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会議中の王様

「果竪、待って!」


パタパタ長い廊下を爆走する果竪の後を、後ろから追うように明燐と宰相が追いかける。

しかし果竪は二人の手をかいくぐり、ハムスターのようにチョコマカと走り回り目的地への扉を開け放った。



「萩波いる?!」



そう叫んだ果竪は車がスピンするような音を立ててその場に立ち止まる。

その急停止に、後ろから追いかけてきた明燐達も思わずつんのめった。



「――果竪、どうしましたか?」



そこには、夫を始め長机に上層部が勢揃いしていた。

それぞれが書類を手に持ち、いかにも重要な会議をしていたような雰囲気である。



普通ならここで即座にUターンするだろう。

しかし、ここにいる上層部は全て果竪とは大戦時からの顔見知り。


「何か話合い?」

「ええ、ちょっとした……ね」


そう言って艶めいた笑みを浮かべる萩波。

ムダに色気過多なのは果竪の勘違いではないだろう。

現に、上層部の者達も魅入られたように顔を赤らめている。



「ちょっとした――また後宮造れって言われたの?側室候補や正室候補の姫君達が送られてきたの?それとも寝室に投げ込まれた?襲われた?」



こいつが襲われるようなタマか――



そこに居た全員が思った。



「果竪は……私が襲われたらどうしますか?」

「相手ボコって萩波を慰める」



胸キュン率120㌫。

そこに居た全員が男らしい果竪の答えに心を鷲づかみにされた。


「果竪……嬉しい言葉ですが、残念ながら違うんですよ。ちょっと戦になりそうなぐらいで……すいませんね」



ちょっとかよ。そしてすいませんって何だよ。



長年の付き合いだが、この王の思考回路は未だに分からなかった。



「戦って……どことっ!」

「え~~、滝国とです」


滝国――この凪国から数カ国を挟んだ北側にある国である。

国の大きさは中程度で、それなりの国力を持っているが、凪国と比べれば巨岩と砂粒ほどの差もある。


だが一番の差は国王同士の差である。

容姿端麗、文武両道。

その政治手腕は炎水界でも一,二を争うとされる賢君の誉れ高い萩波とは違い、滝国の王は正しく愚鈍だ。

といっても、前王はそうでもなかったが、その馬鹿息子が継いでからは悪化の一途を辿っている。


その滝国がうちの国に喧嘩を売ってきた。



「勇者だわ」


全面戦争になれば確実に凪国が勝つだろう。

何せ、うちの国は一兵卒でさえ他国では将軍クラスの強さを持つ。

それもこれも全て、有能たる将軍、軍師が数多く、官吏達も名吏達が揃っているからだ。


家柄や身分に関係なく、全ての者達に門戸を開いた官吏、武官への試験。

それにより、将来を嘱望される多くの有能な人材、原石を発掘した。

勿論、ここまで育ったのはそれらを指導する者達と、本人達の並ならぬ努力のおかげである。


凪国の良いところは頑張っただけきちんと評価される事。


それ故に、常に努力を怠らず、多くの有能な人材が輩出されていくのである。


それと、半分以上腐った官吏達で占められた滝国。



絶対勝てないって。



「いや、それよりもその戦は当然回避するのよね?」

「回避ですか……」

「そうよ。無駄な戦いはする必要はないわ」


果竪の断言に、上層部の者達は笑う。


無駄な戦いなどいらない。すぐさま武器を持って戦うのは馬鹿のする事だ。

戦う前に話合え。戦は最後の手段だ、それが出来なければ相手の弱みを握ってでも戦う道を捨てろ。


普通の王妃はここまで言わないだろう。

しかし、果竪は言う。戦によって大切な者達を奪われた悲しみを知っているから。


「絶対に戦っちゃ駄目!」

「果竪……」


そうよ、駄目よ


果竪はグッと拳を握りしめる。



もし戦いが始まって、うちの国にまで攻め込まれ出もしたら――



「せっかく耕した大根畑が全滅するじゃない!!」



そこか――



萩波以外の全員がその場に頽れた。



「何よ」

「大根畑が全滅って……別にそれはどうでも」

「どうでもいいですって?!それは全国百億人いる大根農家を敵に回す発言よっ!」



そんなにいるの?!



「いい?!この季節、働き者の大根農家の皆さん及びこの私は毎日のように畑を耕しているわ。そう――綿密な計算の元、一つの種も無駄にならないように完璧かつ黄金律の如き比率にて計算し尽くされた完璧な畑!等間隔に耕すのにどれほど苦労したか!愛しい大根の寝床となるべき土を柔らかすぎず固すぎず!!けれど、柔らかな羽毛布団の如き状態にするまでにどれほどの汗水をたらし苦労をしてきたかっ!」



その苦労が貴方達に分かる?!



