答えを探して
生まれて初めて救急車で運ばれました。凄いものですね、あれ(小並感)
バタンと大きな音を立てて扉を開けた私を、ミロさんは驚いた表情で見ていた。乱れた息を整え、ゆっくりとミロさんに近づき、その小さな肩をガシッと掴む。
彼女の表情が段々と驚愕から畏怖に変わっていくが、その時の私は気づくことはできなかった。
「ミロさん!」
「お、おー。なんだ。どした」
「お話があります!」
「な、なんだ。あたしがなにをしたってんだ」
別にミロさんが何をしたわけではないが、その質問には答えないで話を続ける。
「あのですね。以前私に、何で勉強をさせるのかって質問したことがありましたよね?」
「…あったっけ」
「あったんです!それでですね、私は考えました。何でミロさんに勉強を教えるのか、ミロさんに何を伝えたいのか、と」
「あー、それでさいきんへんだったんだな」
「そうなんです。それで、ようやくわかりました。私はミロさんの世界を広げたがったんです」
「せかいをひろげる?」
「えぇ」
そうだ。きっとそれが私の本当の気持ちだ。
隊長を救うためだけじゃなく、…もちろんその思いがないわけではないが、色んなことを知ってほしいと思う。
戦うことだけじゃなく、嬉しいことや、悔しいことや、悲しいことや、楽しいこと。世界には色んなことが満ちている。私はそれを知ってほしいし、そのためには勉学を教える必要があるのだと思う。
「ミロさんの知っていることが増えれば増えるほど、ミロさんの世界が広がっていくと思うんです。私はその手伝いをしたい。正しいとかお節介とかじゃなくて、私がやりたいからやるんです。だからこれからも続けます。覚悟してくださいね」
「あ、あー。だいたいわかった、だいたいな」
私はそう言ってこくこくと頷くミロさんに向かって、自然な笑顔を向けることができた。何だかすっきりした。ようやく自分の本心をさらけ出すことができたような気がする。
どこか引きつった笑みを浮かべるミロさんに向かって、私は歴史の本を広げ、目の前に突き出した。
「さぁさぁ、今日は歴史の読み聞かせです!この人は凄いですよ、何てったって一人で千人の兵を相手にして生き残った人らしいですからね!」
「お、おー。なんだかテンションたかいなー。きょうのリコは…」
「わかります?ふふふっ」
「え、きもちわるっ」
何だか蔑まれた気もするが、そんなことで一々止まってはいられない。私はその偉人の話を、ゆっくりと読み聞かせることにした。
私は今まで、どこかで自分のやっていることは正しいかどうか、悩んでいたところがある。自分がやっていることは、ただミロさんを利用しているだけなのではないだろうか。人類のためと言い訳して、人を駒としか見ていないのではないだろうか、と。
もしかしたらそれは事実なのかもしれない。今やっていることは、ミロさんにとっては何の利益にもならない、ただの無駄な時間なのかもしれない。
だが、それが正しいかなど、確かめる術はどこにもないのだ。そもそも、人間が生きる道に正しい道などあるわけがない。
ならば、せめて自分が良かれと思ったことをやっていこう。それが正解か不正解かどうかなど、誰にも定義できないのだから。
「リコ、わかった。もうわかった。わかったからそんなにさけばないで」
「いやいやまだまだ!ここからが熱いんですよ!この人この場面で何と言ったと思いますか!?『この場所にはまだ自分がいる。だから負けるはずがない』と言ったんです!そんなこと言えますか、この絶望的な状況で!」
「もー。だれかこいつとめてくれよ…」
…とは言ったものの、後から振り返ってみるとわかる。あの日の私の授業は、正しい教育ではなかったと。




