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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―  作者: 柊梟環
EVOLVE Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―
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第8章 軋む理性 ― 怒りの果てに ―

冷たく鋭い言葉が飛ぶ会議。

環は震え、柊は寄り添い、凪は前を向く。

鷺沼の怒りの奥には、まだ言葉にならない揺らぎがあった。

午前10時。

アークシステムズとアルカディア・インテリジェンスの第八工程仕様確認会議が始まった。


面の中央には鷺沼さぎぬまの姿。

冷ややかに整った声が、会議室の空気を一瞬で凍らせた。


「――この設計では整合性が取れません。

 “柔軟性”などという曖昧な言葉で工程を濁すのは、非効率です。」


なぎが淡々と説明を続ける。

「確かに即時効率は落ちますが、長期的な保守性では――」


「保守性の前に、まず“結果”だ。」

鷺沼の声が低く響いた。

完璧に磨かれた理性が、鋭い刃のように飛ぶ。


その言葉の圧に、たまきの体がびくりと揺れた。

呼吸が浅くなり、手のひらの中のペンがかすかに震える。

(……怖い。声が出ない……)


幼い日の記憶が、ふいに胸を締めつけた。

叱責、沈黙、誰も助けてくれなかったあの頃の感覚が、

心の奥から這い出してくる。


その瞬間――

隣に座るしゅうが、静かに環の手を包んだ。

言葉はなく、ただ優しく頷く。

そのぬくもりが、環の震えを少しずつほどいていった。


画面越しにそれを見ていたなぎが、

小さく笑って「大丈夫」と唇を動かす。


鷺沼は無言のまま、その一連の動作を見つめていた。

理屈の届かない優しさに、胸の奥がざわめく。


(……何なんだ、あの落ち着きは。

 なぜ、怯えていた女性があんな目をできる?)


苛立ちが理性を突き上げる。

「――この件は再検討です。」

強い語気で言い放つと、会議を切った。



◇◇◇



会議室の画面が閉じたあと、

しばらく誰も言葉を発しなかった。


環は下を向いたまま、肩を小刻みに震わせていた。

柊がそっと近づき、彼女をやさしく抱きしめた。


「……もう大丈夫だ。よくがんばったな。」


その声で、環の中の緊張がようやくほどける。

凪は明るく空気を変えるように笑った。

「いや〜、また怒られちゃいましたね〜!

 でも、これで引き下がるのも悔しいですよね!」


環は涙を拭き、少し笑顔を取り戻した。

柊が穏やかに言う。


「鷺沼さんにも、きっと譲れない思いがある。

 でも――」

少し間をおいて、

「誰のためにシステムを作るのか。そこを間違えなければ、

 俺たちは俺たちのやり方で貫けばいい。」


「ですね!」と凪が笑い、

環も小さく頷いた。

「……はい。」


そのとき、会議の隅で黙っていた一人の青年――

不破恭介ふわきょうすけが、静かに画面を閉じた。


彼は誰よりも早く出社し、誰よりも遅く残る努力家。

だが、いつもどこか焦っていた。


(……あの人たち、何なんだろう。)

効率も、スピードも、完璧さも、

あの温度にはかなわない気がした。


それが羨望なのか、嫉妬なのか、

自分でもわからなかった。


窓の外には、薄く差し込む午後の光。

そのやわらかな光が、

いつもより少しだけあたたかく感じられた。

怒りの裏側にあったのは“恐れ”だった。

不破だけがその影を感じ取り、静かに変化の気配を覚えていた。

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