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2-4 連行

「やれやれ。こうも堂々とされちゃあね。

 いいよ、別にあんたがそうしたいというのならそうしていれば。


 領主と眷属は、別に歪な関係ではない。

 むしろ、相思相愛といってもよい関係だ。


 だが、その子をずっとそのままにする気か。

 それだと、その子の人生は台無しになってしまうぞ」


 だが、それを聞いた女子高生は、その陶然とした表情を鬼のように怒りにたぎらせて、本物の鬼女を睨みつけた。


「あんたは、なんて事を言うんだ。

 ご主人様と私の愛を引き裂こうというの?」

 とでも言いたげな目付きで睨んでいる。


 ただ純粋に睨んでいる。

 これだから吸血鬼の虜は困る。


 心を完全に奪われているのだ。

 いや、自ら歓喜と共に差し出している。


「ふふ。

 そうはならないように常に配慮はしているわ。

 今までのどの子もちゃんとした人の道を歩ませたから、心配はしないで。


 でも今のところ、彼女はわたしとの関係を続けたいようよ。

 普通の子は精気を貰うだけなのだけどね。


 この子のように傍勤めはないの。

 他の子も皆、その日が来るのを待ち焦がれているのよ。


 なんというのか、この子はわたしの特別な子、従者イゴールね。

 可愛いでしょ」


 そう言って少女は、自分にしなだれかかった美しい女子の白い手を引き寄せ、そっと口付けした。


 その女子高生篠原悠里はもう全身を震わせ、快楽に昇天していた。


 おそらくは下着など、既に替えが必要なほど激しく濡れそぼっているのだろう。


 上気した、その妖しげな笑みは周りの、おそらくは勃起しているだろう男達の注目を集めまくっている。


 吸血鬼の少女もまた、もしもその辺にいる男達がそうされたというのであれば、ただちにその股間を人生最大に屹立させ、連続で射精しまくった挙句に泡を吹いて失神するのではないかというような妖しげな笑みを浮かべている。


