変わらないからできること
祝100部分目です。プロローグを除くと99話目ですね。
更新頻度は週一に戻りつつありますが、引き続き完結目指して頑張ります。
「どうだ?様子は」
キードを連れて帰ったオレたちは、すぐに奴を医務室まで運んで行った。そして医療班に治療を頼んで数分、部屋から出てきた医者にオレはそう尋ねた。
「命に別状はありません。今は意識を失ってますが、数日あれば目を覚ますでしょう」
「そうか、良かった。ありがとうな」
後ろで安堵の息を吐いた音が聞こえた。キデンと、新人三人組だろう。
とりあえずキードについては一安心だ。あとはリモコとミロの救出、それと並行して魔界への突入準備を進める、と言ったところか。
「あれ、そういえば隊長はどこ行ったんだ?」
辺りを見渡すが、それらしい姿は見当たらない。おかしいな、キードをここに運ぶまでは一緒にいたんだが。
「えーと、隊長なら先ほど出て行かれましたけど」
「出て行ったって、どこに?」
「さぁ、そこまでは」
「そっか。ちょっと探してみるわ」
医務室を出てキョロキョロと辺りを見渡した。しかし、それらしい姿は見えない。他に隊長が行きそうなところといえば、あそこか。
エレベーターに乗ってとある階層まで昇っていく。ポーン、という音と同時に開いたドアの先には、隊長が椅子に座っている光景が広がっていた。
「やっぱり、ここだったんだな」
「当たり前だろ。ここはおれの部屋なんだからな」
隊長室。隊長が普段過ごし、仕事をしている部屋だ。来るとしたらここしかないだろうな。
「久しぶりに来た割には、綺麗だな」
「リモコが掃除していたからな」
「あぁ、そうか。リコが…」
隊長は段々と視線を下げていく。何かに悩むように。何だか放っておけなくて、オレは率直に疑問を問いかけた。
「どうしたんだよ、隊長。何だか様子が変だぞ。あの洗脳がどうのっていう仮面を破壊したんだから、もう何ともないはずだろ」
「あぁ、そうだったら良かったんだけどな」
そう言いながら、どこか含みのある笑みを浮かべて椅子の背もたれに寄り掛かかった。
「今更になってさ。おれ、ミズキコウの気持ちがわかってきたんだ」
「竜の気持ち?」
「魔族の気持ちっていうのかな。本能というか、衝動というか」
「周りくどい言い方するなよ。どうしたってんだ、えぇ?」
少し詰め寄るようにそう言うと、隊長は観念したように一つ大きな息を吐き、ゆっくりとオレの方へ視線を動かした。その瞳はいつも見ていた隊長のものではない。ギラギラとして、血走ったような瞳だった。
「ディス。お前さ、人を食いたいって思ったことあるか?」
最初、そう聞いたオレは質問の意図が理解できず、ただ単にポカンとしていた。そしてなにも考えずに「ないけど」とだけ答えると、目の前の彼は大きな声を出して笑い出した。
「そりゃそうだ。人が人を食いたくなるわけがないもんな」
「どういうこったよ」
「言葉通りの意味だ。魔族になってしまったおれは、人を食いたくて食いたくて仕方がないんだよ」
「嘘だよな。だったら何でさっきまで一緒にいた時に襲ってこなかったんだよ」
「人間でありたかったんだよ」
どこか寂しそうにそう呟いた。
「さっきも言ったけどさ、人が人を食いたくなるわけないだろ?だから、おれは人間だーって思い込んで、何とかその衝動を抑え込んでたってわけだ」
「それで何とかなるなら大丈夫なんじゃないのか?」
「かもな。でも、抑え切れなかった時が怖いんだ。ちょっと前まで仲間だった奴らをただ単に食糧としか見れなくなる、そんな時が来ると思うと、怖くて仕方がない。ミズキコウも、きっと同じことを思っていたから守護隊を出て行ったんじゃないかな」
そうだ。竜が守護隊を離れてから初めて会った時、直接仲間を食いたいと言っていたわけではないが、人を食いたくて仕方がないとも言っていた。確か、オーガを倒した時からだったか。
「あいつ、おれたちが魔界へ乗り込んだ時さ、口では言ってたものの全然そんな素振りを見せなかったよな。…その代償があの大暴れか」
「魔族を喰い殺しているっていう奴か」
「そうだ。推測だが、食人衝動を抑え込んでいるストレスか何かが影響しているんじゃないかと思っている。実際おれも、あと一週間くらい人を食わなければどうなってるかわかったもんじゃないしな」
「待てよ、その言い方って。食ったのか?」
その問いに、隊長は口を開くことはなかった。そして生まれた沈黙をきっかけに、話は終わりだとでも言うように立ち上がり、出口へと歩いていく。
「どこに行くんだよ。まさか」
「心配すんな。高いところに行って景色を見てくるだけだ。できるだけ人には会わないようにするさ」
「それで大丈夫なのか?」
「さぁな。じっとしてるよりはマシってくらいだ。悪いが限界を感じるまではここで待機させてもらう。ここにいる間はまだ人間でいられそうなんだ」
そう言うと、隊長はエレベーターに乗って上の階まで上がっていった。残されたのはオレ一人。オレだけが、何だか取り残されているような気がした。




