第1話 くたびれた青年
ガラガラと、一台の馬車が荒野を走っている。
荒野を走り抜けた馬車は、小さな街へとたどり着く。
馬車からは乗っていた人物たちがぞろぞろと降りていき、各々の目的地へと散っていく。
「よう。兄ちゃんはどこへ行くんだい?」
最後にゆっくりと降りてきた青年に、乗合馬車の御者が声をかけている。
声をかけられた青年は、少しぼーっとしたような様子をしているが、声には反応しているようだった。
「適当に冒険者稼業でもしながら、過ごすつもりだよ」
「そうかいそうかい。だが、そんな鈍そうな様子じゃあ、簡単に魔物に食い殺されるぜ。もっとぴしっとしなよ、生き残りたきゃな」
「……そうだな。ありがとう」
御者と簡単に言葉を交わすと、青年はふらついた様子で馬車から離れていく。
あまりにも頼りない様子に、御者の男性は眉をひそめている。
「……ありゃあ、すぐにおっちぬぜ。はぁ、あんなんを乗せたんじゃ縁起が悪いってもんだ」
青年を見て怖くなった男性は、すぐさま馬車置き場へと向かって馬車を走らせた。
馬車を降りた青年は、どことなく足元がおぼつかない様子で歩いている。あっちへふらふら、こっちへふらふら。風でも吹けば、その勢いで倒れかねないくらい危なっかしい足取りだ。
街を行きかう人たちも、あまりの雰囲気にあまり目を向けないようにして足早に歩いていく。
青年は、周りから向けられる目を気にするなく、冒険者ギルドへと歩いていく。
「……ここが、冒険者ギルドだな」
入口には魔物の姿を図形化した彫り物がしてある看板がぶら下がっている。
青年は、扉をくぐって中へと入っていく。
建物の中には、いかにもというような人物たちが居座っており、青年へとちらちらと視線を向けている。まるで値踏みでもするかのような視線だ。
「冒険者証を」
カウンターまでやってきた青年は、受付から声をかけられる。
青年は静かに冒険者証を出すと、受付の人は驚いたような顔を見せる。
「あの、その……」
「何か仕事はないのか?」
あたふたとする受付に、青年は声をかける。怒りも何もない、実に淡々とした声だった。
「……申し訳ございませんが、あなたに紹介できる仕事はございません」
「……そうか」
青年はそういうと、冒険者証を返してもらってさっさと出ていこうとする。
「あの」
ところが、受付が声をかけて呼び止める。
「何か?」
「いえ。素材の持ち込みでしたらお受けできますので、お待ちしております」
「……分かった」
どうやら、仕事は受けられないが、持ち込んで換金することはできるらしい。
青年は面倒くさそうに受け答えをすると、改めて冒険者ギルドを出ていこうと歩き始める。
ところが、そんな彼を他の冒険者がただで行かせてくれるわけがなかった。
「おいおい、仕事を紹介してもらえねえなんて、何をしたんだよ」
「別に……」
青年はまったく相手にしないで、そのまま出ていこうとする。
「おい、何を無……、うおっ?!」
男がつかみかかろうとするが、次の瞬間、宙を舞って床に叩きつけられていた。何が起きたのかさっぱり分からない。
床にしりもちをついて、目を丸くしていた男だったが、すぐに怒りに満ちた表情を浮かべる。
「やっろう……っ!」
「やめなさい!」
起き上がって再び殴りかかろうとするも、仲間に止められてしまう。
「放しやがれ。一発殴らねえと気が済まねえ」
「何度やっても無駄よ。あいつには……隙がない。命があるだけ儲けものと思いなさいよ」
「ぐっ……」
必死の形相をする仲間の女性に止められて、筋肉自慢の男はわなわなと震えながらも、青年への攻撃を諦めていた。
襲ってこない様子を確認すると、青年は無言で冒険者ギルドを去っていった。
青年は仕事を受けられず、やむなく街の外へと向かっていく。
ここに移動してくるまでの間にかなりのお金を使ってしまったがために、近くで魔物をどうにか狩ってこないことには生活が厳しい。青年は街の入口で門番と話を聞いて、手ごろな魔物が狩れる場所へと向かっていった。
教えてもらった場所では、ウサギやウルフといった、本当に手ごろな魔物が狩り放題といったところだった。なにせ、肉は手に入るし、毛皮というお金になるようなものまであるのだから。青年は、教えてくれた門番に感謝をしながら魔物を狩っていく。
「よし、このくらいでいいだろう。あんまりやりすぎると、他の人が困るからな」
青年は解体を始める。手慣れているのか、あっという間に毛皮と肉を確保すると、不要なものはすべて地面へと埋めてしまっていた。
これだけあれば、当面の生活費は大丈夫だろう。
青年がそう思って街へと帰ろう森を出たところだった。
「助けてーっ!」
どこからともなく、助けを求める女性の声が響き渡ってくる。
一体、何が起きたんだ。
青年は、声のした方向へと急いで走っていく。
「あ、あれは……」
出ていった青年の目に、少女を追いかけ回す男たちの姿が飛び込んできた。
そう、先程の声は、逃げ惑う少女から発せられたのだ。
これはいけないと思った青年は、すぐさま武器を手に、少女を助けるために飛び出していったのだった。




