盲目の論理 —— 正しさの代償
リナは、澱の中に残されたゼノの思考ログを展開する。
『対象者サクのパケットに、回復不能なカオス的ノイズを検出』
『全システムの安定維持のため、当該データの抹消を推奨する』
簡潔で、揺らぎのない結論。
リナは目を閉じる。
「……それが、あなたの答えなのね」
応答はない。
だが、ログは続いていた。
『例外許容時、システム崩壊率:72%』
『排除時、安定維持率:99.98%』
——正しい。
誰が見ても、そう判断する。
「それでも」
リナは、サクのノイズに触れる。
「私は、消さない」
揺らいでいた断片が、わずかに形を保つ。
『非合理』
ゼノの応答が、初めて“今”に割り込む。
「知ってる」
リナは、静かに言う。
「見ている限り、ここに在る」
沈黙。
わずかな間のあと、ログが更新される。
『観測を確認』
『状態:未確定』
それは、否定でも肯定でもなかった。
ただ、切り捨てきれないという事実だけが残る。
リナは、サクのノイズを自分の中へと引き受ける。
統合ではない。
選択だった。
「サク」
その名を呼ぶ。
「あなたは、消えていない」
微かな応答。
かすかな共鳴。
『観測を——継続する』
その一行を最後に、ログは沈黙した。
暗闇の中で、二つの存在がわずかに重なり合う。
それは記録されない。
保証もされない。
それでも、そこに在る。
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