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帝国と聖女選定

 ──大陸の北西地域一帯を治める、アリヴィウス帝国。


 五百年以上前、大陸のとある王国の聖騎士と聖女らによる命を賭した魔獣の大討伐があり、すでに魔獣によって多くの国が失われ荒れ果てた地に、この国は建国された。


 現在、帝国の中心には繁栄した帝都があり、帝都を見下ろす高台には、見る者を圧倒するほどの荘厳さと広さを誇る皇城がある。


 三か月前、壮年だった皇帝が突如病に倒れ、崩御した。


 帝国中が深い悲しみに包まれる一方で、国の安定のためには一刻も早く新たな皇帝の即位が望まれた。


 しかし、崩御した皇帝には後継者となる子どもがいなかった。


 かつて皇帝には聡明な弟がいたものの、十五年以上も前に遠征先で不慮の事故に遭い、命を落としている。


 現状、帝位継承第一位にあたるのは、亡き皇帝の妹、皇女の降嫁先であるローイエン公爵家の嫡男、アーヴィン・ローイエン。


 彼は帝国の筆頭聖騎士(パラディン)も務めており、一年前、最年少の二十一歳で筆頭聖騎士になった経歴を持つ人物だ。


 帝国は、筆頭聖騎士のアルトリウスを皇帝として建国した歴史がある。


 そのため、継承順位と血筋、経歴、実力などからしても、彼が帝位を継ぐのではないかと言われているという。




 この国において、帝位継承は退位する皇帝から新たな皇帝に、象徴となる帝冠と装飾杖の帝笏(ていしゃく)が譲り渡される『戴冠神聖式』を行うことで、正式に即位したと認められる。


 ただし、帝位を譲る前に皇帝が崩御した場合に限り、戴冠神聖式では新たな皇帝に帝冠と帝笏を渡す役割を、今の時代では帝国の儀式や祭祀を管理する立場の神官長がずっと担ってきている。


 かつてその役割は、帝国で最も高い神聖力を持つ聖女が務めるのが慣例とされていた。


 しかし、十分な神聖力を持つ聖女が存在していたのは昔のこと──。


 今では女性にわずかな神聖力があるだけでも稀だ。聖女の存在が失われて以降、神官長がその役目を担っているのも致し方ないことだと言える。


 しかし、このたびの戴冠神聖式は、建国五百年を迎えたあとで初めて執り行われる機会ということもあって、儀式を担う初老の神官長からは、『今こそかつての慣例に従い、聖女が行うべき』との強い申し出があった。

 神官長は、神殿に祀られる大聖女への信仰が特に厚い人物としても知られている。


 それに押し切られる形で同意を示したのは、主要な貴族家門。その同意の背景には、近年では滅多にないほど高い神聖力を持つひとりの貴族令嬢の存在もあっただろう。


 そして、聖女による戴冠神聖式の記録を調べたところ、百年以上も前に執り行われた記録が直近であり、その当時、聖女は帝国内の十四歳以上の貴族令嬢に絞って選定したということだった。


 皇帝即位を帝国内外に知らせる儀礼的な要素が強かったことと、当時から平民女性の中では神聖力を保有する者が極めて稀になっていたことが、その理由として考えられた。




 そして現在──。


 過去の史実や記録にもとづき、一か月ほど前から新たな皇帝の戴冠神聖式に伴う聖女選定が行われている。


 皇城には、資格を有する帝国内の貴族令嬢らが選定を受けるために滞在している。


 ただすでに、有力な家門の令嬢のほとんどは選定を受け終えたらしく、あとは下位貴族である子爵家や男爵家の令嬢が帝都に集まり、自身の順番が来るのを待っている状況だ。


 もうしばらくすれば選定も終わりを迎え、このままいけば現時点で選定を受けた者の中で最も神聖力が高かった、聖職者を多く輩出する家門、筆頭侯爵家の令嬢に決まるだろうと関係者の間では密かに噂されている──。



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