76遠征1
「一緒になれましたね」
「うん、最悪だ」
「その言い方、ひどくありません?」
「せめてお前だけならな……」
遠征も全員がまとめて同じところに行くわけじゃなかった。
東西南北のそれぞれ四つに分かれて、経験を積みに行く。
俺としては別に誰と一緒でも構わないが、一人だけ勘弁願いたい奴がいた。
たまたまそいつが一緒だった。
もちろんそいつとはギュドスである。
さらに運の悪いことにクレンシアも同じグループになってしまった。
俺とギュドスとクレンシアという組み合わせは、俺にとって最悪だ。
どうにも一緒に買い物に行ったこともバレてるらしくてすごい目で睨まれている。
ペリフェもいたんだからそっちを睨めよ。
クレンシアが最悪というよりも、クレンシアがいる時のギュドスがめんどくさい。
「ひよっこども、くっちゃべってないで行くぞ」
「そして引率はゲルディットさん……か」
研修生を率いるのは聖騎士たち。
その中のリーダーとしてゲルディットがいる。
さらにはパシェまで一緒だ。
ゲルディットとパシェが一緒なのはありがたい。
実力も分かっているし、俺のことも知っている。
「また一緒だね」
「ああ、よかったよ」
パシェは聖騎士の中でも浮いているようで、他の聖騎士と話しているような様子はない。
獣人ということもあるのだろうし、全身鎧のパシェは見た目だけでもかなりの威圧感がある。
パシェ自身も積極的に誰かに声をかけるつもりないのだろうから孤立しても仕方ない。
むしろ一人の方が気楽な可能性もある。
「そちらの鎧の方……そういえば聖都に向かう際もいらっしゃいましたね?」
パシェに対して、他の研修生もやや引いている。
ここまでに会った聖騎士は割とちゃんとした人ばかりだった。
しかし悪魔や魔物と戦うということのためか、聖騎士には普通の聖職者よりも変な人も多い。
もっと言葉を選ばなきゃヤバい人も聖騎士にはいるのだ。
一般的な聖職者に比べて、魔物と戦ってくれさえすればいいということなのである。
パシェは全身鎧という出立ちだ。
鎧を身につけた聖騎士もいるが、常にヘルムまで被って全く隙を見せないガチガチに固めた人は少ない。
ヤバい人かもしれないと避けるのは当然の話である。
「そういえば自己紹介もしてませんでしたね。私はクレンシアと申します」
みんなが避ける中でクレンシアはパシェに対しても引いたところがない。
研修に入る前、聖都に行くまでにパシェもいたので顔を合わせた仲とは言える。
特に交流していた印象はないが、危なくない人だというイメージがクレンシアの中にはあるのかもしれない。
「…………」
「ええと……」
「この人はパシェって言うんだ。人見知りだから勘弁してやってくれ」
パシェはクレンシアの挨拶にも答えない。
困惑するクレンシアに代わりに俺が答えてやる。
一応性別もぼかして名前だけ伝えておく。
「そうなのですね。よろしくお願いいたします!」
どこを見ているかも分からない鎧の塊にもクレンシアは怯まない。
何を食って生きてきたらこんなコミュ力お化けになるのだろうか。
パシェに身を寄せていればクレンシア避けになるかもしれないと期待していたのに、少し予想外であった。
「まあ、ともかく、しばらくはまた一緒だな。ほら賄賂だ」
「もらっとく」
俺は懐からお菓子を取り出す。
ヘルムの奥でパシェが目を細めて笑顔を浮かべている。
人見知りだが、慣れてくると分かりやすいところもある可愛い奴だ。
「あっ、私にはないのですか! 結局あのあと買いに行けなかったのですからね!」
「はいはい……」
俺はクレンシアにもお菓子を渡す。
なんとなくだが、うるさい旅になりそうである。
ひとまずギュドスの視線はうるさい。
ーーーーー
「旅慣れているのだな」
「ああ、色々と連れ回されたからな」
夜になると枝を集めて焚き火を灯す。
火は大事だ。
悪魔や魔物はいつ襲ってくるか分からない。
あいつらにとって闇はあってないようなものだが、人にとって闇は悪魔や魔物の姿を覆い隠す敵なのだ。
敵から見つかりやすくなるなど戯言を言う奴もいるが、焚き火があろうとなかろうと悪魔や魔物には見つかる。
暗くて戦えないぐらいなら明るく焚き火を燃やしておくべきなのだ。
野営の準備は研修生たちが行う。
最初のうちは聖騎士も手伝ってくれていたが、最終的には研修生ができるようにと今はもう任される形となっていた。
「連れ回された……親は商人か何かか?」
「まあ、似たようなもんだ」
ゲルディットも聖騎士として色々と動いていた。
孤独から助け出された後の俺はゲルディットに色々と連れ回された。
剣も旅の知識もその時に備えたものが多い。
ペリフェは聖都育ちなためか、旅における野営の準備なんかの手際も悪かった。
俺がサクサクと用意を進めるのを見て、思わず感心してしまったようであった。
「色々行ったのか……羨ましいな。俺は聖都から出たこともないから、この旅ですら新鮮だ」
「聖騎士になればこれから遠くに行くだろ?」
「そうだな。旅を楽しむ……と言うと不謹慎かもしれないけど、他の地に行けるのは少し楽しみだ」
「まっ、色々行くためには長生きしなきゃな」
俺は焚き火に枝を投げ込む。
少し弱々しく燃えていた焚き火も火の勢いが強くなって安定してきた。




