第23話 剣か魔法か
シスイが出かけている間、カインとワムは一緒に畑仕事をしている。食べ物に関しては、狩りで手に入れる場合ならちょこっとの時間でもどうにでもなるので、カインはこのように畑仕事もしているというわけだ。
そもそも、畑仕事の一部には力も必要なので、コボルトとはいえど女性であるワムにあんまり無理はさせられない。
「ふぅ、全然成長しないな」
「それはそうですよ。私も元々暮らしていた集落で畑を見たことがありますけれど、収穫まではとても時間がかかっていました。そんなに簡単には大きくならないんです」
「へえ……。って、知っていたなら話してくれてもよかったのにな」
「そ、それは……」
ワムが植物について少し説明をすると、予想外にもカインに指摘されてしまう。
思わぬ言葉が返ってきてしまったことで、ワムは反応に困ってしまう。
「あー、悪い。コボルトって群れで暮らしてるもんな。なら、そういう知識があってもおかしくないか。責めるつもりはなかったんだ」
「あ、いえ……」
意外にもあっさり謝罪をしてきたために、ワムはなんだか気まずくなって顔を逸らしてしまっている。
「私もいろいろ黙っていて申し訳ありません。カインさんのことは、助けてくれたこともあって信じてはいますが、今は話せないことが多いんです。本当に、申し訳ございません」
そうかと思えば、ちゃんとカインの方を見て、ワムはとても丁寧に謝っている。
言葉遣いもしっかりしているし、気になる点は多い。
しかし、シスイと話をした中で、ワムの身の上は関係ないと言い放ってしまったがゆえに、カインはそれ以上詳しく追及することはしなかった。なんというか、男としての意地である。
結局、カインはそのまま黙り込んで、畑作業を続けたのだった。
シスイが服の注文を終えて戻ってきた翌日から、ワムはカインたちにいろいろ教えてもらおうと頭を下げてきた。
本格的に一緒に暮らすのであれば、自分もいろいろと身につけていた方がいいと考えたからだ。
剣は一時的に教えてもらっていたものの、シスイに怒られたこともあって曖昧になってしまっていた。
それではダメだと考えたワムは、二人に深々と頭を下げているのである。
「やれやれ、こいつは本気のようだぞ。シスイ、お前はどうする?」
「どうするって……。あたしで教えられるのは、魔法の扱い方くらいよ。コボルト族って、水魔法って使えないんじゃないの?」
「どうだろうな……。そればっかりはやってみないと分からないぜ」
「うーん」
頭を下げているワムの目の前で、カインとシスイはいろいろと話し合っている。
「しょうがないわね。今日のところはあたしが魔法の基本的なことを教えてあげるから、その間にカインは、肉でも集めてきてよ。保存食の干し肉を作るわよ」
「分かった。それじゃ、任せるぜ」
話し合いの結果、ひとまず先にシスイが魔法を教えることになった。
とはいえ、コボルト族は犬が二足歩行するようになったような魔族だ。どちらかといえば、その俊敏さを活かした、ヒットアンドアウェイの戦法の方がいいだろう。
だというのに、なぜ魔法を教えるに至ったのだろうか。いくら肉が切れそうだからといっても、よく分からない展開である。
ところが、カインは話し合いの決定に従って、剣を携えて肉を集めにその場から姿を消してしまった。
その場にはシスイとワムの二人だけとなる。
ちょっと気合いを入れたシスイは、くるっとワムの方へと体ごと振り向いている。
「よーし。あたしが魔法の何たるかを教えてあげるから、覚悟なさいよ」
「はい。お願いします」
シスイが声をかければ、ワムは気合いを入れながら返事をしている。
「魔法とはいっても、ワムがどんな属性を使えるか分からないわ。あたしは見ての通り、水魔法を得意とした精霊だから、魔法の基本しか教えられないわ」
「そうなんですね」
シスイが先んじて説明をすると、ワムは驚いた表情を見せている。やはり、あんまり魔法に関しての知識を持ち合わせていないようだ。
コボルトというのは、基本的に野蛮な戦い方をする種族なのだから、しょうがないだろう。素早い動きで相手を翻弄し、爪や牙、手に持った簡単な武器を使って攻撃するというのが、基本的なコボルト族の攻撃方法なのだ。なので、魔法に関してはこんな反応になるのは当然というわけなのである。
「魔力っていうのは、よっぽどでない限り、どんな種族であっても持ち合わせているものよ。それはワムの中にだって眠っているわ」
「私の中の、魔力ですか」
「そうよ」
魔力の説明をすると、ワムは自分の両手をじろじろと見ながら反応している。
シスイはこくりと頷いてはいるものの、ワムにはいまいち感じ取れていないようである。
「同じような野蛮な種族でも、ゴブリンやオークだって、魔法を使うやつがいるくらいなんだからね。コボルトであっても、魔法が使える可能性は十分あるわ」
「ふむふむ。ならば、私にも十分可能性はあるのですね」
「そういうことよ」
しかし、同じような力任せな種族でも、魔法が扱えることを聞くと、ワムはその手をぎゅっと握りしめている。自分にも、その才能があるかもしれないと思えてきたからだ。
やる気のあるような様子を見て、シスイは笑顔を見せている。
「よーし。これからあたしが魔法の基礎を教えてあげる。だから、この時ばかりは、『シスイ先生』ってあたしのことを呼ぶようにね」
「はい、シスイ先生!」
調子に乗ったシスイが冗談交じりに言うと、ワムはものすごく素直に冗談を真に受けていたようだ。
そのあまりの素直さに、シスイはやれやれと思いつつも、魔法の基礎をワムへと教えることにしたのだった。




