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不思議な感覚

 黒い眼帯をつけた長身の男は、急ぎ早に去っていく若い娘の華奢な背中を視界に捉えながら、なぜか急に体が軽くなったような不思議な感覚を抱いていた。


 つい先ほど彼女に握られた、自身の手のひらに目を落とす。


 握られた瞬間、何かが体の中を駆け抜けるような、それでいて包み込まれて癒されるような、経験したことのない感覚があった。


 気のせいだろうか……。


 そのとき、背後から声をかけられた。


「おお、デニーク騎士団長ではありませんか!」


 デニーク、と呼ばれた眼帯姿の男が振り返る。


 デニークは現在、皇帝直属騎士団の団長を任されている。


 彼は下位貴族である子爵家の出身だが、実力を買われ、皇帝直属騎士団に所属してからは数々の要職で経験を積んだ。その数年後には、聖騎士団に移ってさらに腕を磨き、前任の筆頭聖騎士の右腕をも務めた。


 そうして一年前、皇帝直属騎士団に戻ると同時に、ついには団長にまでのぼり詰めた経歴の持ち主だ。

 実力は申し分なく、部下思いの性格もあって、特に平民出身の騎士からは広く慕われている。


「ここでお会いするのも珍しいですな。私服ということは、城下に出向いておられた帰りで?」


 そう言って親しげに声をかけているのは、白髪まじりの年配の男。デニークも知っている人物だ。


 年配の男は、デニークが指揮している皇帝直属騎士団、そのさらに下位の部隊のひとつ第五部隊に所属していた元衛兵だった。年をとったこともあり、数年前に異動し、現在はこの門番の任についている。どうやら少し持ち場を離れていたようだ。


「あ、ああ、用があって城下へ、それで少し前に戻ってきたんだが……」


 つい先ほど、デニークは別の裏門を通って外から城内へと戻ってきたのだったが、この南側の城壁周囲を守る衛兵長に伝えることがあったのを思い出し、こちらにやって来たところ、城外に出たいと言う若い娘と鉢合わせた。


 体に残る不思議な感覚のせいで、どこか気の抜けた覇気のない返事になる。


 常日頃から隙のない様子の彼にしては珍しいことだった。


 年配の門番も少し不思議そうに首を傾げはしたものの、それ以上はさして気にせず、門番の小屋に近づくと慣れた様子で木戸を開ける。


 すると小屋の中では、見張りをしているはずの若い門番がぐっすり眠りこけていたので大いに驚く。


「おい、起きろ! 門番が居眠りしてどうする!」


 年配の門番はすぐさま駆け寄って、ぐっすり眠りこけている若い門番の体を激しく揺する。しかしなおも起きないので痺れを切らす。


「ええい! 早く起きろ! 城内に盗人が出たらしい、怪しいやつを見なかったか!」


 その言葉を聞いた瞬間、デニークの肩がピクリと跳ね上がる。


 まさかと思いながらも、つい先ほど城外へ出る許可を出した、薄水色の髪色が珍しいと思った若い娘のことが頭をよぎる。


 デニークは思わず、年配の門番を問いただす。


「盗人だと? いったい何があった」


「いえ、それが、なんでも東棟の光の間に置いてあった大聖女さまの聖杯を盗もうとした若い娘がいたようで、たまたま居合わせた神官長さまがそれを阻止なさったのだとか……! 神官長さまは大層お怒りだそうで、それだけでなく筆頭聖騎士のアーヴィン卿までもかなり殺気立って、城中の者に捜索を命じていると──」


 デニークの表情がより一層険しくなる。


「その娘の容姿は──!」


 鋭い口調で、その若い娘の容姿を年配の衛兵に確認する。


 その答えを聞くやいなや、デニークはすぐさま城門を離れ、急ぎ皇城へと向かった。



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