちの報酬がたんまり入るんだからよぉ」
「こ、こいつ……」
完全に常軌を逸したような表情を浮かべたガラックに、メイベルは歯を食いしばりながら鋭い視線を向けている。
「きしししし……。こいつらをやりゃあ、お前さんもたーっぷり遊んでやる。そこでおとなしく見ているんだな」
「きゃああっ!」
ガラックはそういうと、斧を思いっきりぶん回している。放たれた衝撃波を防御するも、その威力にメイベルは吹き飛ばされてしまう。
「メイベルさん!」
あまりのできごとにワムが叫んでしまう。
ところが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
「来るぞっ!」
「えっ?!」
次の瞬間、カインが叫ぶ。
その言葉の通り、メイベルを排除したガラックが、カインたち目がけて襲い掛かっていた。その動きは思ったよりも速い。
「シスイ!」
「ワムのことは任せて」
カインが大声で名前を呼ぶとシスイが出てきて、ワムをカインから引き離す。
自由に動けるようになったカインが、キッとガラックを睨みつける。
ガキンッ!
ガラックの振り下ろした斧を、カインの持っている剣で受け止める。
「ひゃっはははっ! この俺の一撃を受け止めるか。やっぱおめえはすげぇなぁ、カイン」
「くそっ。あの時からただものじゃねえとは思っていたが、まったくとんでもねえ力だよな、ガラック」
「ふん。この俺様を一行から外したことは、まだ恨んでいるぜぇっ! お前と会える日を、どんだけ楽しみにしていたことか!」
歪んだ笑顔を見せながら、ガラックは持っている斧にさらに力を込めていく。
この辺りの魔物をあっさりと倒してしまうようなカインですら、この時のガラックの攻撃は受け止めるのが精一杯である。どれだけ強い力を持っているのだろうか。
「メインの目的はあのコボルトだが、あんな怯えた無力なガキに興味はねぇ。お前さえぶっ殺しゃあ、あとはおまけみたいなもんだからな。まずはお前から、恨みを込めて八つ裂きにしてやるぜぇっ!」
「ふん、やれるものならやってみろ。返り討ちにしてやるっ!」
斧を押し込みながら愉悦にあふれた表情をするガラック。
カインの方は苦しそうな表情をするものの、そんな状況でも弱い姿を見せられるわけもなかった。なにせワムが見ている。彼女に不安を与えまいと強がっているのだ。
とはいえど、かなり押し込まれてしまっているので、はっきり言ってカインはつらい状態にある。この状況からどうやってひっくり返そうというのか。シスイとワムは、心配そうにカインをじっと見守っている。
「まったく、これは私の、落ち度ね……」
「メイベル?! 大丈夫なの?」
カインたちを見守るシスイたちのところに、体を引きずるような形でメイベルがやってくる。
先程ガラックから放たれた衝撃波を食らった影響で、少しばかり傷を負っているようだ。
「大丈夫よ、私は聖女だから、自分のケガも治すことはできるわよ。でも、今はカインのことが心配だわ」
メイベルはこれ以上の心配をかけないように強がりながらシスイたちに声をかけている。
「あのガラックという男は、魔王との戦いにおいて、一緒に戦うこともあり得た人物なのよ。勇者が断ったがために共闘することはなかったけれど、当時から実力自体はかなりあった人物よ」
「な、なんですって。じゃあ、この戦い、カインに勝ち目って……」
「ない可能性もあるわ。私の後をこんな完璧に追ってこられるだけで、明らかに異常な話だもの」
メイベルがちらりと過去の話をすると、シスイとワムは驚いてカインの方へと視線を向ける。そこではカインがガラックの斧に押し込められている姿があった。
「カインさん……」
その劣勢に、ワムは心配になって胸の前で手を強く握り込んでしまう。
あまりにも厳しい状況だ。はたしてカインはガラックを退けることができるのだろうか。




