勝利の味
暖房をつけたら電気代がかかる… → なら体を動かせばいいじゃないか!
この発想で風邪をひきかけました。暖房はちゃんとつけましょう。
「やったなぁ!竜!」
遺跡から帰ってきた俺が部屋に戻ると、出迎えたのはディスプさんの盛大な拍手だった。
「ディスプさん、無事だったんですね。良かった」
「まぁな。連れてかれた場所が実験室だってだけで、別に何かされたわけじゃないし。それより聞いたぜ。条件付きとはいえ、あいつらの仲間になれたんだろ」
「ありがとうございます。まぁ囚人用のこれ、付けられてますけどね」
そう言って俺は腕に着けられたおどろおどろしい装飾が付けられた輪っかを指さす。それは、囚人に着けられる脱走防止用の腕輪だった。
この腕輪には場所がわかるように発信機が埋め込まれており、これが付けられている限り、常に俺の居場所はここの施設に監視されていることになる。その他にも電気ショックを与える機能が付けられており、人を気絶させるくらいの刺激を与えることができる。
これを付けられている限り、俺はここの人たちに管理されているようなものだ。当分はこれを外してもらうことが目標になるだろう。あくまで信頼を得て、だが。
「さて、今日は祝いだ。食い物を持ってきたから、一緒に食おうぜ」
そう言ったディスプさんは二つの紙袋を取り出し、片方を俺に差し出す。中を確認すると、大きなハンバーガーが入っていた。レタスのようなものがバンズからはみ出るくらいにたくさん挟まれている。
「ディスプさん、お金持ってたんですか?」
「ちげーよ。言っただろ、もらったって」
「え?」
「ほら。頼んだらくれたんだよ」
聞くところによると、白衣を来た男たちに連れ去られてからは牢屋のような場所へ連れていかれていたらしい。そこではずっと監視の目を向けられていた代わりに、色々な食べ物を出してくれていたらしい。その後、俺が遺跡から帰還したことでディスプさんの監視の目も必要なくなり、こうやって自由に行動できているというわけだ。
しかし、そう考えるとこの世界の食糧事情はあまり問題ではないのだろうか。少なくともこの地域で餓えている人はいないのだろうか。…それとも単純に貧富の差の問題か。
…まただ。今考えても仕方のないことだろう。後で誰かに聞いてみよう。
「お祝いですか。ありがとうございます」
兜を外して紙袋からレタスのようなものをこぼしながらハンバーガーを取り出し、思い切りかぶりつく。この肉は牛のものだろうか。脂がのった濃厚な風味が口いっぱいに広がる。そのこってりとした味を、挟んであるレタスのみずみずしさが中和してくれるようだった。
パンの甘みも丁度良かった。恐らく生地に使っている砂糖と塩の配分が最適なのだろう。最後に感じたのはバターの風味だった。これは中のパティを焼くときにバターを使ったのだろうか。それともパンの中に使用されているバターの量が多いのだろうか。
だが、何故だろう。こんなに色々感じたのに、あまり満足できなかった。
「あれ、なんだ。もう食わないのか」
「すみません。せっかくもらってきてくれたのに」
「気にすんな。余ったものはオレが食うから」
そう言うとディスプさんは俺の食べかけのハンバーガーを手に取り、たった3口で食べきった。しかし、わかりやすく幸せそうに食べるな。
「しかし、あれだな。偏食は良くないぞ」
「おかしいな。前は普通に食べれたと思うんですがね」
そんな話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。慌てて兜をかぶってから応答をすると、部屋に入ってきたのはリモコさんだった。
「あのー」
「あ、守護隊メンバーの。えっと」
そこでディスプさんは固まった。リモコさんを指さして。
「リモコさんですよ」
「そうそれ」
「あの、お二人のことを伺っていないと思いまして。名前とか」
そういえばそうだ。こっちはリモコさんの名前を知っているが、よく考えたら俺たちは何も説明しないでここにいさせてもらっている。
しかし、自己紹介か。何を言えばいいのか悩むな。
「オレはディスプ。ディスプ・レイアード。ハイロン産まれの22歳だ」
「ハイロンって言うと、あの港町のとこですか?」
「そうそう!毎日毎日魚臭くってさぁ」
そうして2人はこの世界の港町トークで盛り上がっていた。何だろう。ここでも疎外感を感じる。こういう時に共有の話題がないのは辛いな。港町の話なんて、修学旅行で行った北海道くらいしか思いつかないぞ。しかもずっと札幌にいたから港に行かなかったし。
「それで、あなたは?」
「え?はい!」
修学旅行の思い出に浸っていると、いつの間にか話の矛先がこちらに向いていた。一体何の話を振られたのだろうか。失敗した。
「あなたはどこから来たんですか?」
「あー。その」
ここは何と答えるべきだろうか。異世界で良いだろうか。いや、この答えは最悪「魔界」ととらえらえてしまうかもしれない。間違いではないが、そんなこと知ってほしくない。
だが、地名を出すわけにはいかないし、適当なことを言うものならすぐにボロが出てしまうだろう。
どうしたものか。思いついたでまかせは質の悪いものだった。
「実は最近できた小さい島国なんですけど、『二ホン』っていうんです」
「二ホン」
「二ホンでは俺みたいにみんな兜を被っていて、家族ととても親しい友人以外には顔を見せない決まりがあるんです」
「へー。それでずっと兜を被っていたんですね!」
俺は架空の国・二ホンを作ることにした。これで(表向きは)兜をずっと被っている理由を確保できた。
しかし、この嘘も長くはもたないのではないだろうか。小さな島国だとしても、調べればそんな国はないということがすぐにわかるだろう。
段々増えつつある嘘が暴かれないことを祈りつつ、俺は兜の側面をキュッと撫でた。




