女神っぽいやつ
23 女神っぽいやつ
「メアちゃんや!」
確かに見た目はメアその人である。
光の柱に包まれた彼女は純白のドレスを身にまとっており、神々しさがあふれている。
その見た目は、絵画や彫刻で表現される女神のイメージそのものだ。
その生ける芸術作品が口を開く。
「よくぞ四天王を倒しました、勇者“ああああ”」
名前適当だな!
っていうか、この声、僕が夢の中に来た時に初めて聞いた声だ。
メアの声だったのか………
「この声、ウチが夢の中に入った時に初めて聞いた声や!メアちゃんの声やったんか………」
どうやら千代にも全く同じ事を言っていたらしい。
「四天王を倒した勇者にはこの聖剣を授けましょう………」
女神口調なので判りづらいが、メアの台詞である。
千代に向かって“聖剣”を差し出すメア。
剣というよりは、棒だ。
オレンジ色の棒の中央からやや上寄りに三本の白い縞模様が入っており、その縞模様は光を反射して輝いている。
その見た目はまるで………と言うより………
「ラバーポールじゃん!道路の車線の真ん中に立ってるやつ!」
「聖剣ライジングボラードです」
確かにメアが聖“剣”と言うだけあって、普通の車線分離標と異なり、柄と持ち手が付いている。
メアが僕の方を向いたのは、その一瞬で、すぐに千代の方へと向き直り、再度、聖剣の授与作業へと戻った。
(ねぇ………あのメア普段と様子が大分違うんだけど、どういうことかわかる?)
僕はこっそりと横にいるマリアに尋ねる。
「うーん、ひょっとして本人ではないのでしょうか………あっ、ちょっと待って下さい」
そう言うと彼女はスタートゥインクルアストラルイートイルを両手で持った。
しばらくと言うほどでもない。
ほんの数秒後に彼女は両手で持っていた杖から片手を外し、僕の方を向いた。
「今の状態のメアさんは眠っている状態みたいです。スタートゥインクルアストラルイートイルが安定させているこの夢の世界のストーリーに沿って動いているっぽい感じです」
なるほど、夢の中で何となく夢だと分かっても自由に動くことが出来ないような物か。
「分かりやすくいうと、水中で将棋をしている時に『王手!』って言おうとして口を開けたら水を飲んでしまった様なものです」
「全然わからん!」
結局どうすれば良いんだ。
メアの方を見ると、千代にラバーポールもとい聖剣を手渡した後は待機状態に入っているようだ。
千代に頬を引っ張られているが、全然反応がない。
アルカイックスマイルを浮かべたまま、地上三十センチメートルくらいの位置に浮かんでいる。
「どうすればいいの?あれ」
僕がメアを見ながらマリアに尋ねると、彼女は「こうします!」と言い、メアの元まで歩み寄った。
彼女はそのまま杖を掲げ叫んだ。
「スターーートゥインクルーーーアストラルーーーイートイル!!」
メアの眼前に掲げられた杖の先端が光を放ち、その直後、メアはその場へと崩れ落ちた。
「メアちゃん!」
千代が倒れたメアを揺さぶると、メアが千代の手をつかみ、ゆっくりと上体を起こした。
「大丈夫だぞ、まだちょっとぼうっとするが………」
メアが着ている服はいまだに純白のドレスのままである。
しかし、天から射す光は消え、雰囲気も女神モードではなくなっている。
どうやらマリアが行った行為は無事成功したようだ。
「千代っち、道路から勝手に棒引き抜いたら怒られるぞ………」
「いや、これメアちゃんがくれたやつやん………聖剣レイシストバラエティとか言って」
放送されたら即炎上しそうなバラエティ番組だな………
「ああ、言われてみればさっきそんなの渡したような気もするぞ………」
どうやら、メアは先程女神モードだった時の事もおぼろげながら覚えているらしい。
僕は千代とメアが会話しているのをそれとなく眺めていると、マリアの後ろ姿が僕の視界に入った。
彼女はメアの前に立つと、膝を折り、額を砂の上に付け、土下座をした。
「申し訳ございませんでした!」
それはメアに対する謝罪。
メアが今夢の世界に囚われているのはマリアの奇襲攻撃によるものだ。
マリアはその事を謝罪しているのだろう。
それを受けたメアの反応は………
「誰?」
そうだった。
そもそも奇襲攻撃であった為にメアはマリアの事を知らないのだ。
そのため、僕がメアに軽く説明する事にした。
「この子がアウラの共犯者だよ。名前はマリア」
「おーす、よろしくだぞ!」
「申し訳ありません。ボクがメアさんに奇襲を掛けました………」
「あー、何となく理解したぞ。アルの倉庫から盗んだ道具で攻撃されて、皆この謎空間に飛ばされたって事だな!」
「謎空間っていうか、ここメアの夢の中みたいだよ」
僕は続けてメアに事情を説明する。
アウラの拠点に向かおうとした時にマリアから奇襲を受けた事。
その奇襲によってメアは今身体が成長した状態になり、それと同時に眠らされた状態であるという事。
アウラは既に捕らえられ、黒田とりゅんりゅんにより病院に運ばれているという事。
メアを目覚めさせる為に僕と千代、マリアが夢の中へと入り、ラルカさんは外で見張りをしてくれている事。
僕はそれらを簡潔に、要点だけを押さえて説明した。
