第22話 本格的に住むのなら
魔瘴の森の中での生活は、シスイの力を借りながら今日も平和に行われている。
メイベルが祝福を施していってくれた関係か、畑の植物の生育が少し良くなっているように思われる。
「さすがは聖女様。あたしを浄化できたくらいだもの、これくらいはできて当然かしらね」
「何が変わったのか、よく分からねえ」
「少し、元気が出ているように思います」
シスイが感心して眺めている中、カインはさっぱりという感じである。
ワムの方はさすがはコボルド族というだけあって、違いというのをなんとなくながら感じ取っているようだった。
「さすがはコボルトね。メイベルの祝福で、成長が少し早くなっているみたいだわ」
「それじゃ、収穫も早まるのか? くぅ、待ちきれねえな」
シスイが推測を述べていると、カインは表情をにやけさせていた。
が、直後にシスイから水鉄砲を食らっていた。
「何すんだよ!」
「この単純頭。そう簡単に行くのなら、誰だって苦労はしないわ。ちゃんと収穫したければ、毎日きちんと面倒を見ることよ。あたしたち精霊みたいに勝手に育つわけじゃないんだからね」
水鉄砲を食らわされたことを怒っているカインだが、シスイの言っている通りである。
植物というのはちょっとした変化にも敏感だ。メイベルの施していった祝福は、ただの助けでしかない。これで楽になると思うのなら、思い上がりというものである。
「あの、私がちゃんと見ますので、ご安心下さい」
カインとシスイが睨み合う中、ワムが恥ずかしそうにしながら手を挙げている。
最初のことを思えば、かなり自分の意見を主張するようになったと思う。そんなワムの姿を見て、カインとシスイはつい笑ってしまっていた。
「わわっ、なぜ笑われるのですか?!」
「いや、ワムもしっかりしてきたなと思ってな」
「そうそう。すべてを諦めたような感じだったから、そういう姿を見て安心したのよ。気にしないで」
「そ、そうなんですか……」
笑いながら話す二人の姿を見て、ワムはどうしていいやら困っているようである。
なのでカインは安心させようとして、その頭にポンと手を軽く添えている。
「将来的にはどうするか分からないが、今はとにかくここを自分の家だと思って過ごしてくれよ」
「は、はい。……ありがとうございます」
カインが白い歯を見せながら言うものだから、元気よく返事をしたかと思うと、ちょっと恥ずかしそうに下を向いてしまうワムなのであった。
ワムの行動にカインはびっくりしてしまっているが、その後ろではシスイがくすくすと笑っている。
「なんだよ、シスイ。気持ち悪いな」
「いやぁ、なんでもないわよ。ぷーくすくす」
あまりにも気持ち悪い態度のシスイに、カインはイライラとしてきている。
「あははははっ。だったら、あんたも服を新調した方がいいんじゃないかな。いつまでもそんな汚らしい格好ってのも嫌なもんでしょ。ワムにも新しいの作ろうと思うから、一緒に注文出してきてあげるわ」
「むぅ、そうだな。いつまでもこんなボロボロの服じゃ、せっかくの生活も雰囲気が悪くなりかねねぇ」
カインは自分の服装を見ながら、シスイの言葉に納得しているようだった。
なんといっても、これまではずいぶんと自暴自棄になっていたので、服装のことにもかなり無頓着になってしまっていたのだ。
この魔瘴の森での生活もだいぶ落ち着いてきたので、気持ちを新たにする意味合いでも、服を新しくしようと決めたのである。
「じゃ、決まりね。服代の節約のためにも、ミアズマディアーの毛皮と角、ミアズマスパイダーの糸を多めに持っていかないとね」
「そうだな。街に出るとなると、どうしてもお金は必要になるからな……。俺たちで稼げりゃいいんだが、そういうわけにもいかないもんな」
カインは周辺を見回しながら、頭をぼりぼりとかいている。
魔瘴の森の中は、カインが建てた小屋と植物を育てている畑以外何もない。つまり、お金になるようなものは何もないのである。
現状では、魔瘴の森の魔物の討伐品でどうにかするわけがないのだが、これ以上、魔瘴の森と分かるものを出し続けるわけにはいかない。あまりにも出しすぎると、妙な動きが出てきかねない。
魔王討伐後の一件からというもの、カインはかなり強く人間に対して不信感を抱いてしまっているのである。
言葉にはまったくしていないものの、シスイはカインの考えていることを見抜いているようだった。
「しょうがないわね。でも、これで当面は服は必要にならないだろうから、少しは安心はできるんじゃないかしら」
「だといいんだがな。お前と会ったことでわざわざここまでメイベルがやってくるくらいだ。欲深いやつなら、目を付けてくる可能性は十分あるぞ」
シスイが楽観的にいうものの、カインは警戒を緩めていない。
「だけど、自分たちで服が作れない以上は、この行動をやめる理由がないわ。……しょうがないな。あたしでできる範囲で、どうにか対策を立てますか」
カインの懸念の理由が、それなりに自分に起因するために、シスイはやれやれといった感じで対策を講じることにしたようである。
自分たちにとってはいい収入源ではあるものの、それがどのような影響を及ぼすのかはまったく分からない。世の中難しいものなのである。
しかし、服を新調すると決まった以上、今回の行動は今さらやめることはできなかった。いつまでもみすぼらしい格好はしていられないのだ。
商業ギルドと服飾店に口止めすることを約束して、シスイは再び街へと向かったのだった。




