決行
精神的に疲れつつあるような…。
申し訳ありません、何度目かの遅刻更新です。絶対日曜日には更新するので、完結まで更新します。
──オレは、どうする?
「ディスプさん、何迷っているんですか!?」
後ろにいるイオマが鎗を構え、男をキッと睨みつけている。こいつは竜を殺そうとしているんだ。人類のために、自分たちの世界のために。
男はまだよろめいている。こいつと戦うとしたら今がチャンスなんだろう。今だったら、こいつを…。
「…いや」
ダメだ。
今ここで戦って勝ち目はあるか?仮にあいつが竜だった場合、半端じゃない強さを持っている。戦力はたった二人だけで、あいつを倒せるのか?
ここは引くべきだ。オレはともかく、武器の開発に長けている隊長とイオマ、戦闘力の高いミロを失うのは人類側にとって痛手だ。
だったら、答えは一つ。
「イオマ、お前は隊長たちを連れて逃げろ」
「は、何を言っているんですか!?」
「確かにお前の言う通りだ。ここであいつを倒さないと、後々どうなるかわからない。でも、今戦って勝ち目はあるか?」
「だから、二人がかりだったら」
「本当にそう言えるか?ここであいつを倒しきれるって」
「…」
イオマはそこで押し黙った。いくら対魔族用の装備を持っているとはいえ、今の装備は万全ではない。オレが持ってきているのも救急箱と、その中にある予備のグローブだけだ。
「お前だったらわかるだろ。ここは引くべきなんだ」
「でも、だったらディスプさんも」
「オレはあいつが竜なのか確かめる」
あいつがいなくなったのには、きっとオレにも責任がある。長い間一緒にいながら、あいつは悩みを打ち明けてくれなかった。それはオレが頼りなかったからだ。
だからもしも、あいつが竜なら、今度は面と向かって話し合いたい。そんなんで責任がとれるとは思っていないし、ただのわがままだけどな。
「違ったら即逃げるし、竜だったら連れて帰る」
「…何言っているんですか?仮に竜さんだとしても、話ができるとは思えません!あなたが言っていたんですよ、失踪する前の竜さんは何も話してくれなかったって!」
「だから今聞く必要がある。…ごめん、これはオレのわがままなんだ」
「そのわがままで死ぬつもりですか。許しませんよ、そんなの」
「あぁ、わかってる」
許されないってことは。
オレがやろうとしていることは、ただ無意味に突撃するようなものだ。ただの無駄死に。オレの死に何か意味が生まれるわけでもない。でも、オレはそれでいい。ただ竜の気持ちさえ知れれば。
「わかっているから、見逃してくれ」
「…じゃあ、生きて帰ってくるつもりがあるってことでいいんですね。あなたがいなくなったら悲しむ人がいるってこと、忘れないで下さい」
「…」
「僕が持っている毒ガス球を置いて行くので。…それじゃ、先に車に戻ります」
イオマはポケットから例の毒ガス球をオレに手渡すと、救急箱から紐を取り出して自身の体にミロを固定し、隊長の体を担ぐようにして歩き出した。
悪いなイオマ。お前が言ってくれたことはありがたいが、保証はできない。
「さて、と」
オレは改めて鎧の男に目を向ける。話の途中でうめき声はなくなりつつあった。ガスの効果が切れたのだろう。それでも攻撃も何もせずに残っていたということは、向こうもオレに用事があるのではないだろうか。
「もうここには誰もいない。腹割って話そうじゃねぇか」
「…さっき言ってた、聞く必要があるっていうのは」
「決まってんだろ。お前が失踪した日、話せって言ったことをだよ。あの時は悪かったな。お前の気持ちも考えずに、話せ話せってうるさかっただろ」
「まぁ、確かに」
そう言うと、鎧の男は兜を取り外した。緑色の鱗が露わになる。ぎょろりとした目に生気は感じられず、口を開いたときに見える牙は赤黒く染まっていた。体質的なものか、それとも血の色かはわからない。わかったことは。
「やっぱり、お前か」
鎧の男は竜だった。
オレは竜に近づこうと足を動かすが、そうすると竜の方が一歩後ずさる。一定の距離を保っているのには、何かわけがあるのだろう。オレは声を張って語り掛ける。
「で、どうだ。今なら話してくれるか」
「何でディスプさんは俺のことをそうやって気に掛けてくれるんですか」
「さぁな。何だってオレはお前にここまで執着しているんだか。強いて言うなら、お前は悩みすぎるから放っておけないんだ」
「…悩みますよ。こんな体なんだから」
竜は自分の手を睨みつけた。その眼は先ほどの生気のない眼とは異なり、殺気にあふれている眼だった。魔族の体と人間の心が相反しているのだろうか。
「オレでよかったらいくらでも話を聞いてやる。そこに答えがあるかどうかはわからないけどな」
「答えなんて求めてません。オレが知りたいのはこの悩みの処理の仕方です。例え解決しなくても、後回しにできればそれでいい」
「じゃあ一緒に考えようぜ。考えているだけ、後回しできるんじゃないか?」
「人に、人間に話したくないんですよ。特に、仲間には」
「上等だ。どんな悩みでもどんとこい。オレはお前から逃げない」
そこまで言うと竜はハッとしたように顔を上げた。そしてしばし悩んだ後に、重々しく口を動かす。その口から発せられた言葉は確かに人間には話しにくいことだった。
「オレは、人を食べたいって思うようになったんです」
「…何」
「オレは人の味を知ってしまった。もう駄目なんです。人間を見るたびに、もう美味しそうだとしか考えられない!今だって!いつあなたを食べてしまうかわからないんだ!!」
悲痛な叫びが木々の中に消える。あぁ、そうか。だからお前はあの日、何にも言わずに消えてしまったんだな。こんなこと、確かに誰にも言えない。一人でずっと抱えて2年間生きてきたのだろう。
「初めて食べたのはオーガとの戦いの時です。飛ばされた洞穴の中で、死体が残っていた。オレはそれを食べてしまった。美味しかった!今まで食べた何よりも!死体であれだけ美味しいなら、生きた人間はもっと美味しいんだろうってずっと思ってて!だからオレは…!」
涙を流しながら竜は叫び続ける。
「あなた方から離れて、人を、食っていた…」
誰よりも人間であろうとした男は、体を襲う欲望には勝てなかった。
オレの目の前にいるのは、今まで戦っていた魔族と全く同じ行動をしている奴だった。




