手を繋ぐ未来
とうとう80話超えです。100話までに完結…するのでしょうか
「失礼しまーす…」
そう言って部屋に入るが、言葉は返ってこない。誰も目覚めていないということなのだろう。
ましてやディスプさんに至ってはあの傷だ。昨日の今日で目覚めるものではないだろう。命があるだけでも奇跡的なもの、そう思える。
水を溜め、タオルを濡らしてディスプさんの汗を吹く。拭いても拭いても止まらないが、やらないよりマシだろう。と、いうよりもこのままほっといた方が良くなさそうだ。別に私がやらなくても医療班が対応してはくれるが、それとこれとは別問題だ。
汗の出が少し弱まったように感じたところで、近くにあった清潔なタオルを濡らし、頭に乗せる。少しでも早く、ディスプさんが元気になりますように。
「お疲れだね。ディスプくんの看病?」
と、そう祈ったところで声をかけられた。キードさんだ。
「はい。自己満足ですけど、やりたいなって」
「良いことなんじゃないかな。きっとディスプくんも喜んでる」
「そうだと良いんですが」
肝心のディスプさんは目覚めない。だから、喜んでいるかどうかなんて確かめようがないのだ。
「そういえば、昨日の話だけど」
「昨日?…ミズキコウさんの話でしょうか」
イオマさんが言っていた、竜人がディスプさんをここまで傷つけたという話。竜人は魔族を部下に連れていたと言っていた。そしてイオマさんたちを襲わせたと。
「それが全部事実なら、許せない話です」
「事実ならね。でも」
「キードさんは信じていないんですよね。それも、何でかわからないのに」
「そんな怒らないでよ。何となくは何となくなんだからさ」
これだ。私には全く理由がわからない。部屋も同じだったディスプさんはともかく、どうしてキードさんもミズキコウさんのことを庇うような発言をするのだろう。
「まぁ、何というかさ」
まるで私の思考を読んだかのようなタイミングで、キードさんは言葉を続けた。
「前にさ、リザードマンとか、ゾンビとかと戦った時あったじゃん。ほら、マフォースント遺跡跡で」
「ありましたっけ」
「自分たちが初めてチームで戦った時の話だよ」
…あぁ、そういえば。そんなことあったような気がする。
確かあの時は、初めて会ったディスプさんとミズキコウさんを連れて守護隊拠点に連れて行き、そのままディスプさんを除いて魔族と交戦を開始したんだっけ。
「あの時さ、魔族を倒すために道を探したの覚えてる?」
「えぇ、キードさんが確認したところに、通れそうな道があった時のことですよね」
「まぁ、その時のことなんだけど。悪いけど話しちゃったんだよ、リモコちゃんのこと。隊長には思いっきり叩かれたけどね。でさ、それを聞いた竜人くんの雰囲気が重いのなんのってさ。凄く怒ってるみたいだった」
「そう、だったんですか」
そうだ、その時のことを私は知らない。私は道を探して、一人別行動をしていたんだった。
…待て、怒ってるって言ったって、あの頃のミズキコウさんは頭全体を覆ってるマスクを被っていたはずだ。それなのに怒っているなど、わかるものなのか?
「キードさん。もしかしてまた冗談?」
「またって何さ。一応言うけど、表情とかそういうのじゃないよ。本当に近くにいるだけで伝わったんだ。怒っているっていう感情がさ」
「そんなのわかるものなんですか?」
「うん、そうみたいなんだ。自分もあり得ないよなーって思ってたんだけどさ。あの時だけは伝わったんだよ。不思議だよね」
全くだ、話だけ聞いているとまるでフィクションのようだ。だが、美しい話でもある。
「…」
「さっきも言ったけど、あんな風に感じ取れたのはあの時だけだったし、自分は竜人くんのことを理解しきれているとも思ってない。でもあの時のことを思うと、ってね」
「信じてみたいってことですか」
「そゆこと」
キードさんがミズキコウさんを信じてみたいと思う理由はわかった。…言われてみれば、何度か戦ったあの日々で、私はミズキコウさんの思いを感じ取ったことがあるかもしれない。
だから久しぶりに鎧姿の彼が私たちを襲ってきた時、…実際は魔王が鎧を装着していたのだが、あの時ショックを受けたことは覚えている。
…あぁ、わかった。私がミズキコウさんを信じられない理由が。
「言っていることはわかりました。でも、まだ私は」
「信じられない?そうだよね、魔族だもんね」
お見通しか。
そうだ、私は未だに魔族を憎んでいるところがある。家族の仇だ。そう簡単に仲間だと思うことなどできない。
「じゃあさ、ミロについてはどう思う?」
「え?」
「ミロだって魔族の血を引いている。でもさ、今二人は仲良いよね」
「それは、あの。…見た目が」
「あぁ、そういうこと」
言っていることが最低なことだとはわかっている。心だとか、考え方だとか、見た目より大事なことがあることはわかっているつもりなのだ。それでも、割り切れない。
「そうかぁ。でもきっと、君も竜人くんと仲良くできる時が来ると思うよ」
「そうでしょうか」
「うん。ミロと仲良くやってる姿を見ると、そう思う」
そんな日が来るのだろうか。全く想像がつかない。
「…来るさ、きっとな」
想像のつかないことを考えていると、聞き覚えのある声がベッドから聞こえた。嘘だ、あんなに怪我をしていたのに、こんな短期間で目覚めるわけが。
「きっと、いつか」
ベットの上では、ディスプさんが目を開けていた。




