想定外能力
8万文字くらいで文庫本一冊らしいです。ということは、とうとうこの小説も文庫本になっても違和感がない状態になったんですね…。
「おーい、ミロー」
探せども探せども、ミロの姿は影も形も見えない。そもそも、ミロは前回のゾンビと戦いに出た時くらいしか外に行ったことがない。やはりまだ拠点の中にいるのだろうか、そう思って来た道を戻ろうと振り返ったその時だった。露天で売られているアクセサリーをじっくりと眺めているリコを見つけた。リコは自身の髪の色と同じ、銀色の金属がハート形に埋め込まれたネックレスを手に取ると店員に勧められるがまま試着を始めていた。休暇中であろう今日に声をかけるのはちょっと気が引けるが、今はミロを見つけ出さなければならない。見たかどうかだけ聞いてみるとするか。
「あれ、隊長?」
「ん、あぁ。よう、リコ」
しまった。先にリコの方から声をかけられてしまった。別に人と話すのが苦手だというわけではないが、機先を制されてしまったといったところか。
「あー、その、なんだ。そのネックレス似合ってんな」
何言ってんだおれは。
「そうですか?ありがとうございます!」
花が咲いたかのようにぱぁっと笑うリコ。違う、おれが言いたいことはそんなことじゃない。
「買ってやろうか?」
馬鹿じゃねぇの。
こういう時に自分の素直じゃない性格が嫌になる。思ったことを思ったまま言えたなら人生楽だろうな。おれは頭を抱えたままそんなことを考えていた。傍から見たら変な奴だ。
「あの、隊長。どうかなされたんですか?」
「いや、気にしな…。じゃなくて、ミロを見なかったか?」
「ミロさん?」
あぁ、ようやく本題に入ることができた。しかしミロの反応は芳しくない。この様子だと見てはいないだろうな。
「えぇと。ミロさんとはどなたでしょうか」
「は、そこからかよ」
そうか、勝手に全員に知れ渡っているものだと思っていたが、おれはミロの存在を公表していない。おれが話したことがあるのはディスとキドとイオマ、そして生物兵器の開発スタッフだけだ。開発スタッフからはその部下に話をすることになっていたが、入院していたこともあり、最初の3人以外に話はしていなかったな。
「そうだな。とにかく女の子を探しているんだ。深緑色の髪で、ぶかぶかの黒い服を着ている」
「どれくらいの年の子なんですか?」
「…8歳くらい?」
「…なんでそんな子探しているんですか?」
「守護隊のメンバーなんだよ。本当だっつーの。おい、そんな目で見るな」
リコはジトっとした、疑いの目でおれを見ていた。確かにそんな小さい女の子がメンバーだったことはないが、何で真実を話しているおれがこんなことになっているんだ。
これ以上は当てもないし、リコが見ていないならばやはり一度拠点に戻ろうか。一応リコに見つけたら保護するように伝え今度こそ帰路につくと、守護隊拠点の入口があわただしくなっていた。近くにいたスタッフを一人捕まえ事情を聞き出してみると、また魔族が現れたとのことだった。
「ったく、まだミロも見つかってないってのに」
「よんだ?」
誰のことかわからねぇけど、呼んでねぇよ。そう言おうとして後ろを向くと、そこにはぶかぶかの服を赤黒く染めた少女が何食わぬ顔で立っていた。ちっこい身長に深緑色の髪。
「ってミロかよ!」
きょとんとした顔で首を傾げるミロ。今までどこ行っていたんだ、無事でよかった、何でそんな恰好してるんだ、など言いたいことはたくさんあったが、頭の整理がつかない。
「心配かけさせやがって」
その結果、捻りだした言葉がこれだった。もっと良い言い方があっただろうに、つくづく自分が嫌になる。
ふとミロを見てみると、何やら口の周りにごみがついているのが見えた。取ってみると、ぐちゃっと嫌な感触が襲ってくる。生ものだ。
「ミロ、お前今までどこにいたんだ?」
おれの質問にミロは遠くを指さしただけだった。少なくとも拠点の中ではない。よく考えると、さっきスタッフたちが魔族を倒しに向かった方角と一緒だ。もしかして、ミロは魔族に反応して先に戦いに行ったのか?火烏のときもそうだ。急に車を飛び出したかと思えば、気づいたらこいつは交戦していた。魔族同士ひかれあうということなのか。もしかしてミズキコウも?いや、あいつが事前に行動していたことはない。だとすると、これはミロ自体が持っている能力か何かなのか。
「なぁミロ。お前、どこに魔族がいるのかとかわかるのか?」
ミロはおれの質問に一回頷くと、疲れた表情で守護隊拠点に戻っていった。
あいつ、そんな力持っていたのか。とんだラッキーだな。なんて一瞬だけ軽い気持ちを持ってしまった。何考えているんだおれは。その力があるということは、ミロはまた自発的に魔族を倒しに行くのだろう。あいつにとってそれは普通で、今日のリコのように休むということが存在しない。それが悪いこととは言わないが、何というか、かわいそうだと思ってしまった。全部おれのせいなのに。
罪悪感が押し寄せてくる。それを振り切るかのように、おれはミロを追って拠点へと戻っていった。




