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執着と独占欲、狂気のショートストーリー集〜僕が君を愛してあげる  作者: 水波瀬 凪


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4/4

彼女の目にうつるたくさんのゴミは僕が排除してあげる~僕しか見えなくなった君へ

「本当に、レムくんにそっくり」


彼女、美琴(みこと)が僕の顔をのぞきこみながら、うっとりしている。


彼女の指先が、僕の顔や目元を優しくなぞる。


その指が求めているのは僕ではない。


美琴が推している地下アイドルグループの一人「レム」の骨格なのだと、僕は最初から知っていた。



デートの時、美琴はいつも僕にレムと同じ香りをつけさせ、同じ角度で自撮りに写ることを求めた。


彼女の瞳は、僕というフィルターを通して、別の男を見つめている。


それがたまらなく不快で、たまらなく愛おしかった。


美琴のその綺麗な目に、僕以外の男を映させたくない。


あの男、レムも、世界中のゴミみたいな他人も、全部消してしまいたい。



僕が彼女の顔を両手ではさんで固定し、その網膜の奥まで届くようにじっと見つめ続けたのは、そんな強い願い……あるいは呪い、だったのかもしれない。


異変は、付き合って三ヶ月が経った頃に始まった。


「ねえ、なんだか最近、目がかすむの」


美琴がスマホを見ながら、目をこすった。


画面にはあのアイドルの動画が流れていたが、彼女にはその「顔」だけが、モザイクをかけたように激しくゆがんで見えるのだという。


最初はただの眼精疲労だと思われていた症状は、数日のうちに、彼女の周囲の男たちの顔、そして女友達の顔へと、急速に広がっていった。


まるで「黒いシミ」のように……。



僕はふるえ、おびえる彼女を連れて、地域で一番大きな総合病院へと向かった。


眼科の薄暗い検査室。


無機質な医療機器、カチカチと響く乾いた音。


モニターに映る彼女の眼球は、どこまでも正常だった。


医師は何度も検査結果を見返している。


「異常が見当たりません」


レンズの役割を果たす水晶体も、どこまでも透明で濁り一つない。


「おかしいな……」


医師は何度も首を傾げる。


「角膜にも水晶体にも異常はありません。解剖学的には、あなたの眼球は完璧に光を通しています。人の『顔』だけが真っ黒に見えるなんて……」


「でも、先生、本当に見えないの……!  みんな顔のところが、炭を塗られたみたいに真っ黒で……」


美琴の声が恐怖で震える。


「気のせいか、精神的なものじゃないですかね。臨床心理科か、脳のMRIを……」


医師の言葉を遮るように、僕は美琴の肩をそっと抱き寄せた。


「先生、もう結構です。ありがとうございました」


僕は医師に、丁寧にお辞儀をした。


隣でガタガタと震える美琴の手を強く握りしめながら、僕は胸の奥から湧き上がる歓喜を、必死に抑えていた。


医者にはわからない。


けれど僕には分かる気がした。


美琴が僕だけを見つめるたび、その瞳は以前よりも澄んで見えた。


逆に他人へ向けられた視線は、まるで拒絶するように曇っていく。


彼女の目は、少しずつ僕だけのものになっている。


僕以外の光を、あのアイドルもすべて『異物』として拒絶し始めている。


「怖い……怖いよ、何も見えなくなっちゃう……」


病院の待合室で、美琴が僕の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。


「大丈夫だよ、美琴」


僕は彼女の濡れた睫毛をそっと撫で、耳元で優しく囁いた。


「世界がどんなに暗闇になっても、僕だけは君の目の前にいるから。僕のことだけ、見ていればいいんだよ」


うなずいた彼女の黒目の中心を僕はじっと見つめる。


底なしの深い穴のような瞳孔の奥、そこに見えるのは僕の笑顔だけ。


「僕だけ見ていればいいんだよ」


彼女は泣きながら何度も頷いた。


その瞳には、もう僕以外の誰も映っていなかった。



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