進まざるを得ない時
相変わらず更新が遅いですね…。
「なんかさ、二人って最近仲良いよね」
今日も今日とてミロさんの面倒を見ていた私に、キードさんはそう声をかけてきた。
「え、そうですか?」
「うん。なんて言うかな、こう知人から友達になったみたい」
「ちょっとわかりにくいですね。他の例えってありませんか?」
「無茶言うね…」
考えてみたものの、さっぱり思いつかなかったようだ。キードさんは顎に当てていた手を開き、肩をすくめていた。
「まぁ、良いことだと思うよ。人間、協力しないと生きていけないからさ。仲良くするに越したことはないと思うんだ」
「そうですよ。だからミロさん。今日も色々教えてあげますからね」
「ものごとには『げんど』ってものがあることをさ。おしえてくれたのはリコだったとおもうんだけど」
不服そうな目でじとっと睨みつけられるが、取り敢えず気づかないふりをして勉強を続ける。
今日の授業は語学だ。昔の有名な作品を読んでもらい、登場人物たちの気持ちなどを語ってもらうこととしている。他の人の気持ちを考えられるようになることが目標だが、それとは別にミロさんが何を考えているかということも知れるはずだ。
今回読ませているのは冒険もので、五人の少年少女たちが協力しながら無人島生活を送るという内容なのだ。ミロさんはこの少年少女たちに何を思うのだろうか。パタンと本を閉じた彼女に向かって、私は問いかけることにした。
「読み終わったようですね。それではミロさんにお聞きします。どのシーンが印象的に残りました?」
「みんなでバーベキューをするとこ」
「何故です?」
「おいしそうだったから」
「あぁ、そういう…」
いやいや、今までのミロさんを見ていたらこういう返しは想像ついたことだろう、私。こういう時は聞き方を変えるんだ。
「えーと。その時って確か、メンバー全員で集まってこれからの無人島生活について話し合っていたシーンですよね。ミロさんはどっちの意見に賛成でしたか?」
確かあの時は『このまま大人しくこの場所で救助を待つ』『色々なところを探検してこの島で暮らせるようにする』の意見で子供たちが対立していたはずだ。
「じゃあ、ケンのほうかな」
「探検を提案した方ですね。何故ですか?」
「だってあれって、『かり』をするっていってたよね。だったらそっちのほうがらくだし」
そういえばそういう話だったな。
その話の中では、この島にいる動物たちを狩って生活していこうと提案している子供がいた。原始的だの何だの言われていたが、別におかしな話ではないと思う。
それにしても狩りのほうが楽か。私が初めて読んだ時はそんなの思いもしなかったな。確か私は、最初に流れ着いた場所を拠点として、持っていた保存食を使って救助を待つという意見に共感していたような気がする。
「因みにミロさんならどうします?もしあんなように、何人かの人間で無人島で生活を送ることになったら」
「おなかがすいたらかりをするし、ねむくなったらねる」
「そうじゃなくて、みんなでどうやって助け合うかとかあるでしょう。ミロさんなら狩りをする係になるとか」
「そんなのわからないよ。だってあたし、むじんとーにいったことないし」
そんなの私だって同じだ。
「そうですけど、例え話ですよ。想像するだけでいいんです。実際どうするかは置いといて」
「…リコとかキドとかのためならかりをしてもいいけど、ほかのやつといっしょならなにもしたくない」
うーん、そう思われているのは嬉しいが、他の人と協力したくないというのは困るな。人生で付き合う人間なんて他人だらけだ。キードさんも言っていたことだが、人と仲良くするに越したことはない。
「そんなこと言わないで、みんなで助け合うこととか考えませんか?」
「だってさ、みんなあたしのことすきじゃないみたいだし」
「え?」
どういうことだろう。ミロさんのことを特別嫌っている人間など、私の知っている限りではいない。陰口でも聞いたのだろうか。
「それって、どういうことです?」
「みんなあたしにさわってくれないじゃん。おそるおそるっていうか、こわいものみてるようなめでみてくるし。なんか、ヤだ」
…あぁ、そうか。
私はまた一つ大きな勘違いをしていた。
私が思っていたように、恐らく、特別ミロさんを嫌っている人間はいないだろう。しかし、ミロさんに好意を持っている人もいないのだ。
普通なら親がいる。学校に通えば、教師や友達だって、自分に好意を持ってもらえるかもしれない。
彼女にはそれがない。それどころか、人間を超えた力を持つせいで恐れられている。
そんな環境で協力だの何だの、してもらえるわけがない。人間がミロさんに好意を持っていないのに、ミロさんが人間に好意を持ってもらえるはずがないんだ。
「私にできることは…」
あぁ、また悩んでる。こういう時隊長ならどうするのだろう。どうやって解決させるのだろう。そうやって額に手を当てて考え始めたところに、突如大慌てで誰かが部屋に入ってきた。あの人は確か、ディスプさんがよく面倒を見ていた…。
「えっと、キデンさん?どうしたんですか」
「た、大変です!コーチが、ディスプコーチが…」
慌てているせいか、上手く言葉が出ないようだ。口はパクパクと動いているものの、そこから言葉が出てきていない。そこでキードさんに促されて水を飲むが、ゲホゲホとむせていた。息を整え、大きく深呼吸し、ようやく落ち着いたところで、キデンさんは私たちにこう伝えた。
「ディスプコーチが、大怪我をして運ばれました!」




