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援軍

26 援軍



 茜の魔術により青紫に染まった僕の指。

 それがちかちかと明滅を繰り返している。

 「明人くん、なんか変なもんでも食べた?」

 「いや、病気とかではないでしょ、これ」

 考えていても仕方がない。

 もしかするとメアを手助けする足がかりが何か得られるかもしれない。

 そう思い僕は指を絡み合わせて人差し指と中指の間にできた隙間を覗き込んだ。

 「おっ、繋がった。やほー明人くん!」

 

 夢の世界でも普通に通信できるようだ。

 指で形作った狐の窓の向こうから茜が呼びかけてきた。

 「狐の窓の術式をちょっと改良してこっちからも呼べるようにしたんだー」

 「明人さん、こちらは荒川さん、白月さんと合流しました。アウラさんも監視付きで病院まで搬送されたとの事です」

 そう言ったのはラルカさんだ。

 彼女は続けて言う。

 「そちらはどうですか?荒川さんと白月さんが見ていてくれるので私も合流できますが、助けは必要でしょうか?」


 助けは必要だ。

 しかし魔術を吸収する過去メアが相手だ。

 魔術師のラルカさんが助けに入ってくれたところでどうなるのだろうか。

 僕が逡巡を巡らせていると、ラルカさんは何かを察したらしい。

 「何か問題がありそうですね。とりあえずそちらへ参ります」

 「来るってどうやって………」

 僕の問いに彼女は行動で答えを示した。

 手で作った狐の窓。

 一円玉程しかないその小さな隙間に、ラルカさんが人差し指を差し入れた。

 そのままコトリと僕の足元に指が落ちた。

 第二関節で外れたそれに目をやると、手首、腕、身体、頭、足、それに服や靴が一秒も掛からずに生えた。

 あまりにも速かったため、生えたのか突然現れたのかは分からないが、少なくとも指に近い部位から順に出現したのだけは分かった。


 そこに現れたのは、膝丈ほどのスカートの青いワンピースドレスを身にまとい、白のロングブーツを履いたラルカさんだ。

 「まさか物理的に夢の中に入ってくるとは思わなかったよ」

 「夢の中といっても、ここはメアさんの精神の中などではなく、スタートゥインクルアストラルイートイルの中みたいですけれど」

 ラルカさんの言葉を深く考えようとして、瓦礫が吹き飛んだ音で現実に引き戻される。


 「あれはメアさんともう一人は………もう一人もメアさんですね」

 過去メアの方は大人の背丈になっているが、ラルカさんはすぐに分かった様だ。

 「どちらが本物………いや、両方魂が有りませんね」

 「片方は意識が覚醒してるメアで、あの大きい方がこの夢の世界の影響を受けているメアだよ。あの子をマリアが持っている杖で目覚めさせればいいんだけど………」

 「ではひとまずはあの小さい方のメアさんに加勢すれば良いのですね?」

 「そうなんだけど、魔術やその他の物理的な力も全部吸収されるみたいなんだ」

 過去メアに攻撃したつもりが逆にエネルギーを吸い取られて敵に塩を送るはめになりかねない。


 まてよ………じゃあ過去メアではなくメアの方に魔術を撃ち込んで補充してもらえばいいんじゃないか?

 「ラルカさん、あの小さい方のメアに魔術を撃ち込む事はできる?あっちのメアは今魔力がほとんど無い状態なんだ」

 「私の魔力であのメアさんを回復させるということですか」

 「そうだよ。さっき千代が目からビームを撃ってメアを回復させようとしたんだけど、過去メア………あの今は大きい方のメアにエネルギーを横取りされちゃって………」

 「千代さんが目からビームを出すというのは興味をそそられます。でもそれはそれとして、ビームを受ける前に大きい方のメアさん………過去メアさん?の魔力量は分かりますか?」

 「魔力量と言われても正確には分からないけど多分ほぼほぼ枯渇してたんじゃないかな。メアが言うにはここにずっと閉じ込められている状態だったらしいし、それに身体も小さかったしね」

