第14話 コボルトの新しい服
畑を初めて耕してから三日後、仕上がった服を取りに行ったシスイが、大荷物を抱えて魔瘴の森の沼地に戻ってきた。
「戻ったわよ。いやぁ、さすがは専門職は違うわ」
「シスイ、ずいぶんと楽しそうじゃねえか」
にこにとした笑顔で戻ってきたシスイを見て、カインはからかい気味に声をかけている。
かと思えば、シスイはカインをスルーして、小屋へと荷物を置いている。無視されたカインは、おいおいと思いながらシスイを追いかけていく。
「おーっと、カイン。あんたは小屋に入ってきちゃダメよ」
ところが、小屋に入ろうとしたカインに、こんな言葉とともにでっかい水球が浴びせられた。
「ぶえっへへっ! おい、シスイ、何をしやがる!」
さすがのカインもちょっとご立腹のようだ。
無理にでも入っていこうとするカインだが、シスイからもう一発水球を浴びせられてしまった。
「まったく、デリカシーってものがないわね。あたしが持って帰ってきたものが何か分かってんの?」
「何って、ワムの……。ああ、そうか」
シスイから改めて声をかけられたカインは、ようやく持って帰ってきたものが何か理解したようだ。
それが分かったカインは、そりゃ怒られるわけだとものすごく納得していた。
そう、ワムの新しい服である。
仕立て上げられたばかりの服をこれから着せるので、シスイはカインを追い出そうとして水球を連続で浴びせたのである。覗くな、ばかものということだ。
散々、水球をぶつけられたので、カインはやむなく小屋の外で待機することにした。
しばらく待っていると、ようやくお呼びがかかる。
やれやれという感じで頭をかくと、カインは小屋の中へと入っていく。
中に入ると、シスイが両手を腰に当てて、ない胸を張って待ち構えていた。
「おい、ワムは?」
カインは気になるらしく、部屋の中を見回しながらシスイに尋ねている。
こっけいな態度を見たシスイは、くすくすと笑ってカインを見ている。
「そんなに気になる?」
「そりゃなぁ。あれだけ服がボロボロになってたんだから、どのくらい変わったのか確かめたくなるってもんだろう。早く見せてくれよ」
「まったく、せっかちな男ね」
カインは相当に見たがっているようである。ところが、シスイはもったいぶるようにその場を動こうとしない。さすがにこの態度に、カインはイライラとしてきている。
思ったよりも気にしているようなので、シスイも呆れて言葉も出ない感じだ。
しかし、このままにしておくとカインがブチ切れそうなので、背中にいるワムに声をかける。
「ワム、大丈夫かしら」
「は、はい。大丈夫、です……」
ワムに確認を取ったシスイは、ようやくその体を横へとずらす。
どいたシスイの後ろからは、きれいな服に身を包んだワムが姿を現した。
肩の部分が少し膨らんだ長袖のブラウスの上から、肩ひものついたハイウェストのスカートを着ている。腰の部分は体の前にあるひもで絞り具合を調整できるようだ。
「あの……。ど、どうでしょうか」
ワムはとても恥ずかしそうにしながら、カインに感想を求めている。
一方のカインの方はというと、ずいぶんときれいな服装に身を包んだワムのことを見違えた様子で見ている。
「いやぁ、似合ってるなぁ。これって、寸法だけしか指定してなかったよな?」
「ええ、そうよ。ただ、どんな子が着るのかということを尋ねられたから、私の見た目よりちょっと若い子って答えておいたの。そしたら、こんな服を作ってくれたのよ。肌着とセットで二着ずつね」
「いやはや、すげえな……」
どんな注文をしたのか確認をしたら、あんまり具体的なことは注文していなかったようだ。だというのに、これまたなかなかワムのイメージにぴったり合いそうな服装を作ってくれたものである。
すごく見違えたという顔で、カインはワムのことをじっと見つめている。
一方のワムの方はというと、あまりに凝視をしてくるものだから、恥ずかしがっているようだ。
「おっと、そのくらいにしておきましょうか。ワムが恥ずかしがっているわ」
「おい。これからずっと見ることになる服装だろうが。何が恥ずかしいっていうんだ」
シスイに背中を押されて追い出されそうになるカインは文句を言っている。
「これからずっと見るってわかってるくせに、いつまでも見ているからよ!」
カインの文句に対して、シスイは完全に怒った声で返している。これからずっと見るとか言っているからこそ、いつまでも見ていることに対して怒っているのだ。
結局、カインはそのままシスイに蹴り飛ばされるようにして追い出されてしまっていた。
「まったく、少しくらい女心を分かりなさいっていうのよ」
カインを小屋から蹴り出したシスイは、なぜか手をはたきながらワムのところに戻ってきた。
「どう、窮屈なところはない?」
「はい、特にはありません。ただ、しっぽが少し苦しいかなって思いまして……」
「ああ、コボルト用とは言えなかったものね。それだけは我慢してもらうしかないわ」
「そ、そうですね」
どうやらワムは、スカートと肌着の間に挟まっているしっぽが気になっているようである。
服の仕立ては人間用で行ってもらったので、こればっかりは仕方がない。自分たちで縫製できるようにならないことには、解消は無理だと思われる。なので、当面はこの服装で過ごしてもらうしかなかった。
しかし、いよいよボロボロになっていたワムの服は新調されたのだ。これで、少しは気が楽になるといいなと思うシスイである。




