第15話 畑のある生活
ワムの服が新しくなったことで、魔瘴の森の中での生活は少し明るくなったようだ。
ちょっとふさぎ込み気味だったワムも、服が新しくなったことで元気を取り戻している。
三人の役割分担は、カインが狩りに出かけ、ワムとシスイで畑の様子を見るといった感じだ。ただ、力仕事が必要な時には、カインも残って手伝っている。
「ふぅ、畑もずいぶんと見違えるようになったな」
「そうですね。周りと明らかに違う雰囲気になっています」
「そりゃね。育てるとなると他の雑草は邪魔だし、水とかしっかり管理しないといけないからね。まっ、水に関してはあたしがいればどうとでもできるんだけど」
畑を眺めながら、三人はそれぞれに呟いている感じだ。
「そういや、シスイ」
「なによ」
「なんで芋を植えたところをこんな風に盛り上げているんだ?」
「今さら?」
畑を作ってからそこそこの日数が経つというのに、カインは畑の形状に今さらながらに疑問を感じたようである。シスイは表情を歪ませている。
「これは、水対策ね」
「水対策?」
「作物を植えるところを他の場所より高くすることで、水浸しになるのを防ぐのよ」
「水浸しになると、何か悪いのか?」
説明を始めたシスイだったが、ことごとく質問が返ってきて口をあんぐりとさせている。何も知らないのに畑をやるつもりでいたのかとびっくりである。
「植物の根は、水を吸い上げる部分だけど、長く水に浸っていると根腐れを起こすのよ。根腐れを起こすと、その植物はやがて死ぬわ。その状態を防ぐために、こうして土を盛り上げた畝というのを作っておくの」
「へえ、シスイって物知りだな」
「精霊だからね。自然に関することならある程度は知っているわ。とはいえ、植物は土の精霊の分野だから、あたしもそこまで詳しいわけじゃないけどね」
素直に感心するカインではあるものの、シスイはそこまでおごるつもりはないらしく、謙虚に話をしている。がさつな性格をしているのに、意外と真面目である。
「あ、それと、あたしはしばらく街には行かないから。しばらく仕入れはできなくなることを伝えておくわ」
「はあ、なんでだよ」
「街中でつけられているみたいでね、気味が悪いのよ。まったく、ミアズマスパイダーの糸をあれだけきれいに加工してくれるお店があるから、重宝しようと思ってたのにね。非常に残念」
カインの質問に答えたシスイは、本当に残念そうにむすっとした表情を浮かべている。
話を聞いていたカインも、同じように不愉快そうな表情を浮かべている。
「それは悪かったな。同じ人間として謝っておくよ」
「カインが謝らないでよ。ワムを暴漢から救ったあんたと、にやにや気持ち悪い連中が同じだなんて思いたくもないわ」
カインが頭の後ろを擦りながら言うと、シスイは両手を腰に当てて、前のめりになりながらカインに説教をしている。
ワムが新しい服を着た時にじっと見ていたという事実はあるが、カインはあんな連中とは違うと言い切っているのである。他者を救った経験のある人物が、そんなに自分を卑下にするなというわけだ。なんとももっともな話である。
「手配書に書いてあった内容もうそだと思いたいわ」
言うだけ言うと、シスイはカインから離れていく。
「おい、どこに行くんだ」
「森の中で、育てられそうな植物を探してくるわ。食べられるのだったら、手元で育てられる方がいいからね。できたら、新しい畑を耕しておいてね」
カインの質問に答えながら、シスイはそのままゆっくりと歩いてどこかに行ってしまった。
ちょうど入れ替わるように、カインのところにワムがやってくる。
「あれっ? 今、シスイさんの声がしてませんでしたか?」
「ああ。なんか育てられそうな植物を探してくるとかいって、どっか行っちまいやがった。まったく、精霊ってのは気まぐれなもんだな」
「そうですか。あっ、だったら、私に手伝えることはありませんか? 今、毛皮を風にさらしてきたところなんです。手が空いていますから、なんだってできますよ」
ワムは右腕の肘に左手を当てるという謎のポーズを取りながら、カインに対してアピールをしてくる。
少し前までふさぎ込み気味だったワムがすっかり元気になっている様子を見て、カインもつい笑みをこぼしてしまう。
「よし、シスイのやつがこの芋の畑に雑草は要らないって言ってたから、芋以外の草は全部引っこ抜くとしようか」
「はい、頑張ります」
カインがやることを思いついて話し掛けると、ワムは両手の拳を握り、脇を閉めながらいい笑顔を見せている。
ショッキングなことがあったのだろうが、ようやく前向きになって頑張ろうとするワムの姿は、カインにとって明るい話題のようだ。
カインとワムは、シスイが戻ってくるまでの間、畑に生えた雑草をこれでもかというくらい引き抜きまわっていた。
やがて、めぼしい植物も持ってシスイが戻ってくる。
「まったく何をやっているのよ……」
「あはははは」
呆れるシスイに対して、カインとワムはただ笑って返すだけだった。
その二人の横には、引き抜かれた草が大量に積み上がっている。これを見ただけで何があったのかすぐに分かる。
「あえて何も聞かないわ。カイン、新しい畑を耕してちょうだい、これを植えるから」
「ああ、分かったよ」
カインはもうひと踏ん張り頑張るかと、鍬を持ってシスイが指定した位置に新しい畑を耕し始める。その間、シスイはワムに持って帰ってきた植物について説明をしていた。
こうして、ただの開けた場所だった魔瘴の森の一部分は、生活空間らしい光景が少しずつ広がっていくのだった。