 「なるほど、ではもう一点、千代さんもう一回ビームを撃てますか?」

 「うーん、あと二〜三分ぐらいしたら撃てそう」

 「分かりました。であれば、その三分間何とか時間稼ぎしましょう」

 「ラルカさんがメアを回復させるのは無理そうなの?」

 「無理ではないのですが、私が全魔力量を注ぎ込んでもあの過去メアさんが持つ魔力量の三分の一にも満たないでしょう」

 逆を言えば千代のビーム一発でラルカさんの総魔力量を上回るという事か。

 「とはいえ、少ない魔力を巨大な力に変えるのは魔術師の得意とするところです。時間稼ぎは私にお任せください」

 そういった彼女は声を張り上げて遠方で戦うメアに声を掛けた。


 僕達が悠長に会話している間にメアはボロボロだ。

 声を掛けられたメアはここにラルカさんが居ることに驚く様子も見せず言った。

 「おお!ラルたん!加勢お願いしていいか?もう魔力が限界だぞ………」

 驚いていないというよりは切羽詰まっているだけの様だ。


 「交代しますよ」

 「すまん!そいつ攻撃効かないのと、近付いただけでエネルギー吸収されるから気をつけろ!あと直接触られると即死するかも知れないから取り敢えず時間だけ稼いでくれればいいぞ!」

