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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―  作者: 柊梟環
EVOLVE Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―
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第9章 揺れる信仰 ― 不破と鷺沼 ―

不破(ふわ)の胸にも、アークのメンバーが残した“光”が揺れていた。

鷺沼(さぎぬま)への疑問。

そして、自分の信じてきた“正しさ”への問いが生まれる。

夜。


アルカディア・インテリジェンスのオフィスには、

白い蛍光灯の光だけが残っていた。


キーボードの音がひとつ、またひとつ、

広い空間にこだました。


不破(ふわ)恭介(きょうすけ)は、画面を見つめながら息を止めた。


さっきまで続いていたオンライン会議の映像が、

頭の奥で何度も再生されている。


あの女性――(たまき)の震える手。

それを静かに包んだ如月(きさらぎ)の腕。

そして、どんなに責められても明るさを失わない(なぎ)の笑顔。


どれも不思議なくらい鮮明に焼きついて離れない。


(感情を仕事に持ち込むな。そう教わってきたはずなのに……)


不破(ふわ)は、椅子から立ち上がり、鷺沼(さぎぬま)のデスクへと向かった。


鷺沼(さぎぬま)はまだ帰っておらず、

硬い背筋のまま資料に目を通していた。


鷺沼(さぎぬま)さん、少し……お話ししてもいいですか。」


「どうした。」


不破(ふわ)は、躊躇(ためら)いながら口を開いた。


「さっきの件ですが、どうしてアークシステムズ案を“再検討”にしたんですか?」


鷺沼(さぎぬま)の手が、ペンを止めた。


「判断基準に不確定要素が多すぎる。

 “やさしさ”など、設計の理屈にならない。」


「でも、彼らの案――

 ユーザーの負担を軽くする仕組みは、理にかなってます。」


鷺沼(さぎぬま)の目がわずかに細くなる。


「理にかなっていようと、感情を混ぜた時点で不安定だ。」


不破(ふわ)は、思わず声を荒げた。


「じゃあ、鷺沼(さぎぬま)さんはどうしてあの案を最後まで否定しなかったんですか?

 “再検討”にしたのは、完全に切り捨てられなかったからじゃないんですか?」


鷺沼(さぎぬま)の肩が、ぴくりと揺れた。


しかし次の瞬間、

彼はいつもの冷たい表情に戻り、静かに言った。


「……不破(ふわ)。言葉を選べ。」


「俺はただ、聞きたいだけです。

 何か、あの人たちに感じたことがあったんじゃないですか?」


沈黙。


時計の針の音だけが、やけに響く。


鷺沼(さぎぬま)は視線を落とし、低く答えた。


「……感情で動く人間は、長くは持たない。」


その声は、静かで、どこか痛々しかった。


理性の影に、確かに“揺れ”があった。


不破(ふわ)は、それを聞いて胸がざわめいた。


怒りでも反発でもない――

ただ、どうしようもない違和感。


(この人、変わってきてる……

 でも、それを自分でも認めたくないんだ。)


言葉を失った不破(ふわ)は、小さく頭を下げた。


「……失礼しました。」


鷺沼(さぎぬま)は何も言わず、ペンを再び手に取った。

だが、その指先は、微かに震えていた。


不破(ふわ)がオフィスを出たあと、

鷺沼(さぎぬま)はひとり残って窓の外を見た。


高層ビルのガラスに映る街の灯り。


どれも規則正しく並び、完璧な幾何学(きかがく)のように見える。


けれど、そのひとつひとつが、

人の手で灯された“揺れる光”だということを、

彼はなぜか忘れられなかった。

鷺沼(さぎぬま)の言葉は強くても、指先は震えていた。

その震えこそ、長い理性の鎧が砕けはじめた証だった。

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