君を忘れた世界~彼女を守る怪異の正体は僕の生霊だった
最近、彼女の調子が悪い。
目の下にクマを作り、怯えている。
僕は心配でたまらない。
彼女は僕に相談する。
最近、仲の良かった友達が急によそよそしくなったの。
家族も何だか私を避けてる気がして……
「次は私の番かもしれない」
僕は彼女を抱きしめ、優しく励ます。
「大丈夫だよ。僕がずっとそばにいて、君を守るからね」
夜中に窓を叩く音がする、誰もいないのに生臭い匂いがする。
僕は彼女を安心させるため、毎日のように彼女の部屋に通い、手料理を振る舞い、彼女が眠るまで手を握ってあげる。
「怖いから帰らないで」
「もちろん」
「私、あなたしか頼れない」
と涙を流す。
「警察に相談しようかな」
「もちろん相談してもいい。でも、君が傷つくようなことを言われたら嫌なんだ。まずは僕に頼って」
ある夜、彼女の部屋で二人で過ごしているとき、ついに決定的な怪異が起きる。
停電が起き、暗闇の中で、恐ろしい女が彼女に襲いかかろうとする。
彼女が悲鳴を上げて僕にしがみつくと、その怪異はピタッと動きを止め、闇の中に消えた。
彼女は恐怖でガタガタ震えながら、あることに気づく。
「あの化け物、私があなたに抱きついたら消えた……? もしかして、私を襲っているんじゃなくて、私から【他の人間を遠ざけようとしてる】……?」
彼女は怯えた目で僕を見る。
僕は何も言えなかった。
そう言われてみれば、あの影が現れるたび、僕は不思議な安心感を覚えていた。
彼女が他人と親しくすると、胸の奥が焼けるように痛んだ。
そして、その直後に誰かが彼女から離れていった。
ああ、そういうことだったのか。
「ねえ、あの化け物……あなたの『生霊』なんじゃないの……?」
彼女の言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かがかちりとかみ合った。
「あぁ、そうだったんだ。僕の愛が、君を守るために動いてくれていたんだね」。
僕は自覚的に生霊を飛ばしていたわけではない。
しかし、彼女を独占したい、誰も近づけたくないという「僕」の無意識の狂愛が、怪異の正体だった。
彼女は恐怖のあまり部屋から逃げ出そうとするが、玄関のドアの前に、僕の姿をした黒い影(生霊)が立ちはだかる。
「もう怖がらなくていいよ」
僕は彼女を抱きしめた。
「君のまわりから離れていった人たちは、みんな君のことを忘れてしまった」
彼女の顔が真っ青になる。
「そんな顔しないで」
僕は優しく髪をなでた。
「これで本当にふたりきりだ」
その日を境に、彼女のことを覚えている人は、この世界に僕以外いなくなった。