 過去メアはラルカさんに牽制の魔力弾を撃ち込みつつ、撤退しようとするメアへと一直線に突進した。

 しかし彼女がメアへと到達する前に、その進行は壁に阻まれた。

 床を突き抜けた土壁………というよりは地面の盛り上がった感じである。

 そしてそれを出現させたのはラルカさんだ。


 「うーんそうですね、時間稼ぎのついでに色々と試してみましょうか」

 そう言った彼女が手を翳すと、壁に阻まれた過去メアの背面にも同じような盛り土が出現、その直後、盛り土が動き過去メアを挟み込んだ。


 過去メアはそのまま土に挟まれ、押し潰されたかのように見えた。

 だが、土壁は過去メアへと接触すると同時にその動きをぴたりと止めていた。


 次の瞬間、過去メアを中心として赤い光が弾け、土壁は吹き飛んだ。

 しかしながらラルカさんの攻撃はそれだけでは終わらない。

 崩れた屋根の一部、梁の部分が過去メアに向けて落下する。

 直撃まで一秒有るか無いか。

 しかし………いや、果たしてと言うべきか。

 巨大質量がまるで嘘のように過去メアの頭の上でぴたりと静止している。


 「アタシのエナジードレインは重力や運動エネルギーをも吸収する」

 いつの間にか僕達の横まで撤退してきていたメアがそう言った。

 「おかえり、メアちゃん」

 「メア、身体は大丈夫なの!?」

 「大丈夫だぞ、ただ魔力がもう限界。千代っち、ビームだせそうか?」

 「うーん、あともうちょい」

 「ボクから魔力を吸収して下さい!」

 マリアが横からそんなことを言ったがメアはそれを断る。

 「気持ちはありがたいけどマリたんには最後を決めて貰わないといけないし、それに直接身体から吸収するのはやめときたいぞ。加減をミスったらヤバいからな」

 そう言ってメアは僕の方に向き直り、再び口を開く。

 「アッキー、電気か火は出せるか?」

 「火なら火遁で何とかなるけど、千代のビームじゃなくても大丈夫なの?」

 「千代っちのビームに比べれば吸収率は落ちるけどでも今すっからかんだからちょっとだけでも回復しておきたい」


 僕は了承し、千代とマリアにメアから離れるよう言った。

 「一応聞くけど大丈夫だよね?」

 「問題ないぞ!」

 グッと親指を立てて彼女はそう言った。

 僕は九字の印を手で結んで、火遁を発動する。

 口から出た炎がメアを包み込む。

 「あーあったまるぞー」

 温まるとかそういうレベルじゃない気がする。

 全身燃え上がってるし。

 しかしその余裕ある態度から全身を炎で包まれても全く問題ない事が分かった。

 「あっ、メアちゃん、服!服!!」

 過去メアとの戦いでボロボロになっていた純白のドレスは、僕の火遁によって黒い消し炭へと変わってしまった。

 慌てて炎を止める僕。

 火炎に包まれても火傷一つない綺麗な肌。

 スレンダーな身体のラインとわずかに凹凸のある上半身が目に入り僕は顔を背けた。

 「ご、ごめん」

 そう言って僕は目を背けたが、メアは気にした様子もなく言う。

 「いや、あのドレスアタシのじゃないしボロボロだったから燃えても問題ないぞ。それにほら」

 ほらと言われたがそちらを見ても良いのだろうか。

 「あちらの過去メアさんと同じ服装ですね」

 マリアがそう言ったので僕もメアの方を見る。


 ゴムのような素材の黒い服。

 服の端の方は金色になっている。

 上半身は胸が隠れているが、へそやら脇やらは露出している。

 下は短いスカートとブーツのような靴を履いている。

 「へそ出しルックやな!」

 今日び聞かない言葉だ。

 改めて千代が自分より年上なんだなと実感する。


 「しまった!服を出したら今貰った熱エネルギー使い果たしたぞ」

 物質を生み出すエネルギーがその程度で足りるのかという物理学的な疑問が浮かぶが、そこはそれ、きっと魔法的な服なのだろう。

 結局のところ僕の火遁はメアの衣装をチェンジする以上の効果はなかったようだ。

 もう一回やった方が良いかと考えたが、既にそのメア本人の視線がこちらを向いていなかったので話すのを止めた。


 何気なくメアの視線の先を追うと、直径十メートルを超えていそうな巨大な水の球が空中に浮かんでいた。

 中心に居るのは過去メアで、水球から離れた位置にラルカさんが立っている。

 なるほど攻撃であれば吸収されてしまうのだろうが、今の状態は水によって身体を包み込まれているだけだ。

 「もしかしてラルカさんだけで片が付きそうな感じ?」

 僕はメアにそう問いかけたが、それが甘い考えであることを思い知る。

 様子を伺っていると、水球の中心………過去メアが居る場所からぼこぼこと大量の泡が出ている。

 沸騰している?

 よく観察すると水球が徐々に小さくなっていっているのがわかった。

 「アタシのエナジードレインは強い力も吸収できる」

 そうメアが解説した。

 「強い力って………つまり水分子、酸素と水素の原子ごと分解できるって事!?」

 「まあそんなところだぞ」

 もはや何でも有りだ。

 待てよ、強い力とは文字通り強いのだ。

 「もしかして僕の火遁とか千代のビームを待たなくても魔力回復できるんじゃないの?」

 「良い着眼点だぞ、でも残念なことにエネルギー吸収できるって言っても効率100%とはいかないもんだ。強い力、弱い力、運動エネルギーなんかから吸収できるエネルギーは効率0%に近いぞ」

 「ああなるほど、もしかしてラルカさんがメアに魔力を渡さず時間稼ぎしてるのもそのあたりの事情が………いや、ちょっと待って、エネルギー吸収できてないってことはヤバいんじゃないの!?」

 余ったエネルギーが熱エネルギーにでもなればここが火の海になるどころの話ではない。

 「魔法はエネルギー保存の法則に従わない。別にアタシに限った話じゃないぞ、例えばアッキー自身は魔力無いのに火とか水とか出せるだろ?」

 「まあ………言われてみればそう………だね」

 「詳しい理論はアタシも知らん!取りあえず今は………」

 そう言った彼女が指で指し示した先を見れば、過去メアを取り囲んでいた水はほぼ全てが分解され消えていた。

 その代わりに最初の水球程の大きさの魔法陣が過去メアを囲んでいる。


 球体の魔法陣に手を翳していたラルカさんが、その手を水平に振った。

 すると、魔法陣が淡く発光し、中の過去メアがどんどん小さくなっていった。

 それと同時に球体内部が、どんどん暗くなっていき、最終的にはブラックホールのような黒い球体へと変わった。


 程なくしてラルカさんがこちらへ向かって歩いてきた。

 「大きいメアさんの周りの空間を拡張しました。取り敢えず現時点では空間ごとエナジードレインされるということは無いみたいですね」

 「お疲れ!流石はラルたんだぞ。因みにその空間はどのくらいのサイズなんだ?」

 「直径262kmちょっとです。彼女が自由落下をしたとしても四十分程度は稼げるかと思います」

 そう言って、ラルカさんは自分の横の空間にディスプレイのような四角の画面を浮かばせた。

 そこには過去メアが写っている。

 内部は暗いはずだが、画面上では白黒ではあるもののくっきりとその姿が表示されている。

 画面上の彼女はきょろきょろと周囲を見渡している。

 「あいつがあれに気付きさえしなけりゃある程度は時間を稼げるな」

 「あれというのは何か心当たりがあるのですか?」

 「アタシのエナジードレインは運動エネルギーも吸収できるんだ」

 「ええ、先程の戦闘で岩や銃弾、剣を飛ばしてみましたが全て止められてしまいました」

 どうやら僕らが見ていない間にも色々と試行錯誤していたらしい。


 「運動エネルギーっていうのは飛んできた物だけじゃない。自分自身の動きも止められるって事だぞ、あいつだけじゃない。アタシ達は今すげー高速で動いてるんだぞ」

 はっとしたような表情になるラルカさん。

 「もしかして、地球の自転ですか!?」

 「そうだぞ、そしてその地球は太陽の周りを公転していて、太陽系自体も銀河系を公転している。さらにこの宇宙は膨張し続けてているから、自分自身の運動エネルギーをドレインすれば、相対的に超高速で動く事ができるってわけたぞ」

