不正解回答
一人で考えるのは難しいです。一人で考えられたと思っても、きっと、他の何らかの影響があるのだと思います。
一体どうしたものか。
ミロさんに勉強の意味について問われたあの日から、そのことが頭から離れないようになってしまった。少しでも時間が空くと、どうしてもその答えを考えてしまう。
誰かにアドバイスを貰おうかとも考えたが、それは何か違う気がした。そのアドバイスはその人の考えで、私の考えではない。これは、私一人で考えて答えを出さなきゃいけないような気がした。
「リコ、どうした。なやみならあたしがきいてやろーか」
ふと現実に戻ると、ミロさんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。そういえば今はミロさんに数について教えていたところだった。まったく、私が心配をかけてどうするんだ。
「いえ、大丈夫ですよ。心配しないでください」
「そーか」
「はい。そうです」
「なやみごとならあたしにいえよ。できることだったらしてあげるからさ」
「ありがとうございます。ミロさんは優しいですね」
「そーだろー。もっとほめてくれてもいいんだぞー」
と、得意げに胸を張るミロさん。こういうとこを見ると、やっばり子供っぽいなと思う。いや、年齢で考えると子供なのだが。
子供っぽいといえば、ミロさんはやはりその傾向があった。コミュニケーションを取ってみてわかるが、純粋で、傷つきやすくて、好奇心が旺盛だ。あと、好き嫌いが激しい。この前なんか、野菜炒めを丸々残していた。
「やさいはかたいから、やだ」
と言っていた。考えたこともなかったが、ミロさんにとっては野菜は固くて食べにくいものなのだろう。あの時は何とか全部食べさせたが。
そんなことを思い出していると、ミロさんは得意げに張った胸を戻してこう言った。
「リコはたまにコワイからな」
「え、私って怖いですか?」
そんなこと言われたこともなかった。寧ろ、『リモコはいつも笑っていて、幸せそうだね』とずっと親に言われていたくらいだ。あれから数年経ったとは言え、自分が怖い人間だという自覚はなかった。そうかぁ、私って怖い女なんだ…。
「あの、どの辺が怖いですか」
「きびしーし、すぐおこるし、すぐこーんなかおをするし」
そう言いながらミロさんは、眉間に人差し指を乗せ、下に動かした。強引に眉が下がり、まるで怒っているような表情になる。確かに考え事をしている時はそんな顔をしているかもしれないが、そんなに怖い印象を与えているのだろうか。改めなければ、そう思い、頑張って歯を見せるように口角を上げて笑顔を作って見せた。
「こわっ」
私の精一杯の笑顔を見たミロさんの感想はそれだった。何だろう。こんなに悲しい気持ちになったのは久しぶりだった。
「何してるんですか…」
悲しい気持ちになってから数日。私は鏡を見ては口角を上げ、笑顔を作って見せた。しかし、あの日の笑顔と何が違うのか、よくわからない。
それでもって、笑顔の練習をイオマさんに見られてしまった。なんとも恥ずかしい。
「いえ、その、何でもないです」
「何でもないようには見えないんですが」
「今、自然な笑顔の練習をしているだけなんです!」
「自然な笑顔って練習するものなんですか?」
そう言われてはっとした。確かにそうだ、本当に嬉しい時や、楽しい時は、口角を上げなくたって自然と笑顔になれるものだ。私はミロさんに何かを教える時、自然な気持ちになれていただろうか。いや、なれていない。
私は隊長を、人類を救うためにミロさんに勉強を教えていたのだと思う。思えば、ずっと焦っていたのだ。
「ありがとう、イオマさん!」
「え、えぇ?」
困惑した様子のイオマさんを尻目に、私は訓練場に向かって走り出した。確かこの時間は、ミロさんは戦闘訓練を行っていたはずだ。
私の自然な気持ち、思っていることを正直に伝えよう。それがきっと答えだから。私が考える、ミロさんへの答えだから。
「えーっと、結局何だったんだ?」
後から聞いた話だが、一人そこに残ったイオマさんは、私が作り笑顔を練習していた件について、小一時間悩んでいたらしい。いやはや、申し訳ないことをした。




