第31話 頑張る君のために
その日の夜、ワムがしっかりと眠ってしまった後、カインはシスイと話を始める。
「なあ、シスイ」
「なによ、カイン」
カインが声をかけると、シスイはなんとも不機嫌そうな表情を向けている。
「お前から見て、ワムの実力をどう思う」
「どう思うって……。魔法も剣も、予想をはるかに超える実力を持っているわ。初めて使ったにしても、あれだけ広範囲の地面を吹き飛ばすんですもの。コボルトからしたら、魔力が多すぎるわ」
「だよなぁ……。コボルトって魔法を使える個体であっても、あそこまでの魔力を放って元気でいるやつはまずいない。というか、あの威力自体がすでにおかしいからな」
二人揃って、小屋の中で眠っているワムの方へと視線を向けている。
コボルトというのは、魔族の中でもゴブリンなどと並んで能力は最低クラスだ。
それだというのに、ワムはコボルトらしからぬところがいくつもある。
まず第一に、カインやシスイと平然と会話をしているところだ。コボルト族は確かに喋れるのではあるが、うまく言葉を理解できないし、喋るにしても片言ということが多い。
ところが、ワムは平然と受け答えをしているし、喋り方も流暢で語彙力もそれなりにある。なかなかにただのコボルトとは思えない言語力だ。
そして、魔法にしても剣術にしても、それもまたはるかに一般的なコボルトのイメージを凌駕している。そうやって状況をまとめてみると、なかなかに不可解なのだ。
「もしかして、お前と同じ精霊だったりしないか?」
「はあ?」
カインが思わず口に出してしまうと、シスイが表情を歪ませている。そんなわけあるわけないだろうという顔だった。
シスイがこんな反応をするのにも理由はある。
精霊というのは、自然界に存在する物質たちが意思を持った存在だ。多くの場合は、その物質が大量の魔力を取り込むことで生まれるといわれる。
そのため、魔力の塊ともいえる状態であるがために、精霊同士が出会えばすぐにでも分かるというわけだ。
だが、ワムにはそのような感じを受けていない。なので、ワムが精霊ということはまずは考えられないというわけなのである。
「そっか、そうだよなぁ……」
カインは頭の後ろに手を回し、背中を少し後ろに倒している。
「悪い、変なことを聞いた」
「いいのよ。ワムの状態を思えば、いろいろ疑いたくはなるのは分かるもの」
カインが謝ると、シスイは気にしていないとはっきりと答えている。
その言葉を最後に、二人はしばらく黙り込んでしまう。
魔瘴の森の中とはいえど、シスイが作り出した平穏な空間は、とても静かだ。
周囲からは、魔瘴の森の夜行性の魔物たちの声がかすかに聞こえてくるが、かなり遠いのでかえって子守唄のように心地よい響きになっている。
しばらく黙り込んでいたカインだったが、くるりとシスイへと視線を向けている。
「そうだ、シスイ。頼みごとをしてもいいか?」
「なによ。またあたしをこき使おうっていうわけ?」
カインに頼みごとと言われて、露骨に嫌がる表情をシスイは見せている。
「しょうがねえだろ。俺もワムも外じゃ賞金首になってるんだろ? 俺のことを見逃してくれていた連中に迷惑をかけるわけにはいかないからな。となれば、外で知られていないお前にしか頼めねえんだよ」
「もう、しょうがないわね。で、今回は何を頼もうっていうのよ」
カインに頼りにしているというようなことを言われて、シスイも悪い気がしないなと表情を少し和らげている。
過去にも服だの種だので何度か魔瘴の森の外に顔を出しているので、シスイも外へ出ることに対してまったく抵抗をなくしてしまっている。そもそも自分が正気を取り戻すきっかけがカインにはあるので恩義も相まって断れないところがある。
シスイはじっとカインを見ている。
「ワム用の武器だな。あとは、武器を手入れをするための砥石でもあればいいか。それを仕入れてきてもらいたいんだ」
「分かったけれど、それはいつもとは違う場所ってことになるんじゃないかしらね」
「そうだな。それで、俺が知る限りの腕のいい鍛冶師がいるんで、そこで仕入れてもらいたいんだよ」
カインからの頼みごとを聞かされて、シスイはずいぶんと困った表情をしている。ついでに、カインが知っている鍛冶師という話まで出てきて、なおさら困惑しているという感じだ。
今度は一体どこへ行けというのか。シスイの警戒は最大限迄引き上がっている。
「そう構えんな。俺からの伝言としてちょちょっと合言葉でもいやぁ、あのおっさんは気前をよくしてくれるはずだからよ。あと、手土産としてミアズマディアーの角でも持っていきゃあ、喜ぶだろうぜ」
「ちょっと、鍛冶師なのに、魔物の角なんて要るの?」
「あのおっさんが扱うのはなにも金属だけじゃねえ。装備品全般だから、木だろうか皮だろうがなんだって扱ってくれるぜ。初心者から上級者まで、誰だって相手にできるおっさんだが、自分が認めた相手にしか商売をしてくれねえ偏屈なんだよ」
「むぅ……」
カインが笑いながら話すものだから、シスイの表情はなんとも疑わしいというまなざしを浮かべていた。
「きっと、ワム用に用意する魔法も使える剣となりゃあ、喜んで打ってくれるだろうぜ」
「はあ……、分かったわよ。まったく、精霊を小間使いのようにするなんて、あんたくらいしかできないわ」
カインのいいっぷりに、シスイは呆れるしかなかった。
結局、頼みごとを受け入れることにしたシスイは、カインから目的地について詳しく聞くことにした。
水の精霊であるシスイは、水のある場所であるならどこでも飛べるものの、狙った位置に飛ぼうとするならやはり情報が必要みたいなのだ。そのため、カインから詳しく話を聞いているのである。
「それじゃ、明日にでも早速行ってくるわよ。でき上がりには数日はかかるでしょうし、その間に何もないことを祈りたいもんだわ」
「ああ、頼むぜ」
カインは笑っているものの、なんとも不穏なことを言うシスイである。
頑張るワムのためのご褒美である武器の注文を頼んだカインは、大きなあくびをすると小屋へと向かって戻っていったのだった。




