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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―  作者: 柊梟環
EVOLVE Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―
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第2章 金色の灯(あかり)(後編)

“正しさ”と“やさしさ”の設計が並ぶテスト。

完璧な理性と、柔軟な心。

2つの答えが画面に示され、鷺沼(さぎぬま)は初めて揺らぐ。

― 第7工程デモ ―



リモート会議の画面には、

再び7人の顔が並んでいた。


鷺沼(さぎぬま)が淡々と告げる。


「第7工程の設計方針を再確認します。

 アークシステムズ側の“柔軟性を持たせた設計”は、

 当初の仕様定義から逸脱しています。」


(なぎ)が少し前に身を乗り出した。


「はい。ですが、実際のユーザー動作を考えると、

 想定外の入力も拾える設計にしておく必要があるんです。

 人の操作って、必ずしも想定どおりじゃないですから。」


「“想定外”を拾う仕組みは、

 エラー処理を複雑にします。

 論理的整合性を保つことが優先です。」


その冷たいひと言に、(なぎ)の肩が少し沈む。


(しゅう)が静かに口を開いた。


「確かに理論上はそうですが、

 実際にシステムを運用するのは人間です。

 柔軟さって、事故を防ぐ“余白”なんですよ。」


「……余白、ですか。」


鷺沼(さぎぬま)の目が一瞬だけ動いた。


永峰(ながみね)が画面越しにゆっくりと言葉を重ねる。


「完璧な設計って、

 “誰もミスをしない前提”で成り立つんですよね。

 でも、ミスを想定した設計は、

 人を守る設計でもあります。」


(あかり)がやさしく笑った。


「人って、完璧じゃないですもの。

 だからシステムが少し寄り添えば、

 その人もちゃんと動けるんです。」


鷺沼(さぎぬま)はわずかに息を吐いた。


理解不能。


彼らの言葉は情緒的すぎて、理屈になっていない。


「……理論より感情を優先する設計は、

 品質を不安定にします。

 ただ、論より証拠でしょう。

 両方のシステムを実行して確認します。」


モニターに2つの画面が並ぶ。


一方は鷺沼(さぎぬま)の設計――

ロジックの欠片(かけら)も狂いのない完璧な構成。


もう一方はアークシステムズの設計――

枝分(えだわ)かれが多く、“曖昧(あいまい)”な分岐を許容する構造。


テストが始まった。


鷺沼(さぎぬま)案の画面が滑らかに動き出し、

会議の空気にわずかな緊張が走る。


誰もが息を詰めた。


だが、進行バーが7割を超えた瞬間――


警告音。


画面が一瞬、黒に切り替わる。


「……エラーコード327。想定外入力による停止。」


不破(ふわ)の声がわずかに震えた。


沈黙。


(なぎ)が小さく(つぶや)く。


「その入力、ユーザーが誤操作したときの想定ですね。」


続いて、アーク案が実行される。


進行バーがゆっくりと右へ伸び、

エラーもなく完了の表示が浮かぶ。


鷺沼(さぎぬま)は無言で画面を見つめていた。


表情は変わらない。


ただ、その沈黙の長さが、

彼の中で何かが噛み合っていないことを示していた。


「……君たちの案で進めよう。」


それだけを告げて、

鷺沼(さぎぬま)は画面の共有を閉じた。


誰も勝ち誇らない。


アークの5人は、ただ静かにうなずき合う。


勝負ではないことを、全員がわかっていた。


モニターに映る鷺沼(さぎぬま)の横顔を見つめながら、

(たまき)は小さく思った。


――この人は、まだ“正しさ”の中で生きている。


けれど、きっといつか、

その中に“ぬくもり”を見つけられる日が来る。


会議が終わると同時に、

鷺沼(さぎぬま)はひとり、モニターの光を見つめたまま動けなかった。


理屈では説明できない成功。


たかがデモ。されど、完璧な理性では(くつがえ)せない現象。


――あれは偶然か、誤差か、それとも……。


答えの出ない問いだけが、

彼の中に静かに残っていた。

結果はひとつの事実を示した。

揺れた心を認めたくない鷺沼(さぎぬま)は沈黙するが、

その沈黙こそが“変化の始まり”だった。

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