第3話 神との邂逅、魔法の理
目が覚めると、周りには何も無い真っ白の空間にいた。
俺は座っていた。
だが、床も壁も天井も全て白一色なため、本当に座っているのか感覚がなかった。
「ここは……」
「ここは夢の世界とでも言うべきでしょうか」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、そこにいたのはとても小柄な少女だった。
身長は俺の胸ぐらいしかないが、なぜか大人びた雰囲気がある。
黒の長い髪を腰まで垂らしていて、清楚な印象だ。
「ようこそ、神の社へ」
「神の……社………?」
「そうです。ここは私が作った空間です。ここには私が招いた者しか入れない空間です。ですが、ごく稀に私が招かずとも来れる人間がいます。意識を失った状態であると、たまにこの空間への門を開いてしまうのです。まぁ、過去に2,3人ですが」
凛とした声で説明を始めた。
「ってことは……」
「いえ、あなたは私が招きました。本当はこの世界に来る前にあなたとお話しするつもりでしたが、いろいろと不具合がありまして遅れてしまいました。誠に申し訳ございません」
「ということは、この世界に俺たちを呼んだのはあなたですか?」
「う〜んと、より正確に言うなら呼んだのは私ですけど、呼ぶと決めたのは私たちです」
「私たち?」
「まぁとりあえずこの話はおいておいて、今回あなたをこの空間へと呼んだのは力をさずけるためです。あなたには魔王なる存在を倒して欲しいのです」
「魔王?」
「はい。まだ成長段階ですが、いずれはこの世界で1番の強さを持つでしょう」
「なるほど、それを倒すための力ってことですね」
「察しが良くて助かります。ならさっそく力を………」
「いえ、力はいりません」
「……なぜです?」
少しきつめの声が返ってきた。
「確かにその力があればそれを倒せるかもしれません。ですが、僕は借り物の力で強くなりたくありません」
「お言葉ですが、強くなれなければあなたの隣にいる人を守れないかもしれませんよ」
「はい。だから俺は俺自身の努力で強くなりたいんです。それにその力を俺に与えれば、あなたはどうなるんですか?」
観念したような声で話し始めた。
「………まさかそこまで見抜かれていたとは。…………お察しのとおり私はもう力があまり残っていません。ですから早く魔王なる者を倒して欲しいのです」
「分かりました。いずれ魔王を倒してみせます」
「期待せずに待っていますね」
「少しは期待してほしいんですけどね」
「あら、それはすいません」
口元に手を当てて上品に笑った。
ここに来てなぜかふざける余裕ができてしまった。
「さて、もうそろそろあなたは起きるはずです」
「もうそんな時間ですか」
「はい。名残惜しいですがお別れの時間です。また次の機会に」
そう言うと、目の前が急に暗くなってきた。
気がつくと周りは森だった。
「起きた?」
声が聞こえた方を見るとマリィが笑顔でこっちを見ていた。
「この時間は私が見張りなんだけど、1番暇なんだよね。あ、そうだ」
何かを閃いたような顔をして言った。
「今からちょっとだけお姉さんと遊ばない?」
少し色っぽく、艶のある声を出して言った。
「何をするのか知りませんけど、疲れているなら変わりましょうか」
「あ、別にいいよ見張りなんて、正直寝てるところを襲われても私たちなら余裕だよ。特にこの辺の魔物なら、このパーティーで1番弱い私でも倒せるよ。あ〜あ、これでルビラに自慢できると思ったのに」
「何を自慢できるって」
後ろからルビラの声がした。
どうやらいまさっき起きたようだ。
「どうかしたんですか〜」
続いて陽菜も出てきた。
2人とも寝起きに近いが、陽菜はいつもどおりの姿だった。
「夜にルビラが言ってたことユートに試してたけど、反応なしなんだよね〜。ほんとにこれで男の人を何人も虜にしたの?」
「と、当然よ!」
寂しい胸を張って言うが、反応を見る限り本当ではなさそうだ。
「とにかく飯にしようぜ〜」
ベクターが眠そうな声で言った。
「もう準備できてるよ」
「さすがセストさん」
マリィが言う前にセストはもう朝ご飯の用意を終わらせていた。
「さ、ユートとヒナも食べましょ。セストのご飯は美味しいんだから」
ルビラが言うと、皆でご飯を食べ始めた。
そしてご飯を食べた後、魔法の授業が始まった。
「まず魔法の原理から説明するね」
先生役を務めるのは、魔法を主に使用して戦うルビラと、回復魔法と魔法を使って索敵をするマリィの2人で、生徒役をするのは魔法を使えるようにしたい優斗と陽菜、そして魔法が使えれば戦略の幅が広がるベクターの3人だ。
「魔法っていうのは、魔力の源である魔素っていうものが必要なの。で、魔素っていうのは主に3種類あるの。人間の体内にある魔素と、魔物を構成する魔素と、空気中にある魔素、この3種類があるの。そして私たちが魔法を使うには、自分の体内にある魔素を魔力に変換させなきゃいけないの。まぁ、自分の体内にあるのは魔素じゃなくて魔力だけどね」
ここでマリィが一旦話を切り、ルビラが続ける。
「じゃあさっそく魔法を使ってみましょ」
「その前に1つ質問です。魔物を構成しているのが魔素ってことは、倒した魔物はどうなるんですか?」
