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怪物

22 怪物



 一頭はケルベロスだ。

 体毛は黒に近い紺色。

 その荒々しい毛並み越しでもわかる発達した筋肉。

 三つある頭の口には、それぞれ凶悪な牙が見える。


 もう一頭はドラゴン。

 青白い水晶のような結晶が全身を覆う美しいドラゴンである。

 爬虫類や恐竜などの、動物図鑑に載っている生物とはどこか違う。

 どちらかと言うと、小学生が使う筆箱や裁縫箱、エプロンに印刷された様な、あるいはカードゲームに登場する様ないかにもなデザインの幻想生物だ。


 最後の一頭は通常のサラブレッドのニ倍はあろうかという大きさの全身真っ黒な馬。

 漆黒というに相応しい色で、黒い毛並みに燦燦と降り注ぐ太陽光線が反射している。


 二階建ての一軒家くらいの大きさがあった鮫程では無いにせよ、三体はそれぞれそれに近い大きさを持っている。

 それらが並ぶと威圧感が尋常ではない。

 三体はしばらく、こちらを値踏みするように見ていたが、その内の一体、巨大な黒い馬が低い声を発した。

 「クックックッ………27(トゥエンティセブン)ヘッドジョーズがやられたか………」

 直訳すれば二十七の頭顎だが、そうではなく、おそらくは先刻まで僕等を襲っていたあのサメの球体の事だろう。

 「奴は我らの中でも最強………」

 最強なんだ………


 そんな馬の呟きにケルベロスが大声で応える。

 「笑っている場合ではないぞ!地を駆ける疾風よ!!27ヘッドジョーズに勝てない相手が俺たちに倒せるのか!?」

 どうやら馬の名前は地を駆ける疾風というらしい。

 それにしても、話を聞く限りあの鮫は仲間内でも相当に強かったらしい。

 「待て、ポチよ………」

 名前可愛らしいなオイ。

 「何か考えがあるのだろう、水晶の皇帝よ」

 馬が話しかけたのはポチの方ではなくドラゴンの方だ。


 ドラゴンは静かに頷くと僕達の方を向いた。

 「我ら四天王、その最強の一角を破りし者どもよ………」

 重く低い声だ。

 最強はサメだという話だが、風格では間違いなくこのドラゴンの方が上だ。

 ドラゴンは少し間を置いた後、話を続ける。

 「我が名はクリスタルカイザードラゴンだりゅん」

 なんかミネラルウォーターみたいな名前だ。

 そんな事より………

 今りゅんって言わなかった!?

 りゅんって言ったよ、このドラゴン。

 この馬鹿みたいな語尾、こんな語尾を付けるのは一人………いや、一匹しか居ないだろう。

 「りゅんりゅんだよね!?」

 「りゅん………りゅん?何だその馬鹿みたいな名前は?」

 僕が思わずドラゴンに聞き返すと、ドラゴンはその言葉を否定した。

 馬鹿みたいな語尾の奴に馬鹿みたいな名前と言われてしまった。


 「いや、そんな語尾つけるの他に思い浮かばないんだけど」

 「我の語尾は龍であれば誰でも付けるものりゅん」

 「そうなの!?」

 「えっ?ウチ!?ウチも知らへんわ」

 思わず千代の方を向いて聞いてしまった。

 案の定彼女はその事を知らなかったが、代わりにその横に居るマリアの方が僕の質問に答えた。

 「ここはメアさんの夢の中なので、実際とは異なると思いますよ。多分、メアさんの中でドラゴンのイメージがああいう生き物なのでしょう」

 なるほど。

 僕だって実際現実に会ったドラゴンといえばりゅんりゅんだけしかいない。


 僕達が話し終わったのを待っていたのか、ドラゴンが再び話し始めた。

 「確かに27ヘッドジョーズは私達の中では最強だった。戦闘力は14万3000カラット………」

 宝石の重さみたいな単位だ。

 「そして我、クリスタルカイザーの戦闘力は520億オングストローム」

 単位統一しろよ………

 「ポチ、それと地を駆ける疾風。お前たちの力は………」

 ドラゴンの発言にケルベロスと馬が応える。

 「俺の力は16オクターブだ!!」

 「我は一馬力の力を有する」

 普通の馬より百倍強そうな見た目の割には一馬力しか無いのか………


 他ニ匹の返答を受け、クリスタルカイザーは調子を上げて話し続ける。

 「我らの力を合わせても27ヘッドジョーズには及ばない………しかし!我らは1+1+1ではない!!」

 クリスタルカイザーの演説に合わせて他2匹も唸りを上げた。

 「我らは………その、ポチが実質三頭分だから、1+1+3で5だりゅん!頑張れ!ポチ!」

 「おう!!………えっ俺っすか?」

 「そうだ!お前がエースだ!!いくぞ我らの力に恐怖するりゅん!!」

 「目からビーム」

 三匹がこっちに向かってこようとした次の瞬間、平坦な口調と共に千代がビームを横薙ぎに放った。


 先程まで喋っていたそれらの胴体から上部は消し飛び、残ったのは肉塊だけであった。

 確かに敵ではあったが、これまで話していた相手がこうも無惨な姿に変わり果てていると何とも言えない気持ちになる。

 というかあののほほんとした千代がこれをやった事に若干の衝撃を受けた。


 「容赦ないですね………」

 僕の心を代弁するかのようにマリアがそんな言葉を漏らすと、千代は慌てて弁明をした。

 「いや、アレやで。誤解せんといて欲しいねんけど、ウチも普段からこんなんせえへんで。ほら、ここってメアちゃんの夢の中やろ。あの子らメアちゃんの想像やで!」

 「確かにそう言われれば………ゲームのNPCみたいなもんか」

 「そう、それ!非実在青少年やで!」

 ドラゴンやケルベロスが少年なのかどうかはさておき、この世界でどんな相手が出てきたところでそれはメアの想像にすぎない。

 千代に救って貰っているくせに、その行為に幻滅してしまった、そんな自分にこそ幻滅する。

 「ありがとう千代、助かったよ」

 僕がそう言うと彼女は照れくさそうにはにかんだ。


 「見てください、あれ!」

 突然声を上げたマリア、彼女の指差す方を見ると肉塊と化したクリーチャーの上から光が差し、そこから一人の人物が現れたのだった。

 あれは………


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