第16話 現地民には敵わない
魔瘴の森で暮らし始めて、二十日が経過する。
小屋の前に作られた畑では、芋やシスイが森で集めてきた植物が芽を出し始めていた。
魔瘴の森に来た頃はすっかり沈み込んでいたワムもずいぶんと明るくなっており、森での生活を満喫しているようである。
「ふぅ、芽が出てきたな。なあ、シスイ。これって後どのくらいで収穫できるようになるんだ?」
畑を確認していたカインが、シスイに大声で尋ねている。
「気が早過ぎよ。まだ芽が出たばかりでしょうが」
「そんなことを言ってないで、質問に答えてくれ」
「百四十日よ!」
まだ早すぎるからといってシスイが答えないものだから、カインは無理やりにでも聞き出そうとしている。
気の早すぎるカインにカチンときたシスイは、正直に収穫までの日数を答えている。
「げっ、半年近く先かよ」
「なによ、植物がそんなに早く成長すると思ってたわけ? まったく、何にも知らないのね」
「うるせえな!」
驚くカインに対して、シスイはとにかく辛辣である。がっつり悪口を言われたカインは、いうことを欠いてしまっていた。
その様子を見ていたワムが、くすくすと笑っている。
「なんだよワム」
「いえ、お二人が結構仲がいいと思いまして」
「そんな風に見えるか?」
「はい。私からはそのように見えます」
口をへの字にしながら戸惑うカインだが、ワムからは仲がよさそうだとはっきり言われてしまう。ものすごく曇りのない表情で言われたものだから、カインは否定できないで黙り込んでしまった。
女性二人から言われたい放題のカインは、どうしたものかと完全に動きが固まってしまっている。
「はいはい。カインは邪魔だから、魔物でも狩ってきてちょうだい。あたしもお肉を食べたいわ」
「水の精霊のくせに肉食だなんて、世間が知ったらびっくりするぞ」
「いいじゃないのよ。ほら、さっさと行ってきてちょうだい」
「……分かったよ。それじゃ、ワムのことを頼むぜ」
カインは追い出されるようにして、魔物を狩りに出かけていく。
しばらく眺めていたシスイだったが、カインの姿が見えなくなると、ワムへと視線を移している。
「さーて、邪魔者もいなくなったわね」
「えっ?」
シスイがじっと見つめてくるものだから、ワムはその視線に戸惑っている。なにせワムに向けられたシスイの視線は、まるで狙いを定めた猛獣のように鋭かったからだ。
戸惑うワムに対し、シスイはじりじりと詰め寄ってくる。まったく視線を外そうとしないシスイの様子に、ワムはものすごく怖がってしまっている。
「あっ、ごめん。そこまで怖がらせるつもりはなかったのよ。ちょうどカインがいなくなったことだし、ワムに聞きたいことがあるの」
「私に、聞きたいこと……?」
耳をへにゃりと垂れさせたまま、怯えるようにしてシスイを見るワム。
ワムがあまりにも怖がる様子を見せるものだから、緊張をほぐそうとして、シスイは一度体を起こしながら優しい声で話し掛けている。
「大丈夫、カインには言わないわ。興味ないって言ってたし。ちょっと確認したいだけだから、ね?」
「わ、分かりました」
シスイが顔を近付けながら念を押してくることもあって、ワムは圧力に屈してしまうのだった。
―――
一方、狩りに行ってこいと言われたカインは、いつもと違ったところへとやって来ていた。
シスイにボロボロに言われたせいなのか、見返してやろうと考えたようである。
「どうせ俺は農業のことは分からねえよ。小さい頃からずっと狩りをしてきたんだからな。あいつと会わなきゃ、ずっと気ままに冒険者をしていたさ」
ぶつぶつと文句を言い続けている。
魔瘴の森の中を進んできたカインは、目の前に今回のターゲットを見つけて立ち止まる。
「ミアズマフォレストバードか。こいつも肉がうまいんだよな。ディアーの肉も飽きたし、今日はこいつに決めたぜ」
カインは様子を見ながら、じわじわと近付いていく。
「火よ」
カインは剣を持たない左手を前に出し、魔法を使う。ミアズマフォレストバードの頭上を塞ぐように、火が発生する。
突然の火に驚いたミアズマフォレストバードはパニックに陥り、羽をバタバタとさせながら、その場をぐるぐると回るようにして走り出す。
「今だ!」
すかさずカインは飛び出していき、見事ミアズマフォレストバードを一撃で仕留めていた。
「火を怖がるからな、こいつは。かといって普通に攻撃したんじゃ、空に逃げられちまう。だから、頭上を塞ぐように魔法を使うのがコツってもんだ」
誰に向かって話しているのだろうか。
おそらくはシスイにぼろくそに言われたことを根に持っているのだろう。こうでもしないと、カインの気がおさまらなかったのだと思われる。
だが、独り言で講釈を垂れていてもむなしいだけである。
やがて現実に戻ったカインは、黙々とミアズマフォレストバードの解体を始めていた。
血抜きをして羽毛をむしり取り、肉だけを回収すると、それ以外の部分は火の魔法で焼き払って処分している。現状必要なのは食べ物である肉だけだからだ。
「うーん、これだけじゃ足りないかもしれないから、もう一羽くらい狩っておくか」
どうにも物足りないと感じたカインは、ミアズマフォレストバードをもう一羽狩ってから戻ることにしたのだった。




