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青年と少女コボルトの緩い自給自足生活  作者: 未羊


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第30話 少女コボルトはやる気十分だ

 メイベルがコボルトの集落を訪れていた頃も、カインはずっとワムに剣の稽古をつけている。

 最初に比べれば、少しは素振りも長く行えるようになり、体の芯もぶれなくなってきている。この辺の身体能力の高さは、さすがコボルトといったところだろう。


「よし、ワム。そこでストップだ」


「えっ?」


 五十回の素振りを難なくこなしたワムは、剣をぴたりと止めて、きょとんとした顔でカインを見つめている。

 最初は二十回の素振りですら息を乱していたのに、現在では五十回でもまったく息切れをしていない上に、その動きをぴたりと止められるほどになっている。なんとも見違えるほどに成長したものである。

 そんなワムの姿を見たので、カインはちょっと次の段階に移ろうと考えたのだ。


「ワム、俺とちょっと打ち合ってみないか?」


「ええっ、カインさんとですか?!」


 カインが白い歯を見せながら親指で自分を指しながら話すと、ワムはものすごくびっくりした顔をしている。ぎゅっと木の棒を握りしめて、少し顔をカインへと近付けながらである。


「あんたねぇ……。そんな子どもになんてこと言ってるのよ。勇者がいたとはいえ、魔王すらも倒してしまった男と、見るからにまだ子どもみたいなコボルトとの間で勝負になると思ってんの?」


 二人の様子を見ていたシスイからは、露骨に嫌な表情をされながら、カインは文句を言われている。

 ところが、この時のカインは、なぜかとても楽しそうな表情をしていた。素振りを続けてきたワムに、何かを感じ取ったのだろう。

 文句を言うシスイを無視して、カインはじっとワムを見ている。

 これは、自分が何か言わないといけないと感じたワムは、木の棒を握りしめたまま、カインと木の棒との間で視線を移動させながら考え込んでいる。


 しばらく考え込んでいたワムは、再び木の棒を握る手に力を込めると、顔を上げてカインをじっと見つめる。


「はい、お願いします!」


 しっぽをゆっくりと振りながら、ワムははっきりと答えていた。

 ワムの答えを聞いたカインは、とても満足そうに笑っている。


「あーあ……。カイン、泣かせないように手加減しなさいよ」


「ああ、最初だしな」


 シスイがぶすっとした表情で、肘をつきながら声をかけている。

 カインはシスイに目を向けることなく、手を軽く振りながら答えている。

 そんな態度を見せるものだから、シスイはますます不機嫌になっていた。まるでいないように扱われたら、怒って当然だろう。

 とはいえど、目の前で起きることに興味がないわけではなかった。

 なにせこのワムは、コボルトにありながら高い魔法適性を示していた。その上、カインから言いつけられていた素振りも、毎日のように続け、五十回をこなした上で平然としているのだ。ただのコボルトというにしては、なんとも引っかかるところが多いというわけである。


「それじゃ、ワム。今日の条件を言おう」


「えっ、じょ、条件?」


 カインが言い出した条件という言葉に、思わず戸惑ってしまう。


「ああ。今日の俺は一切手は出さない。防御もしないから、俺に一撃を入れられれば今日は合格だ」


「えっ、防御もしないんですか?」


「その通りだ。俺が取るのは回避行動だけだ。どうだ、やるか?」


「むむむむむ……」


 カインから提示された条件に、ワムは思わずうなってしまう。

 しかし、当てるだけならと、ワムは最終的にその条件を受け入れた。


「お願いします」


「よし。それじゃ、俺に遠慮なくその木の棒を打ち付けてこい」


「はいっ!」


 ワムは返事をすると、カインに対して一気に飛び込んでいく。

 初撃は、よくある上段からの振り下ろしだった。だが、軌道はまるわかりな上に、そんなに速さがなかった。

 当然、木の棒は地面を叩いている。


「むむっ……」


「ひゅう、五十回の素振りの後で、まだそんな剣筋が出せるとはな。さすがは体力自慢のコボルトだな」


「つ、次こそは!」


 少し焦ったような言葉を放つカインだが、その表情には余裕の笑みがあふれていた。

 完全にやる気になったワムは、カインに一発当てるために、木の棒を次々と振り回しカインに迫っていく。

 ところが、いくら振り回しても、まったく当てることはできなかった。

 さすがに五十回素振りの疲労もあってか、数回攻撃を仕掛けたところでダウンをしてしまった。


「はあ、はあ……」


「さすがに限界か。まったく、剣に関してはまったく素人だっていうのに、いい剣筋をしてるぜ。これがコボルトで少女だっていうんだから、普通の剣士が聞いたら驚くだろうな」


「うう……。次は、絶対に当ててみせます……」


 評価を下すカインに対して、ワムはとても悔しそうに話している。

 ここまでの素振りも文句を言わずにこなしてきただけに、ワムの剣に対する姿勢は本気なのだろうと、カインはとても嬉しそうである。


「よし、とにかく今日はもう休め。疲れをその日のうちに取るのも、修行の一環だぞ」


「は、はい!」


 カインの言葉に、ワムはとても力強く返事をしていた。

 満足したカインは、ワムのことをシスイに任せると、日暮れを迎えたこともあってか、食事の準備に取り掛かることにした。

 シスイの肩を借りて移動していくワムを見ながら、どこまで成長するのかが楽しみになったカインは、笑みが止まらなかったのだった。

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