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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―  作者: 柊梟環
EVOLVE Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―
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第2章 金色の灯(あかり)(中編)

アルカディアとアークシステムズの合同会議。

再び対峙する冷徹な鷺沼(さぎぬま)と、柔らかな(あかり)の声。

“余白”と“やさしさ”が交差したとき、

理性の奥で静かに何かが動きはじめる。

― アークシステムズ×アルカディア合同リモート会議 ―



午前9時。


モニターに7つの顔が並んだ。


アークシステムズ側は、(しゅう)(なぎ)(たまき)永峰(ながみね)(あかり)。 

アルカディア・インテリジェンス側は、鷺沼(さぎぬま)不破(ふわ)


冒頭の挨拶が終わると、画面の中央に映る鷺沼(さぎぬま)が口を開いた。


「それでは、第2フェーズに入る前に、進捗と課題を確認します。

 議事録は不破(ふわ)が取り、要点を午後までにまとめてください。」


声は低く、均一で、

まるで読み上げるように正確だった。


誰も(さえぎ)らない。(さえぎ)れる空気ではなかった。


(なぎ)が少し背筋を伸ばし、

手元の資料を確認して答える。


「はい。現在、アークシステムズ側で第7工程の設計を進めています。

 仕様書に沿って基幹部分を構築中です。」


「ドキュメントを確認しましたが、仕様記述に曖昧(あいまい)な部分があります。

 “ユーザー操作時のエラー分岐”が定義されていません。」


鷺沼(さぎぬま)の言葉に、(なぎ)の指が一瞬止まった。


「あ、はい。それについては、ユーザー体験を考慮して、動的に処理できるよう設計しています。

 想定外の操作にも対応できるよう、あえて条件を柔軟にして――」


「“柔軟”という言葉は、品質のばらつきを生みます。」


鷺沼(さぎぬま)の声が切り込む。


画面越しにも感じる、硬い静けさ。


(なぎ)の明るい笑顔が、少しだけ曇る。


「……はい、修正して再定義します。」


(たまき)はそんなやりとりを黙って見ていた。


(なぎ)も表情を変えない。


ただ、(あかり)の画面の隅に小さく映る笑みが、空気の緊張を少しやわらげた。


鷺沼(さぎぬま)さん。」


(あかり)が穏やかに声をかける。


「柔軟さって、たぶん“甘さ”ではなくて“余白”のこと

なんです。

 人が使うものって、少しだけ“遊び”があるほうがやさしいんですよ。」


鷺沼(さぎぬま)は瞬きをした。


何を言われたのか、一瞬理解が追いつかない。


“余白”“やさしい”——そんな単語は仕様書には存在しない。


「……余白は、想定外のトラブルを招くリスクになります。」


「ええ。でも、すべてを決めつけると、人もシステムも窮屈になります。」


(あかり)は静かに微笑んだ。


永峰(ながみね)も、わずかに口元をゆるめて言う。


「不確定要素があるから、プロジェクトって面白いんですよ。」


そのひと言に、鷺沼(さぎぬま)の視線が止まった。


論理的には不正解。


だが、不思議なことに、どこか惹かれる響きがあった。


——なぜ、そんな曖昧な考え方が通るのだろう。


「……では、本日の議題は以上です。」


鷺沼(さぎぬま)はそう締めくくり、

冷たく静かな声で会議を終えた。


画面が暗転する。


モニターの黒に映り込む自分の顔を見つめながら、

鷺沼(さぎぬま)はわずかに眉をひそめた。


違和感。


いつも通りの進行のはずなのに、

今日の会議だけ、どこかが噛み合わない。


温度の問題か、リモートの通信遅延か。


原因を探そうとする思考だけが、

静かに回り続けていた。

わずかな会話が、鷺沼(さぎぬま)の中に説明できないノイズを生んだ。

その違和感は、決して無駄ではない。

まだ見えない未来へ続く、最初の金色の灯となっていた。

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