「そういえば、今眠っている状態のメアの身体が大きくなってるんだけど、あれがメア本来の姿なの?」
「いやー、どっちが本来の姿ってわけじゃなくて、ただ単にこの姿はエネルギーが枯渇した状態で、大きいのがエネルギーが溜まってる状態ってだけだぞ」
続けてメアは言う。
「アタシは普段からこの格好だから、そういう意味ではエネルギー枯渇状態の方が本来の姿って言っていいかもだぞ」
「でもなんでわざわざエネルギー枯渇状態でいるの?」
「それは、えーと、まあちょっとあの姿になると月の半分ぐらいは体調不良になるから………」
「強さの代償みたいな感じ?」
「うーん、まあそんな感じだ」
この話はここまでといった体で、メアは話題を変える。
「ひとまず礼を言わせてくれ、アタシを助けるために夢の中まで来てくれてありがとう。 それとマリア………」
「はい………」
弱々しく返事をした彼女は上目使いでメアを見つめる。
対してメアは遠くの空を見上げながら続ける。
「こんな格言を知ってるか?」
メアはマリアの方に視線を戻すと力強くそう言った。
「インド人嘘つかない」
物憂げな表情になりメアは続きを話す。
「アタシはこの言葉を聞いたとき思ったよ………インドってスゲー!!ってね」
真剣に話を聞こうとして消費した僕の集中力を返して欲しい。
「だからマリア、いや、マリたん。失敗を悔やむより明日へ向かって、より良い社会とお客様の幸せのために、共に頑張ろう!」
「どこの企業理念だよ!」
その場のノリだけで発せられたかのようなメアの言葉に、思わずツッコんでしまった。
そして、そんな適当な言葉を受けたマリア本人はというと………
「感動しました!一生付いて行かせて下さい!!」
涙を流してメアの両手を固く握りしめている。
「まあ一生っていってもボクの余命半年なんですけどね!」
笑えねーよ。
その後、特にどうでも良い話が続き、最終的に『この後どうすれば良いか』という話になった。
「要するにアタシが起きればそれで万事解決なんだよな?」
「いえ、今この場にいるメアさんは表層部分だけなんです。このまま目覚めさせれば、表面上は元通りのメアさんに見えるかも知れませんが、魂は眠ったままの状態………いわば哲学的ゾンビのような状態になってしまいます」
「哲学的ゾンビ………」
「うーん、メアちゃんがいきなり『吾輩は猫である』とか言い出したら嫌やなー」
「それ哲学じゃなくて文学」
「千代っちのボケは置いといて、マリたんはどうすりゃ良いのか知ってるのか?」
「このスタートゥインクルアストラルイートイルで作り出された夢の世界は三層構造になっています」
それはここに来た時に聞いた話だ。
僕達が黙って聞いているとマリアは続きを話した。
ここ、一層目は表層部分。
夜に寝ている時に見る夢のような世界だ。
もっとも、スタートゥインクルアストラルイートイルによってある程度安定化されているため、寝ている時に見る夢とは異なる部分も多い。
そこにある物体は細部まで表現されており、場面が頻繁に遷り変わるという事も無い。
一層目に居るメアは、彼女の表層部分。
詳しい話はマリアではなくメアが補足説明してくれたのだが、どうやら精神と魂は別物という話だ。
今目の前に居るメアは精神の部分で、これとは別に魂部分のメアがニ層目と三層目に分かれて存在するとの事。
二層目、三層目に行くに連れて根源的な部分に近付くのかと言えばそう言うわけでも無いらしい。
そもそも、この世界はスタートゥインクルアストラルイートイルによって作られた世界であり、通常の精神構造とは異なる。
二層目は過去の世界。
夢を見ている本人、つまりメアの過ぎ去りし思い出の世界だ。
三層目は欲望の世界。
メアの深層心理で望んでいるものがそこにある。
マリアが語った内容は大体このようなものだ。
次の層は過去の世界ということか………
「ほんで、どないして次の場所に行くん?」
そうだった。
スタートゥインクルアストラルイートイルが指し示した目標は既に達成済みである。
これからどうすれば良いのか。
僕も千代も回答を期待してマリアの方を見る。
彼女の知識―――正確に言えば彼女が手にしている杖から得られる情報に期待しての事だ。
しかし、マリアが答えるより先に口を開いたのはメアだった。
「あー多分、何とかなるぞ」
そう言ってメアが僕達に背を向けると、そこに扉が出現した。
扉だけが砂浜に直立している様は、某国民的アニメの猫型ロボットが出すひみつ道具を思わせる。
それと違うのは、その扉が欧州のアンティーク建築を思わせる豪華な扉である点と、その大きさだ。
僕の身長の二倍以上ある両開きの扉で、レリーフの様な装飾が施されている。
「この扉で二層目に行けるはずだぞ!」
「おー、メアちゃん凄いやん」
「え、これって魔術か何か?」
僕が問いかけると少し間をおいてからメアが答える。
「魔術というよりは………まぁ、種族固有の能力みたいな………感じ?」
いつも自信に満ちた口調の彼女が珍しく弱々しげである。
「まあ、この扉の原理は置いといていくぞ!」
メアを先頭に僕達四人は扉の中へと入っていった。




