何度もこうする仲だった 2
その場に残されたララが顔を上げると、若い聖騎士のテオと視線が合う。
「あの、ええっと……」
テオは戸惑うように、次の言葉を探している。
ララは相手の緊張をほぐすように微笑むと言った。
「ララよ」
彼はほっとした表情を見せたあとで、人懐っこく笑う。
「初めまして、ララさん。では、僕のことはテオと呼んでください」
「わかったわ、テオ」
テオは言いにくそうに、
「……その、ララさんはアーヴィンさまとお知り合いなんですか?」
ララは首を傾げる。
(──アーヴィン?)
そこで、ああ、そうかと理解する。
アルトリウスの今の名が、アーヴィンなのだ。
ララは前世のララフネスだったときから愛称がララだったので、今その名で呼ばれても違和感がなかった。
「アスのことね。まあ、そうね、古い知り合いというか……」
それ以上どう自分たちの関係を説明すればいいのかわからず、ララは言葉に詰まる。話を変えるように、
「その白い隊服、あなたたちは聖騎士なのよね?」
「あ、はい、僕はまだ見習いですが。アーヴィンさまは筆頭聖騎士です」
「……そう、それも同じなのね」
ララは独り言のようにつぶやくと、今はアーヴィンという名の彼が向かったほうへと目を向ける。
いったい彼はいつから記憶があるのだろう。
ララはついこの間、たまたま大聖女の聖杯と呼ばれるあの酒杯を目にして、突如として記憶が戻ったにすぎない。
テオは不思議そうにララを見つめていたが、ふと笑みをこぼすと言った。
「でも驚きました。あんなにもはしゃいで笑ってるアーヴィンさまを見るのは初めてだったので」
ララはテオに目を向けると、首を傾げる。
「そう? あんなものじゃない?」
前世でもよくララのことをからかってきていた。
恋人ではなかったけど、魔獣の大討伐にあたった仲間内では一番仲がよかったと思っている。
(でもあんなに手は早くなかったはずだけど)
ララは先ほどアーヴィンにされた数々のことを思い出し、赤面する。
でもすぐにはたと思い直し、真顔になる。
(それともわたしが知らなかっただけ……?)
記憶の中の彼はよく女性から声をかけられていたし、いやがるふうでもなく、たいてい笑みを見せて接していた。
そうだ、それを見て自分はいつもモヤモヤした気持ちを抱えていたのだ。
いやなことを思い出してしまった。
ララは急いで、その記憶を頭から追い出す。
「──ララさんは、聖女さまなんですか?」
唐突にテオに尋ねられ、ララは彼を見返す。
「先ほど魔獣を一掃してくれた姿を見ました。まるで言い伝えに出てくるあの大聖女さまのようでした。聖騎士は存続していますが、昔と違って、聖女と呼ばれる方は今はいないと聞いているので」
かつては、聖女も聖騎士と同じくらいいたはずだ。時の流れを感じる。
「……聖女かどうかはわたしが決めることではないわ、ただの役割だもの」
ララはつぶやくように言った。
そこで急激な眠気に再び襲われる。
どうにも制御できそうにない。
「あの、テオ……。ごめんなさい……、なんだか急に眠気が──」
言い終わる前に、力尽きるようにそこでララの意識は途切れた。