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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―  作者: 柊梟環
EVOLVE Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―
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第2章 金色の灯(あかり)(前編)

会議のあと、環(たまき)の胸には小さな不安が残っていた。

その思いを受け止めたのは、いつもそばにいる“はは”灯(あかり)だった。

ぽかぽか邸で語られる言葉が、環(たまき)の勇気に明かりを灯す。

― 会議のあと、ぽかぽか邸にて ―



凪(なぎ)の案が採用された日の夜。


「君たちの案で進めよう」と言った瞬間、

鷺沼(さぎぬま)の表情がほんの一瞬だけ揺らいだ。


その変化を見逃さなかったのは、環(たまき)と灯(あかり)だけだった。


けれど環(たまき)の胸の中には、

まだ消えない緊張と、苦手意識が残っていた。



◇



数日後。


灯(あかり)がぽかぽか邸を訪ねてくる。


柊(しゅう)と凪(なぎ)は買い出しに出ており、

リビングには灯(あかり)と環(たまき)だけがいた。


「はは、コーヒー淹れますね。」


「ありがとう。やっぱりここは落ち着くわね。」


環(たまき)は少し迷ってから、

ぽつりと口を開いた。


「……鷺沼(さぎぬま)さんって、無駄がなくて完璧ですよね。

 でも、冷たい感じがして……わたし、緊張しちゃって。

 ははが笑ってくれるとホッとするの。

 最近、柊(しゅう)や凪(なぎ)くんが忙しそうで、

 わたし、ちゃんと役に立ててるのかなって思っちゃって。

 いつもなら気になることは柊(しゅう)に話すんですけど、

 いま話したら柊(しゅう)に負担がかかってしまいそうで……」


灯(あかり)はカップを置き、優しくうなずいた。


「そうね……環(たまき)は、冷たく感じる人が苦手でしょ?」


「はは、なんでわかるんですか?」


「そんなの、環(たまき)の顔見たらすぐわかるわよ。」


灯(あかり)は笑って、少し真面目な顔になる。 


「たぶんね、柊(しゅう)くんも環(たまき)の気持ちわかってると思う。

 いま大変かもしれないけど、

 環(たまき)がそうやって思ってること、ちゃんと話してくれるのをきっと待っていると思う。」


環(たまき)は静かに息を呑(の)んだ


「だから、環(たまき)。

 いま私に言ったことちゃんと柊(しゅう)くんに話しなさい。

 どんなに忙しくても、どんなに大変でも、

 ちゃんと聞いてくれる人でしょ?柊(しゅう)くんは。

 それどころか――“聞きたい”と思ってるはずよ。

 だって、環(たまき)の心の声をいちばん知りたいのは、

 柊(しゅう)くんなんだから。」


環(たまき)は小さく頷き、灯(あかり)に抱きついた。


「うん……ありがとう、はは。」


そのあと、買い出しから戻った柊(しゅう)と凪(なぎ)。


「ただいま〜」「ただいま!」

「おかえりなさい!」


灯(あかり)が環(たまき)の背中を軽く押した。


「ほら、環(たまき)。」


環(たまき)は勇気を出して言った。


「柊(しゅう)、聞いてほしいことがあるんです。」 


「ん? いいよ。ここで話す?」


「ここで大丈夫。」


環(たまき)は深呼吸して言葉を紡(つむ)ぐ。


「最近、わたし……役に立ててるのかなって。

 柊(しゅう)や凪(なぎ)くんが頑張ってるのに、

 鷺沼(さぎぬま)さんの前だと緊張しちゃって、

 ひと言も話せなくて……」


柊(しゅう)は環(たまき)の手を包み、穏やかに笑った。


「環(たまき)。俺たちは環(たまき)がいるから動けてるんだ。

 環(たまき)がいなかったら、たぶん俺も凪(なぎ)も混乱してるよ。

 役に立ってるとかじゃなくて、いてくれることが大事なんだ。」


「そうですよ! 環(たまき)さんがいないと仕事進みません!」


凪(なぎ)も笑って続ける。


柊(しゅう)がふと、やさしく言った。


「環(たまき)は、鷺沼(さぎぬま)さんみたいなタイプ苦手だろ?」


「え? なんでわかるんですか?」


「そんなの環(たまき)の顔見たらわかるよ。」


環(たまき)は目を丸くした。


「柊(しゅう)、ははと同じこと言ってる!」


「え?」


灯(あかり)が楽しそうに笑う。


「そう! 柊(しゅう)くん、私とまったく同じこと言ったわよ〜!」


3人の笑い声に、

凪(なぎ)もつられて笑い出す。


「僕もわかりますよ。環(たまき)さん。

 僕もあの人ちょっと苦手です。」


「え! 凪(なぎ)くんも?」


「はい、ちょっと冷たい感じしますよね。」


「でも、この前、一瞬だけ表情が変わったんです。

 うまく言えないけど、何か違って見えたんです。」


灯(あかり)は少し目を細めた。


「そう……私もそう思ったの。

 ほんの一瞬だったけど、

 氷が揺れたみたいにね。」


ぽかぽか邸のリビングに、

やわらかい光が差し込んでいた。


その静けさの中で、

まだ遠い誰かの心が、

ほんの少しだけ動いたような気がした。

柊(しゅう)と凪(なぎ)、そして灯(あかり)が支えてくれた安心。

環(たまき)の言葉は、冷たい理性の壁にそっと触れ、

小さな“揺れ”となって鷺沼(さぎぬま)の胸に残っていった。


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