第34話 忍び寄る脅威
時を同じくして、怪しげな一団が魔瘴の森へと向けて移動を始めていた。
それは、メイベルが出向いていたコボルトの集落跡地へとやって来ていた怪しい一団だった。
「兄貴、本当にこっちでいいんですかね」
「先生がこっちだっていうんだから、間違いねえんだよ。俺たちは、黙って同行するだけなんだよ」
実にガラの悪い姿をしている男たちは、先生と呼ぶ人物について行っている。
ただ、その向かっている方向について、男たちは冷や汗が止まらない。
なにせ、男たちが先生と呼ぶ男が向かっている方向は、冒険者の中では知らないものはいないという恐ろしい場所なのだから。
歩き続けて日が暮れると、男たちはさっさと野宿の準備を始める。
木の枝を拾い集め、火を起こし、食事の用意を始めている。
食材はちょっと前に襲ってきた魔物だ。タイミングよく食材が転がり込んできたので、男たちはやる気十分である。
ガラの悪い男たちが動き回る中、先生と呼ばれている男だけがじっと座り込んで動かないでいた。まるで何かに警戒しているように、まったく動きがないのである。
「先生、この先は魔瘴の森っていう危険地帯ですが、本当にこっちで合ってるんですかね」
ガラの悪い連中のリーダー格の男が、先生と呼んでいる人物へと声をかけている。
「ああ、間違いない」
先生と呼ばれた人物はぽつりと答える。
ところが、ガラの悪い男は、その言葉が信じられないのか、疑うような目を向けている。
「なんだ? この俺が信じられねえっていうのか?」
「あっ、いや。そういうわけじゃねえですよ……。ただ、魔瘴の森ってところが、あんまりよくないはなしばっかり聞くんで、その……」
先生と呼んでいる男からぎろりと睨みつけられると、リーダー格の男はすっかりおどおどとしてしまっている。目の前の男から放たれる気配に、とても耐えきれないようなのである。
コボルトのような弱い魔物にはずいぶんと勢いよく強気に向かっていくというのに、ずいぶんと情けない話だ。
「ふん。怖えっていうんなら、ここで帰って家で寝んねしな」
「いや、だ、誰が怖いもんですかい。先生がいれば百人力ですから、な、なにも恐れるものはないってもんですよ!」
鼻で笑われたものだから、ガラの悪いリーダー格の男は一生懸命虚勢を張っている。その姿を見て、先生と呼ばれた人物はもう一度嘲笑している。
さすがにプライドが傷ついただろうが、相手が手練れゆえにリーダー格の男はまったく何も返せなかった。
「無駄話はこのくらいにしておけ。お前もさっさと他の連中と一緒に野宿の仕事をしておけ。この場の警戒は俺一人で十分だ」
「へ、へい……」
男に言われたリーダー格は、すごすごとその場を去っていった。
一人となった男は、向かう先に視線を向けながら、ずっとにやにやと笑っている。ただ、それは魔瘴の森方向を見てのことではなかった。
(ふっ、さっきからずっと後をつけてきている奴がいるな。なにもんかは知らねえが、放っておけば面白いことになりそうだと、俺の勘が言っている。くくくっ、せいぜい俺を楽しませておくれよ?)
先生と呼ばれた男は、どっしりと座りながら不気味な笑みを浮かべているのだった。
その男が気を向けている方向には何があるのか。
悟られないようにとかなり距離を空けたその場所には、聖女であるメイベルが一人で野宿をしている。
そう、ガラの悪い連中が先生と呼んでいた男が気にかけていたのは、このメイベルのことである。
なぜメイベルがこの男たちを追いかけてきているのだろうか。
(動かなくなったわね。どうやら、今日はもう野宿をするみたいね。それにしても、この方向は魔瘴の森の方向だわ。あの男、あの場所に残った痕跡から、正確にワムちゃんの方向を割り出したっていうの?)
メイベルは軽く夕食を取りながら、ずっと先の方にいる男たちのことを睨みつけているようである。
それにしても、メイベルの様子からするに、どうやらメイベルはあの先生と呼ばれる男について何かを知っているようである。そうでもない限り、このように後を追うようなことはしないだろう。
(それにしても、まさかこんなところで出くわすことになるとはね……。魔王討伐の旅の真っ最中以来だわ、あいつに会うのは)
鋭い視線を向けながら、メイベルは嫌なことでも思い出したかのように、ぎりっと歯を食いしばっている。どうやら、少なからず因縁はありそうな様子だ。一体、過去にどんな因縁があったというのだろうか。
(とりあえず、あのまま魔瘴の森に向かうというのであれば、私はカインたちに知らせる必要があるわね。そうなった場合、どうにかしてあいつらより先に行かないといけないわ。でも、私の足でそれは可能かしら……)
メイベルがなにやら不安を感じているようである。ということは、あの男はそのくらいの実力はあるということなのだろう。
不安になっていくメイベルは、食事をさっさと終わらせる。
「よし。魔法を駆使してでも、あいつらより先にカインたちと合流して、このことを知らせるわ。なんとしても対策を取れるようにしなきゃ」
決意を固めたメイベルは、移動に備えてとりあえず今は休むことにする。ここからはおそらく休めないだろうから。
魔法で結界を張ったメイベルは、先行く男たちよりも先にカインたちと同流するために、しっかり備えることにしたのだった。