 魂喰いの妖力を眼一杯込め、麗鹿にのみそれが見えるようにして、臆面も無く語ったのだった。


 それは周囲に対しては遮断されているようだ。

 男達の注目を一身に受ける役は、その麗しい眷族が受け持っていた。


 女子高生はその主の様子をうっとりと見て、優雅に座る少女にしなだれかかり、今にも愛する御主人様に夢中でキスしそうな勢いで絡みついている。


「頭が痛くなるな。

 よーし、わかった。

 そういう了見ならそれでもいいが、ちょっとだけ付き合え」


「へえ、どこへ」


「いいところさ。お前、名前は?」


「愛乃狂歌、そう名乗っている。

 字はこう書くのよ。

 その子は篠原悠里。

 今、高一ね」


 妖物にしか読み書きできない、特殊な気で書かれた文字を空中に描いてみせた狂歌。


 興味を覚えた様子で狂歌はバッグを肩にかけ、立ち上がる。


 もう一方の手には、篠原悠里の手が軽く握られている。

 割れ物のように壊れ易い大切な宝物を扱うようにそっと。


 しかし、決して離したくないという意思を持って確固たる決意を添えて優しく握られていた。


 それはまるで大人に近い体格を持つ篠原悠里の方が幼子で、母の手を求めるかのようにも見えた。


 麗鹿は二人を連れて、駅の外に出ると交番に行き挨拶した。


 警視庁が用意してくれてある身分証明書を見せて、パトカーを出してもらうようにした。


「な、何か大事件でありますか」


 先日の大立ち回りで、警視庁が使う闇斬りの話は都内の警官なら誰でも知るところとなった。


 警察もかなり広範囲に渡って協力を要請したせいか、少しビビっているようだったので、狂歌を紹介してやった。


「お前らも、この顔くらいは覚えておけ。

 この子が渋谷の領主だ。

 何かあったら便宜を図っておくように。


 宗像警視長と警視総監の名において、そう言わせておいてもらうぞ。

 この渋谷の平和のためにな」


 警官達は警視総監の名前まで出されて、おそるおそる聞き返してきた。


「あ、あの、領主とは?」


「ん? 知らんのか。

 吸血鬼の事だ。

 わたしと同じ強力な鬼の分類よ」


 警官達はかなり衝撃を受け、わなわなと震えていたが、麗鹿は笑ってその肩を叩いた。


「はは、案ずるな。

 これも悪しき鬼ではない。

 むしろ、お前らよりも、この渋谷の平和には貢献してくれているかもしれんぞ」


「あの、それはいったい」


 困惑する警官たち。


「これほどの妖しがおれば、半端な悪鬼など、この渋谷には一歩も近寄れまい。

 いれば、この娘の『領地』を侵した不埒者として即座に狩られよう。


 女の子に悪さするような人間の輩も同様だな。

 まあ何か困った事があれば、お前達もこの渋谷の御領主様に相談するがよい。


 鬼などは退屈が嫌いなものと相場は決まっておる」


「は、はあ」


 困惑し、二人を所在無げに見詰める巡査達。


 それに対し、狂歌は見かけ通りの可愛らしさで、にっこりと微笑みかけた。


 むろん、男が射精してしまいそうなアレではない、可愛らしい小学生のそれだ。


「それより、早くパトカーを出してくれ。

 この馬鹿領主、わたしを呼び出すためだけに、あちこちに『吸血鬼が出た』と吹聴する輩をばらまいていたようなのでな。

 本人に説明させるのが一番だ」


 警官達はなんともいいようのない顔を見合わせていたが、闇斬りがそう言うのだ。

 大人しく従うほかはない。


 そうしないと、留守にしている巡査部長が後で警視庁に呼びだされて、へたをすれば警視総監本人から説教を食らってしまうのだから。


「ふふ。はよう、車の仕度をせい」


 御領主様本人からも催促されて、大人しくサイレン鳴らして運転手を務める警官たち。


「これは楽しいな。

 それ、もっと飛ばすのじゃあ」


 ご機嫌な領主様の煽りで、パトカーにしてもちょっとスピード出しすぎじゃあないかというほどの速度でパトカーは東京警視庁に乗りつけた。


 他の車をぐいぐいと押しのけていきながら。


「なんじゃ、いいところって。

 ここは警視庁ではないか」


「なんだったら、ドラマのように取調室でカツ丼でも頼んでやろうか?」


 悪戯っぽい笑いを浮べながら、カツカツと踵を鳴らして宗像のところへ向かった。


 今は上の仕事をしているはずだ。

 もう警視庁内で鈴鹿御前を秘匿しているわけではないので、堂々と乗り込んでいく。


「おわ、どうした、お前。それに」


 何しろ、連れているのがピンクと白と赤で彩られた小学生とセーラー服の女子高生だ。


 それを連れているのが真っ黒スーツのお姉さんなのだから、少し異様な組み合わせだ。


「挨拶しろよ、狂歌。

 この宗像が、この警視庁で妖し関係の窓口みたいなものだ」


「ふふ。わたしが渋谷の盟主こと愛乃狂歌だ。

 よろしくな、おっさん」


「な。盟主だと?」


「ああ、領主とは吸血鬼のことさ。

 この馬鹿め、わたしを呼び出して話をしたかったためだけに、あの吸血鬼騒ぎを起こしおったのさ。


 まあ害意はない鬼だ。

 放っておいてやってくれ。


 頼んだら闇斬りの仕事を手伝ってくれるかもしれんな。

 そういう事なのでよろしく」


 それを聞いた宗像は、頭が痛そうに右掌を一杯に開いて頭の皮を揉んでいたが、諦めたような表情で傍らの同年輩ではないかと思われる厳つい男に向かって言った。


「だとよ」

「なんだよ、そりゃあ」


「誰、そいつ」


 麗鹿が不思議そうに訊いた。

 妖し関係の人間ではないはずだが。


「その話を俺に相談した奴さ。

 堂本、というわけで、まあこれで吸血鬼騒ぎは無事に解決かな」


 その男、生活安全課の堂本一久も頭が痛そうにしていたが、すぐ諦めたようだった。


 別にこの前のガルーダのような奴ではないのだから。

 麗鹿が関わっている段階で何を言っても無駄だろうと鑑定したようだ。


 話を聞きたいが、この人外どもが素直に書類作成に付き合う事はあるまいと判断して、さっさと報告書の作成に入った。


「じゃあ、宗像。ケータイ出して」


 そして、数多の警視庁の警察官が見守る中で、可愛い女子小学生(風の吸血鬼)から苗字を呼び捨てにされながら携帯番号の交換をさせられる中年男。


 ついでに美人女子高生もセットで。


 しかも、宗像は一応この警視庁でそれなりに偉い奴だ。

 地方なら県警本部長に任命されてもおかしくはない階級なのだから。


 何か嫉妬の視線とげも飛んできている気がする。


「おい、これって何かの罰ゲームか何かじゃないのか?」


「黙れ、小僧。

 こんな美少女達に囲まれて、いったい何が不足だ。

 もてない山崎が聞いたら泣くぞ」


 そして後には憮然とした表情の宗像と、眷属とは違う意味で下僕として使えそうな電話番号をゲットしてにこにこする、渋谷の盟主こと愛乃狂歌の姿があるのだった。


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