第2話 青年と少女の出会い
森から少し出たところで、少女は助けを求めていた。
その後ろを見ると、数人の男が追いかけている姿が見える。
人さらいだろうか。
青年は見ていられないと思い、すぐに助けに向かう。
逃げる少女と追いかける男たち。
「待て、逃がさんぞ!」
「魔族は、すべて殺してやる!」
男たちは必死の形相で少女へと大声をぶつけている。
「キャッ!」
そんな中、少女はバランスを崩して転んでしまう。
後ろを確認しようとして振り向いた瞬間に、小さな石ころにけつまずいてしまったのだ。
「さぁ、追いついたぞ」
「観念して、俺たちにおとなしく殺されろ」
「こ、来ないで!」
少女を追い詰めた男たちは、たっぷりいたぶろうとしているのか、少女へとゆっくりと近付いていく。
じりじりと近寄られ、少女は少しずつ後退っていく。
ところが、背後からも人影が現れる。
「ひっ!」
前後を挟まれてしまった少女は、その場に丸まるようにしてふさぎ込んでしまう。
「おう、お前。どこの誰か知らねえが、こいつを一緒にいたぶらねえか?」
男たちは、少女を挟んで反対側にいる人物に話しかけている。男たちは、なんとも気持ち悪く笑っている。
「吐き気がする」
「あん?」
少女の後ろに立つ人物はそのようにつぶやくと、少女を抱え上げていた。
「きゃっ」
急に抱えて持ち上げられたものだから、少女は思わず驚いて声が出てしまう。
少女同様に、目の前の男たちも驚きを隠せない。
「てめえ、そいつを助けるっていうのか?」
「そいつは魔族だぞ。生かしておいていいことなどあるものか!」
文句を言ってくるが、少女を抱える人物にとってはどうでもいいことだった。
「ふん。魔族ねぇ……」
少女を抱える人物は、震えている少女に視線を落とす。
身を縮めて震えが止まらず、言葉を発することもない。怯えているということが嫌というくらい分かる。
少女の全身は毛だらけであり、魔族ということは分かる。だが、その人物にとって、そんなことはどうでもよかった。
「こんな怯える子どもを追い回す奴の方が魔族っぽく思うぜ。悪いが、この子は俺がもらっていく」
「てめえっ! そいつを助けるっていうのか?」
「だとしたら?」
連れ去ろうする人物に、男どもが睨みつけながら質問をぶつける。
反抗的に答えると、男たちは武器を取り出してきた。
「痛い目を見たくなきゃ、そいつをさっさと渡せ。今なら許してやる」
どうやら脅しているらしい。
しかし、魔族の少女を抱えた人物は、まったく動じていないようだった。
「ちっ、やっちまえ!」
しびれを切らした男たちが襲い掛かってくる。
少女を抱えながら、その人物はひらりと攻撃を躱してしまう。もちろん、少女がケガをしないようにかばいながらだ。
「そちらが先に手を出したんだ。だから、これは正当な反撃だ」
少女を抱えた人物は、自由に動く左手で剣を抜くと、しっかりと構えている。
少女を抱える人物が抜いた剣を見た瞬間、男たちが思わず固まる。
「お、おい……。あの剣ってまさか……」
「いや、そんなわけねえじゃないですか。あの剣の持ち主は、死んだっていうじゃないですか」
男たちはずいぶんと戸惑っているようだ。
その隙をついて、少女を抱える人物は思い切って自分の足元へと攻撃を繰り出す。
地面へと強い衝撃が与えられ、辺り一帯にはものすごい土埃が舞い上がる。
「げほっげほっげほっ……」
「ま、前が見えねぇ……」
土埃をまともに食らった男たちは、その場でむせっ返っていた。
やがて、土埃が晴れてきて辺りがよく見えるようになってくると、そこには魔族の少女と彼女を抱えた人物の姿はなくなっていた。
どうやら逃げられてしまったらしい。
「くそっ、覚えてやがれ。次見つけた時は、必ずぎったぎたにしてやる!」
誰もいなくなったその場には、少女を追いかけていた男どもの遠吠えが響き渡っていた。
少女を抱えた青年は、人の来なさそうな場所まで移動すると、ようやく少女を下ろしていた。
「なんとかまけたようだな」
青年はふぅっと安心した大きく息を吐く。
目の前の魔族の少女は、わけが分からないといった感じできょとんとしている。
その姿は全身が毛むくじゃらで、動物の犬のような姿をしている。コボルトといわれる種族のようだった。
「大丈夫かな?」
青年が声をかけるが、少女はまったく反応をしていない。
まったくもって何が起きたのか、今のところ理解が全然できていないようなのだ。
反応のない少女の答えを待っていても仕方ないので、青年はその体の状態を確認する。泥だらけになっているので、全身の本来の毛色はまったく分からないし、毛だらけだからケガの様子もよく分からない。
しかし、痛がっている様子はまったくないので、現状はケガというけがはないとみていいのかもしれない。
(この子も、突然わけの分からない状況に陥って、混乱しているんだろうな。俺がこの子を助けたのは、ただの同情だけじゃないのかもしれないな……)
青年は、野宿の準備をしながら少女のことをじっと見つめていた。どうやら、この青年も訳ありのようで、追われる少女が自分とダブったようである。
辺りは徐々に暗くなっていく。
黙り込んだ魔族の少女に時折視線を向けながら、青年は黙々と食事の支度を始めたのだった。




