第18話 思わぬ再会
ワムが剣を習い始めた頃、シスイが時折姿を見せていた街に、ローブをかぶって全身を隠した人物がやってくる。見るからに怪しい感じの人物で、その姿を見た者たちはそそくさと避けて回っている。
「……まったく、事情があるとはいえ、さすがにこの姿では怖がられてばかりか」
ぼそぼそとつぶやくくように独り言を喋っている。声がかなりくぐもった感じで、言葉遣いを含めても、男か女かもよく分からない。
ただ、その全身を見る限り、長い旅をしてきたのかなり薄汚れている。
ローブで全身を覆った人物は、ひとまず冒険者ギルドへとやってきた。
中へと入ると、ローブの人物は受付へと進んでいく。
「すまない。何かいい仕事はないだろうか」
受付に声をかけるも、その姿のせいか、どう反応していいのか分からないようだ。
ローブの人物は小さく舌打ちをすると、冒険者証を差し出す。その冒険者証を見た受付の人物は、ぎょっとした表情をしている。
「何か仕事はないか?」
その反応を見て、ローブの人物はもう一度尋ねている。
「えと、あの、その……。ミアズマスパイダーの糸の納品などいかがでしょうか」
「ミアズマスパイダー?」
聞き慣れない魔物の名前を聞いたローブの人物は、驚いた様子で聞き返している。
「ええ。なんでも最近、商業ギルドの方に持ち込まれたようでして。ものすごいいい糸だったので、商業ギルドが欲しているようなんですよ。あなた様なら、きっと手に入れられると思いまして……」
受付の人物は、おどおどとした様子を見せながら、ローブの人物に依頼を持ちかけている。
ローブの人物は少し考え込んでいるようだ。
「ま、まあ、無理にとは言いませんよ。それ以外にも、最近新しい指名手配が出回っています。外の掲示板に貼ってありますので、ご確認されてはいかがでしょうか」
「ふむ……。とりあえず、糸の納品は引き受けよう。あと、情報提供、ありがとう」
「いえ、仕事ですから」
受付の人物は笑顔を引きつらせながら、手を振って送り出していた。
ただし、ローブの人物からは自分のことは話すなと念押しをされていた。表情が引きつっていたのはそのせいなのである。
冒険者ギルドから外へと出たローブの人物は、外にある懸賞金付きの指名手配の掲示板の前へとやってくる。
掲示板をちらちらと見ていたローブの人物は、とあるところでその目が止まってしまう。
「な、なんなのよ、これは……」
ダンッと手をついて、わなわなと震え始める。そこに貼ってあったのは、カインとワムの指名手配だった。
「あのバカ、一体何をしているんだ。コボルトを助けて、懸賞首になってるんじゃないっての!」
ローブの人物は頭を抱えながら、大きな声で叫び始める。
そうかと思えば、すぐに落ち着いて下を向きながらぶつぶつと呟き始める。
「落ち着け、私。ここにこうやって貼ってあるってことは、あいつは無事なんだ。にしても、勇者殺しまでつけられて……。殺してなんかいないのに、どうしてこうなったっていうのかしら。私との差は一体なんなの……」
ローブの人物は独り言を言い続けている。
「よしっ!」
そうかと思えば、下に向けていた顔を上げて、何かを決意したようである。
「……探さなきゃ」
ローブの人物はひと言つぶやくと、街の中をすたすたと歩き出した。
しばらく歩いていると、商業ギルドの前を通りかかる。
そこからひょっこり出てきた人物を見て、ローブの人物は何かに気が付いたようだ。
「あっ!」
小さく叫ぶと、辺りをきょろきょろと見て、移動先の細い路地に身を潜める。
目論見通り、人物が近付いてきたので、バッと飛び出てその人物を路地へと引き込んでいる。
「ちょっと、何をするのよ!」
必死に抵抗して暴れる女性にボコボコに殴られているが、ローブの人物は手を離そうとしない。
「ちょっと、落ち着いてよ、シスイ。私よ、私。暴れないで」
「あん?」
声だけでは判断がつかないものだから、シスイはものすごくガラの悪い反応を見せている。
しょうがないなということで、ローブの人物は手を離して顔が見えるようにローブをそっと外す。
「あっ、懐かしい。あんたも生きてたのね、メイベルだっけか」
ローブから見知った顔が出てきたために、シスイは口に手を当てながら驚いている。
シスイに名前を呼ばれて、ローブの人物はほっとした表情を浮かべている。
「思い出してくれたみたいね。にしても、街中で見かけるとは思ってもみなかったわ。魔瘴の森から出られないじゃなかったの?」
「あたしをただの精霊だと思わないでちょうだい。にしても、あんたこそ、なんでここにいるのよ」
シスイはメイベルを睨みながら、理由を尋ねている。
どうやらメイベルは、適当に旅をしていたらここにたどり着いたらしい。とはいえ、メイベルの職業を考えると、シスイはただの偶然とは思っていないようだ。
なので、シスイは意地悪そうにメイベルの顔をしっかりと見ながら話しかける。
「ははっ、いいことを教えてあげるわ」
「何を教えてくれるわけ?」
「魔瘴の森まで来たら教えてあげる。誰にもつけられないようにだけ、気をつけてよね」
「わ、分かったわ。何か訳ありっぽいわね」
「まあね。それじゃ、あたしは一足先に戻ってるから。じゃね」
にかっと実に楽しそうな笑顔を見せながら、シスイは路地の突き当りへと走っていった。
シスイという懐かしい顔に会ったメイベルも、安心したように笑みをこぼしている。
ただ、かなり気になることを言っていたので、メイベルは言われた通りに魔瘴の森まで向かうことに決めた。
すぐに顔を隠したメイベルは、そのまま街を飛び出していったのだった。




