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青年と少女コボルトの緩い自給自足生活  作者: 未羊


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第29話 コボルトの集落跡で

 冒険者ギルドの受付嬢から聞いた話を元に、メイベルはワムの故郷となるコボルトの集落へとやって来ていた。

 徒歩で移動を続けているのだが、その場所までは思った以上に遠い。その距離に、メイベルはカインとワムから聞いた話に疑いを持ち始めていた。


(いくらなんでも遠すぎると思うわ。地下道を通って逃げてきたとはいっても、ワムちゃんの体格からして、この距離はおいそれと移動できる距離じゃないわよ……)


 カインを信用しているメイベルですらこのように思ってしまう移動距離だった。

 やがて、メイベルの目の前に、廃墟が見えてくる。焼け落ちた集落に激しく燃えた地面。近くにはたまたま火に巻き込まれなかったコボルトの遺体も転がっている。

 間違いない、ここが話に聞いたコボルトの集落だろう。メイベルは確信した。


(なんてひどい……)


 一族郎党皆殺し。そういう言葉が似合うそうなくらいに、とてつもなく凄惨な現場だった。

 いくら魔族への恨みが溜まっていたとしても、これでは魔王が行っていた虐殺行為と何が違うというのだろうか。あまりの酷い状況に、メイベルは思わず口を押さえてしまう。

 焼け落ちた集落の中を見て回るものの、魔力のようなものはまったく感じない。魔力を感じないということは、この場には生存者がいないということなのだ。


(こんなの間違っているわ。ワムちゃんを見る限り、ここのコボルトはおそらく魔王たちの支配とは関係なく、普通にのんびり暮らしていたはず。それを、魔族というだけでこのようなことを行ったとするのなら、聖女として許せたものではないわ)


 思わず目も背けてしまいたくなる惨状に、メイベルは怒りがふつふつと湧き上がってきていた。


 集落の中を歩き回っていたメイベルは、ひときわ大きな焼け跡を見つける。おそらくはこの集落の主といえる者たちが住んでいた場所だろう。

 大半が木や藁で作られているコボルトの集落だったが、ここだけはちょっと様相が違う。建物の一部に石が使われていたのだ。

 その建物の跡の中を、メイベルは歩いている。

 しばらくすると、四方すべての途中まで、石が積み上げられた場所に出てくる。そこには二つの焼死体が、互いに体をかぶせるように転がっていた。


「本当にむごいわね。体には剣のようなもので貫かれた跡があるわ」


 かろうじて体の形が残っているその遺体には、わずかな空洞が残っていた。勇者やカインの剣を見てきたメイベルだからこそ、その傷がおそらく剣によるものだろうと推測できたのである。

 弔うために祈りを捧げようとしたメイベルだったが、その焼死体の下に、何かがあることに気が付いた。


(これは……隠し扉かしらね)


 触ると崩れてしまいそうな焼死体ゆえに、メイベルは魔法でその場所を鑑定する。その結果、そこにあったのは隠し扉で間違いなかった。

 さらに鑑定すると、中が空洞で、さらには通路になっているようだ。


(なるほど、ワムちゃんはここを通って外に出たわけね。で、行く先も分からずに逃げていたところを発見されて、追われているところでカインと会った。そういうわけか、なるほどね)


 すべてを悟ったメイベルは、なんともいえない気持ちになっていた。

 メイベルは聖女であるために、本来ならば魔族に対して敵意を向けたところだろう。

 ところが、魔王を倒した直後に勇者が元の世界に強制送還され、カインは勇者殺しの汚名を着せられ、自身はそれを防げなかったことで幽閉されてしまった。こんなことがあったために、メイベルは人間に対して諦観しているところがあるのだ。

 そういった経緯から、メイベルは魔族に対しても安易に敵意を見せないようになっていた。だから、ここのコボルトたちも、自分勝手な魔王と人間の被害者としか思えなくなっていたのだ。


(せめて、しっかりと弔ってあげましょう……)


 そう考えたメイベルは、目の前の焼死体から順番に、魔族狩りの犠牲となったコボルトたちを順番に弔い始めた。

 最初のコボルトの焼死体からしてかなりの劣化が進んでいたので、魔法も使いながら、それはとても丁重に行っていった。

 丁寧過ぎたがゆえに、相当の時間がかかってしまったものの、メイベルはすべてのコボルトを弔うことができた。


「本当にごめんなさい。人間が思い上がらなければ、あなたたちは今も平和に暮らせていたでしょうにね」


 メイベルは、最後に祈りを捧げていた。

 しっかりと弔いを済ませたメイベルが、コボルトの集落を立ち去ろうとした時だった。


(誰か来るわ)


 なにやら気配を感じて、とっさに物陰に隠れる。


(光よ)


 光魔法を使って自身の姿を消し、気配まで殺し、静かに誰が来たのか物陰から見張っている。


「はっ、さすがに時間が経っちまってて、何にも残ってねえじゃねえかよ」


 現れたのは、いかにもガラの悪そうな男を筆頭とした冒険者集団のようだった。一体何をしに来たのか。メイベルはじっと息をひそめている。


「まったく、生き残りがいると知ったら、報酬は出さねえとか言い出しやがって……。何が全滅が条件だ。最初に言いやがれ」


「でも、どうやって探すんです。生き残りのコボルトは」


「なあに。そのために、偉大な先生を雇ったんじゃねえか。この報酬が出りゃあ、依頼料を払ってもおつりが出るからよ」


 男たちの見つめる先にいた人物の姿に、メイベルは思わず声を出してしまいそうになる。


「ふっ、コボルトごときでこの俺を雇うとはな。だが、報酬はしっかりと弾んでもらうぜ」


「へい、よろしくお願いしまさぁ、先生」


 男がへこへこと頭を下げる先生と呼ばれた人物。その人物を見て、メイベルは顔を青ざめさせてしまうのだった。

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