そう叫ばれた上層部は固まった。



分からない


そう言いたいが、言った瞬間たぶんぶっ飛ばされる。



「その畑を戦で踏み荒らされるなんて許せるはずがないじゃない!寧ろやったら潰す!!」



果竪の気迫に、上層部はたじろいだ。

絶対こいつはやる。大根を愛して○○○年。

大根の為ならばどんな遠方の地にでも行こうとするほどその愛情は強い。



「だ、大丈夫だって……うちの国強いから攻め込まれないし……寧ろ攻め込む方?」



というか、間にも幾つも国があるし……



そう言ったら怒鳴られた。



「大丈夫?攻め込むから?他の国があるから?じゃあ他の国の大根畑が被害にあうじゃないっ!冗談じゃないわよ!自分の国の大根畑が無事だからって他の国の大根畑が被害にあってもいいわけないじゃない!」

「そ、そういうもん?」

「そうよ!全ての大根は皆兄弟!自分の愛しい兄弟が遠くの地で被害にあっているなんて分かったら――」



果竪の脳裏に大根の嘆きが木霊する。



「いっやぁぁぁぁぁぁぁ!私の愛する大根の存亡の危機よぉぉぉっ!」



果竪の絶叫が王宮中に木霊する。



慌てて口を塞ぐが既に遅い。

一体何事かと走り込んでくる、真面目に仕事をしていた善良なる官吏及び侍女侍従達。

その者達に大丈夫だからと言って引き取って貰った後、ようやく果竪の口から手を外した。


それでもぎゃあぎゃあと喚く果竪。

というかどうして大根一つにそこまで騒げる。



「って事だから戦はなしよっ!」



何が、って事だ――だ!!


しかし、萩波は違った。

それは美しすぎる笑みを妻に向けて玲瓏なる美声でのたまった。


「分かりました。では、王のスキャンダル情報を週刊誌にすっぱ抜かせましょう」


あれだけの馬鹿王なのだ。その手のスキャンダルは沢山ある。

クスクスと笑う王に、反射的に果竪は明燐に抱きつく。


「それは良い考えだけど……あそこまでの馬鹿だったら、あまり効果がないんじゃないから?」


会議に参加していた王の影である茨戯の言葉に、宰相以下全員が頷く。

スキャンダルも何も、あの馬鹿さ加減は既に他国へと知れ渡っている。

もはや恥も外聞もなし。

すると、萩波はにこやかに言った。


「そんなもの、効果があるようにしてさしあげればいいんですよ」

「どうやって」

「麻酔打って眠らせた後に裸にひんむいて本番ありのBL専門風俗店に投げ込むとかはどうでしょう?」


たおやかで優美。

深窓の姫君の如く、優雅な仕草で美しい刺繍がなされた袖で口元を覆い浮かべる姿は誰もが目を奪われるほどの艶姿。


「無類の女好きの好色馬鹿ですからそのダメージは凄まじいでしょうねぇ?」


しかし、老若男女問わず確実に堕ちる笑みはいっそ禍々しくさえあった。



綺麗な顔してえげつねぇ!!



炎水界でも名高い美貌の麗人のくせに、笑顔でそう言い切る王に全員血の気が引いた。

そんな中、果竪だけは首を傾げる。


「……………BLって何?」

「果竪は知らなくていいんですよ」



実行部隊だけが知っていれば――



果竪を愛しげに抱き、茨戯達に微笑む笑みはどこまでもどす黒い。

白皙の美貌なのに、その黒々しさは寧ろ国宝級だろう。


「ってか、そんな事したら寧ろ死ぬんじゃ……」

「寧ろくたばってくれた方が滝国の未来は明るいでしょう」


そして将来性のある者に国を託した方がよほどいい。

そう告げる萩波に果竪以外の全員が引きつった笑みを浮かべた。


「え~~、どうせなら凪国の領土の一部にしちゃえばいいんじゃない?」

「めんどくさい。なんだって人の国の面倒まで見なきゃならないんですか」


唯でさえ、凪国という大国の王などやって大変なのだ。

これ以上領土を広げる気もなければ他国を領土の一部にする気もない。


「という事ですから、滝国にある手頃なBL専門の風俗店を探すように」


どうしてもそこに投げ込む気なのか。

同情する気は全くないが、茨戯達は滝国の馬鹿王を少しだけ不憫に思った。


「それで、果竪の用は何ですか?」

「え?」

「何か用があったんでしょう?」

「あ、えっと――」


果竪はここに来た目的を思い出すと、それを夫へと伝えた。




本編ではあまり出て来ない王宮の皆様が出てきました。


今回一番そのドス黒さを出してくれた王様♪

しかし彼の黒さはこんなものではありません。


そして果竪の大根大好きっぷりもますますヒートアップしていくと思います。


という事で、次回もよろしくお願いします♪

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