 「でもそれは下手をすれば自分が宇宙空間に取り残されてしまいますよね」

 「全てのエネルギーを吸収すれば………な。アタシはコントロールミスして他人を殺してしまうのが恐いから他人に触れたくないんだけど、別にエナジードレインのコントロール自体ができないってわけじゃない。自分自身に掛かる慣性を全部じゃなく少しだけドレインするのなんて簡単な事だぞ」

 「それは、良くないですね………」

 「でも、この子メアの言った事には気付いて無いみたいだよ、ほら」

 僕が指指したのはラルカさんが出したディスプレイだ。


 真っ暗な空間に一人取り残された過去メアはひとしきり辺りを見回した後、自由落下を始めたようだ。

 「取りあえずは大丈夫みたいだね」

 「いや、見てみろアッキー」

 落下するメアが羽を大きく広げた。

 そんなことをすれば空気抵抗が上がり速度が落ちそうなものだが、羽の用途が違った。

 大きく広げた羽から赤い光の粒子が放出された。

 さながら戦闘機のスラスターから噴出するアフターバーナーの如き様子だ。

 ディスプレイに映し出された過去メアの周りには何も無いため、どれくらいの速度が出ているのかは分からない。

 しかし、先程メアが言った程一瞬の移動ではないとしてもあまり余裕があるとは言えなくなってきた。

 「このまま加速を続ければ三分から五分程度で圧縮空間から脱出されそうです」

 「三分で回復できるだけ回復しといて、アタシが戦って時間稼ぐしかないかー」

 「その必要は無いで、メアちゃん。もう次のビーム打てそうやわ」

 「おお!その言葉を待ってたぞ!!」


 タイミングよくというべきか、ようやくというべきか。

 千代のビーム発射準備が整い、善は急げとばかりにメアは千代の前へと移動した。

 両手を広げ大の字のポーズを取るメア。

 彼女の「来い!」という掛け声を合図に千代の目玉から極太のビームが放たれた。

 激しく光る青白い光を見ながらラルカさんが感嘆の声を上げる。

 「恐ろしいほどの魔力量ですね………」

 「うん、でもさっきラルカさんが戦ってた時もこのレベルの攻撃してなかった?」

 「威力で言えば私の魔術の中にはあれを超える物は多く有ります。しかしそれは魔力に手を加えて高威力にしているからです。千代さんのあれは、ただ純粋な魔力を放出しているだけのようです。単純な魔力量だけでいえば私の総魔力量の十倍はありそうですね」