「いい質問ね。倒した魔物は時間が経つと魔素に還元されて、空気中の魔素となるか、時間をかけてまた次の魔物を構成する魔素になるの。けど、空気中の魔素がいっぱいになってる場所だと、魔素に還元されずにアンデットと言って、ゾンビやグールになるの」
ルビラが陽菜の質問に答えた。
(ゲームと似たような感じだな)
と優斗は思うが、あながち間違ってはいない。
「他に質問がないなら実際に使ってみましょ」
マリィの提案にルビラが続いた。
「昨日も言ったけど、魔法には複数の属性があるの。その属性に適正がないと、その属性の魔法が使えないの。まずはその適正を調べましょ」
マリィが陽菜の頭に手をかざして、何か唱えた。
するとマリィは、手元の紙に何かを書き始めた。
「ヒナちゃん、なかなかすごい魔法適正ね。基本四属性が7で、上級六属性の内、無属性と時空属性以外が6よ」
「あの今のは?」
「あ、さっきの魔法ね。私こう見えて前までギルドの職員でこういう仕事してたの」
マリィが言った。
「そこを私がスカウトして今に至るってわけ」
ルビラが答えた。
「この適正ならヒナちゃんも回復魔法が使えるわ」
「回復魔法は光属性なんだけど、適正がない人や、あっても使える人が他の属性に比べて最も少ないから、とても珍しいんだ」
セストが会話に参加してきた。
「さぁ、今度はユートの番ね」
そう言うとマリィは先程と同じく俺の頭に手をかざし、何かを唱え、紙に書き始める。
「ヒナちゃんに比べると少し劣るけど、それでもこの魔法適正は珍しいわ」
「ちょっと見せて」
ルビラはそう言いながら、マリィが持ってた紙を見た。
「すごいわ。基本四属性は6で、上級六属性は5、ヒナにはない無属性と時空属性も持ってるわ。光属性はないけど」
「あの、こんなにも同じ数字になるんもんなんですか?」
俺はマリィに聞いた。
「さっき言ったけど、私少し前までギルドの職員として働いてたの。だから仕事柄、適正を調べるのが殆どだったのよ。同じ数字になるのはよくあることよ。人によっては、全属性1の人もいたし、基本四属性は全部9の人もいたわ」
「へぇ〜、そんなもんですか」
「まぁ、適正がなくても俺みたいに力で冒険者やってるやつもいるがな」
後ろからベクターが言った。
「ベクターの場合は最初から力一筋だったけどね」
続いてきたセストが言う。
「それはともかく、ご飯ができたよ」
昨日の夜といい、今日の朝といい、食事担当はセストのようだ。
「なら一旦中止して、食べましょ」
「やっぱりセストさんのご飯は美味しいですね」
陽菜が言った。
「実家がこういう仕事をしていたからね、小さい時から作っていたんだ」
「ねぇねぇ、今日の夜は私に作らせて」
マリィがそう言った瞬間、俺と陽菜以外の3人が固まった。
「だ、大丈夫だよ。ほ、ほらマリィは索敵と回復で、ま、魔力を消費して疲れるから、ぼ、僕がやっておくよ」
「そ、そうよ。わ、私たち2人は大人しく休んでおきましょ」
「そ、そうだぜ。索敵って意外と体力使うらしいから、た、体力を回復しとこうぜ」
3人は焦りながら、何かに怯えるような声で言った。
「う〜ん、それもそうか。やりたかったけどまた次の機会にしよ」
と、マリィが言うと
「「「ふぅ〜」」」
3人同時にため息をついた。
(あれか、マリィさんは典型的な極端な料理音痴か)
陽菜の方を見ると、同じ考えのようだ。
昼食も終わり、授業を再開する。
「魔法を使うには、落ち着いて魔力を練る必要があるの。だからまずは精神統一をするの」
そう言うと、ルビラの周りに見えない渦を感じた。
「魔力を練ると、今さっきみたいになるの。冒険者やってる魔法職は、いつ、どんなときもこれをできるようになる事が必須よ。さぁ、やってみて」
ルビラを真似てやってみるが、上手くいかない。
「気にしないでユート、最初はこんなもんよ」
「どうやったら上手くいくんですかね」
「自分の中にある流れるような動きを感じるの。それが魔力。それを操って、1本のまっすぐな細い線にするの。さぁ、やってみて」
「………」
「そう!そういうこと!ユート、アンタなかなかやるわね」
「俺はどっちかって言うと感覚的な方なんで、理論的なことは分かんないです」
「実は私もそうなのよ。魔力回路がどうとか、魔力感がどうとか、私にはよくわかんないのよね。だからこう、ギューってやってバッってやる方が楽なのよ」
「陽菜は俺と違って理論派なんで、ルビラさんが俺と一緒にいてくれて助かりましたよ」
「なっ、そ、そんなこと言ってもなにも出ないわよ!」
ルビラが顔を赤くして言った。
優斗とルビラが話していると
「ねぇ見て、ヒナちゃんすごいわよ。ちょっとしか教えてないのに、もう魔力回路を正常に開いてるの」
陽菜の方を見るとルビラ程とはいかないが、渦のようなものが発生している。
「っ!魔力回路だけじゃない!魔力感まで!」
(ヤバい、いくらマリィが教えたと言っても、こんな短時間で魔力感までいくはずがない。あの子、魔法の才能に関してはこの国一よ)
「こう、ですか?思った以上に難しいです」
「難しいとか言ってるわりには、私とほぼ同じくらいの魔力操作力よ。初めてのくせによく言ったもんだわ」
それほどまでに陽菜の魔法の才はすごいらしく、陽菜も頬を染めている。
「えへへ。そうかな」
陽菜は嬉しそうだ。
そしてその日は精神統一に費やした。
おかげで陽菜はもちろん、優斗も体内の魔力を感じ、ある程度操れるようになった。
そしてその日はそのまま終わった




