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2-2 バンパイア捜し

「なんだ、麗鹿。

 バンパイアを捜しに行くのか?」


「ああ、面白そうじゃないか。

 とりあえず、妖魔とやりあう予定も特に無いしな。


 カムフラージュとはいえ、一応は探偵事務所の看板をあげてあるんだ。

 たまには探偵っぽい事をしよう」


 鳴鈴にそう言いながら、東京メトロ桜田門駅4番出口へ向かう。


「どこへ行くのだ?」


「渋谷が多いと言っていたよな。

 一応、被害者状況のマップはもらってきたんだけどさ。

 このまま永田町まで行って、半蔵門線で渋谷まで行こうか」


 いつもの麗鹿なら永田町での乗り換えが面倒なので、桜田門から乗らず地上を走っていってしまうのだが、何しろ地下鉄出入り口が目の前だし。


 そう急ぐ用件が無い時は、のんびりと駅で趣味の人間観察をしながら行くのだ。


「さてさて、問題の吸血鬼さんとやらは、どんな奴なのかねえ。


 なかなかウイットに富んだ感じの奴みたいだから会うのが楽しみだよ。

 この間の鳥みたいな陰々滅々な奴は願い下げだがな」


「まあ、どうかの。

 食えないタイプではないかと思うのだが。


 それでも人に危害を加えたりはしていないようだし。

 見つからなくても、どうという事はないのだから」


「わたしは、そういう奴を見つけたいんだよ!」


 人であったなら、「やれやれ」と肩を竦めただろう鳴鈴は、それで会話を打ち切った。


 鳩だって、きっと肩くらい竦める。

 鳩も驚くと一瞬ビクっと羽根を動かして、肩を震わせるような動作をする。

 結構、人間くさい所作もするのだから。


 人の言葉を話す刀が肩を竦めたって悪くはあるまい。


 ちなみに、今の会話は声には出していない。


 鳴鈴は普段は麗鹿の霊力で特殊な空間に仕舞われているので、その時には麗鹿とだけは声を出さずに話ができる。


 そして、あえて声を出して外の人間と会話をする事も可能だ。

 だから宗像と会議に臨む事もできるのだ。


 速やかに地下鉄を乗り換えて渋谷へと向かった。

 案外と桜田門から渋谷は近い。


 麗鹿は渋谷駅が好きではなくて、特に若者ではないのであまり行かないのだが。


 神田の駅から銀座線で乗り換えなしで行けるので便は悪くない。


 今日も事務所から出かけるのだったら直通で行けるので面倒がなかったのだが。


「視ているな」


 また、あの視線を感じる。


 いや、これは。

 姿のない気配とでもいうのだろうか。


 そこに実体は存在せずに『能力で見られている』

 なんというのか、そういう感じだ。


 麗鹿はこれを『鬼憑き』と称した。

 鬼に憑いて回るほどの超知覚力の持ち主。


 ちょっと力を入れれば振り払えるとは思うが、これはなかなかに粘っこい。

 そして、振り払ってもすぐに戻ってくるだろう。


 まさに憑かれているかのようだ。

 おそらく、自動で追尾する力もある能力なのではないだろうか。


「朝の奴と同じ奴じゃのう」


「ああ、渋谷に近づくに従って、その感じが強くなっていく。

 本体は、どうやらそこにいるようだ。

 まあ害意は感じないのだがな」


「東京はエネルギー溢れる街、また人も多い。

 またそれは多くの魔も呼び寄せる。


 だから、我々もここにおる。

 渋谷のような街には、幾つもの怪異が巣食っておるのだろうよ」


 そして多くの人間が犇いている車内で、どんどん増していく気配。


「これは!」

「なんとまあ」


 それは、まるで「あなたに挑戦していますよ」と言わんばかりの濃密な『気配の照射』


 そう、あたかも潜水艦がソナーで他の潜水艦に鋭く響くピンを打つが如く、攻撃ヘリが軍艦に攻撃用レーダーを照射して照準をつけ、警告アラームを響かせるが如く。


 それは明らかな戦闘行為と看做され、撃沈・撃墜されてもおかしくない。

 というか、普通はそうされるものだ。


 けして冗談では済まされない。

 これをただの挑発でやる大馬鹿者は、世界中の軍隊から無法者扱いされても文句は言えない。


 そう。

 これは麗鹿への宣戦布告以外の何物でもない。


 それを受けたのが頭に血の上りやすい魔であれば、その場で頭から超高温の蒸気を噴出さんばかりに沸騰し、凄まじい怒気を放ち、車内の人間達を恐慌に陥れたであろう。


 そのような剣呑なものであったのだ。


 にも関わらず、それには害意が一切含まれていない。


 麗鹿がどのような反応を示すのか見定めたいと、むしろ面白がっているとしか思えない。


「ヤバイ」


 麗鹿は、怒気を抑えるのではなく、腹を押さえて小刻みに体を震わせていた。


 こんなに腹の皮が捩れそうな、面白そうな相手は久し振りだ。


 しかも、なかなかの力量とみた。


 こんな真似をしでかして相手をとことん怒らせたら、地獄の果てまで追いかけてくる執拗な性格の奴も妖魔には少なくない。


 そんな事は百も承知の上での狼藉だ。

 おそらくは麗鹿の力量も、ある程度は把握した上での。


「おい、鳴鈴。

 ターゲット変更。

 こんな御面白い奴を放っておけるか。

 無害な吸血鬼ちゃんは、また今度な」


「それも良かろう。

 我らの時においては、瑣末な事。

 退屈が何よりの敵なのだから」


 そして、間もなく渋谷に着いた。

 だが、その気配の主は気を流れさせる。

 それは駅舎の外へと流れていた。

 おそらく、その場所は。


「ほお。『待ち合わせは渋谷で』とな?」


「はっはっは、待ち合わせには定番の名所だな」


 そして、気配に導かれるように訪れたのは忠犬ハチ公の像だ。

 そこから気配は漏れているのに特にその姿は見当たらない。


 外国人などの観光客が、次々と行なう記念撮影が引きも切らない様子だ。

 いつもの平穏な渋谷の光景だった。


「おらんのか?

 てっきり呼び出しだと思ったのだが」


「どうかの。

 ここにおる感じはするのだが」


 そして、何気に。

 そう何気にハチ公の像の後ろを覗いてみた。

 そして、少女と目が合ってしまった。


 このハチ公の像は台座が細長くなっていて、案外とその前後の面積は小さい。


 大人が隠れるのは少し無理があるが、今ここにいる小柄な少女のように後ろで体育座りして、しっかり足を抱えられていたりすると、意外と見つからないかもしれない。


 そして、そのツインテールをした小学校高学年くらいの、白縁ピンクのワンピースを着た美しい少女はにっこりと笑って、こう言った。


「やーん、見つかっちゃった。

 お姉さん、いい勘してるう」


 そう言って可愛くウインクしてくる少女。


「は?」


 この子は、いったい何を言っているのか。


「麗鹿よ。

 お目当ての彼女が見つかったようだぞ」


「げ、この子が?」


 会った瞬間、一息に妖しの気配を限りなく無に収めた力量は大変なものだ。


 これが命を狙ってきた相手であったならば、この場で油断した瞬間に命を刈り取られていたかもしれない。


 麗鹿の場合は鈴を鳴らせてもらえるので、やられる事はないのだろうが、仕留めるのも難しいだろう。


 無論、敵として捜しているわけではないので、鈴は鳴らされなかったが。


 鈴鹿は、大きくその魅力的な眼を見張り、軽く息を吐くと少女に話しかけた。


「やあ、彼女。一緒にお茶でもどう?」


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