 「千代の魔力量ってそんなに多いの!?」

 「いえ、千代さん自体の魔力量はこの島では極めて一般的な部類です。あのビーム放出により魔力自体が発生しているようです」

 無から有を生み出し、そこからエネルギー補給できるなんてゲームのバグ技の様だ。

 ラルカさんが解説をしてくれている間にメアの魔力補給は済んだらしく、彼女は相手の過去メアと瓜二つの姿となっていた。


 「よし!これで勝てるぞ」

 「すみません、これ過去メアさんがあの空間から出たらどちらがどちらか分かんなくなりませんか?」

 「問題ない!勝った方がアタシだぞ!」

 久々に口を開いたマリアの発言は実に的を射た質問だったが、その意見をメアは自信満々に一蹴した。


 「凄い自信だけど何か作戦でもあるの?」

 「アタシがあいつを押さえるからマリたんはその杖であいつを起こす。以上だぞ!」

 「いや、そうじゃなくて今のメアの力ってあっちのメアと互角ぐらいじゃないの?」

 僕が問いかけると大きくなったメアは左腕で作った力こぶを右手でポンポンと叩きこちらにどや顔を向けた。

 要は腕が良いから勝てると言いたいのだろうが、そのジェスチャーを見てちょっとイラッとした。

 「とはいえ、マリたんの言うことももっともだぞ。そうだな………何か印でも付けとくか!」


 メアはそう言ったが、実際にそれが実行される事は無かった。

 過去メアがラルカさんが作った空間から脱出したからだ。

 空中に浮かぶ黒い球体の真下、突如として過去メアが現れた。

 地面へ向かい飛翔を続けていたため、その姿のまま地面で固まったかなりシュールな絵面となっていた。

 しかしそれも一瞬、過去メアは背中の羽から轟音と共に吹き出す粒子を止め、顔が地面に付いた状態から身体を反転、直立姿勢となった。


 彼女はこちら(というかメアの姿)を視認するや否や、一直線にメアへと襲いかかった。

 しかし、メアは半身をずらす事でそれを回避、カウンターに突き出した膝蹴りにより過去メアは空間へと舞い上がった。

 続け様にメアは空中を舞う彼女の元へと跳躍し、空中で相手の腕から肩にかけて全身で押さえ込むような関節技を極めた。

 そのまま二人は地面に落下した。

 先程まで壁に激突した際も、地面に叩きつけられた際も音や衝撃は無かったのに、今回はドスンと大きな音と揺れがあった。


 「マリたん!!」

 メアのその声を聞き、マリアが駆け出した。

 過去メアは抵抗しようとしたが、エネルギー量が同格となった今ではもはや逃れる術は無い。

 苦し紛れに撃った魔力弾も、ブラックホールの如くメアへと吸い込まれる。


 「スターーートゥインクルーーーアストラルーーーイートイル!!」

 魔法の杖が過去メアの前で輝くと、彼女から力が抜け、目を閉じた。

 メアが掛けていた関節技を解くと過去メアが目を開いた。

 「ああ………なんかすごくよく寝た気がするぞ」

 「目が覚めたか?あれ?アタシの目が覚めたのか?」

 「なんか記憶が混ざってるみたいだぞ」


 過去メア(今はもう“過去”では無いが)が目を覚ましたのは良いがどうやら目が覚めるとメア同士の自我が混ざるようだ。

 メア自身も混乱しているのだろう、戸惑った様子である。


 「「あっ、いい事思いついたぞ!」」

 二人のメアは同時にそう言って、皆の前から一歩下がった。

 そして一方のメアがもう片方の後ろに隠れた。


 手前側のメアが僕達の方を向き、口をぱくぱくと開けた。

「あれ………声が……遅れて……聞こえて……くるよ」

 腹話術の衛星中継ネタ(口の動きに遅れて音声が聞こえる演技)だった。

 そもそも二人いるから腹話術でも何でもないのだが。

 「うわー!テレビでやってたやつや!」

 千代だけがとても興奮した様子だ。


 「これからどうする?」

 僕が無視してメアに問いかけると彼女たちは大して気にした様子も無く答える。

 「あとは三層目だけだぞ、もう終わったも同然だな!」

 「そっか、まだ三層目があったんだった」

 「もし三層目のアタシが出てきても二対一だからな!一方的にボコボコにして終わりだぞ!」

 相変わらず自分自身に対しては全く容赦が無い。


 「三層目というのはどういう事でしょうか?」

 そうか、ラルカさんは途中で合流したから夢の中が三層に分かれている事も、それぞれの層に居るメアを全員目覚めさせる事でこの夢の世界から脱出できる事も知らないんだった。

 僕がそれらを軽く説明するとマリアが情報を付け足す。

 「三層目は欲望の世界です。メアさんの欲望を写し出したものとなっています」

 「それは………私達がお邪魔して良い所なのでしょうか?」

 「ここまで協力してもらって今更駄目だとかは言わないぞ」

 「なーなー、メアちゃんの欲望って何なん?」

 「何って言われても………改めて言われると何なんだろうな?食欲、睡眠欲、性欲とかか?」

 「え!?メアちゃん性欲あったん!?」

 「アタシを何だと思ってんだ。まあ他人に触れるのは苦手だが、エナジードレインしてしまうのが恐いだけで触れ合うの自体が嫌ってわけじゃないぞ」

 「おおそうなんや、ほんじゃ今度一緒に寝よっか」

 「それは遠慮しとくぞ」

 「えー」


 話はそこそこにして、二層目に来た際と同じようにしてメアは扉を出現させた。

 この扉をくぐればいよいよ最深部だ。

 メアを先頭にして僕たちは扉の向こうへと入っていった。


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