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第2話 冒険者との遭遇

俺たちの目の前に出てきたそれは、全身に毛が生えていて、豚のような顔をしている。

それは腰に布を巻き、手には大きな棍棒を持っている。

体長はおよそ2メートルで、なぜか左肩には矢が刺さっていて、そこから絶えず血が流れ続けている。

俺たちはそれから今までに感じたことの無い、圧のようなものを感じた。

そのせいか、1歩も動けず、ただ食われるのを待つ獲物ような感覚に陥った。

そんな中、体は動かずとも、頭の中だけはいたって冷静だった。

(なるほど、こいつがいたから他の魔物の類に遭遇しなかったのかもしれない)

この世界の魔物は、近くに強者がいると自分が殺されないように、その場から逃げるのかもしれない。

ある種、本能的な事かもしれない、と、自分が置かれている状況の中で、

この世界の魔物の事を考えるほど、思考だけはいつもどおりだった。

「グアーーーッ!!」

それは叫びながら棍棒を持ち上げた。

俺は反射的に目をつぶった。

その手が小さく震えていることを気づかないまま。


私はもうダメだと思った。

それの声が聞こえた瞬間、足は震え、今までに感じたことの無い恐怖に頭の中を支配され、何も考えることが出来なかった。

怖くて、隣にいる優斗の腕を掴んだが、優斗は気づいていない。

頭の回転が速い優斗の事だからこの状況を打開する何かを考えているのだろうと思ったが、その手が震えているのを見ると、優斗も未知のものへの恐怖を感じているのだろうと思った。

ついにそれが目の前に出てくると、私はもう目をつぶっていた。

(せめて死ぬ前に、この気持ち伝えたかったな)


しかし、いくら待っても体への衝撃は来なかった。

それでも、怖くて目が開けられなかった。

「もう大丈夫だよ」

その声を聞いたのは優斗の腕を掴んでから、実に数分後だった。

その声が優斗の声であることは知っていたが、恐る恐る目を開けた。

そこに映っていたのは、優斗の、自分が好きになった人の笑顔だった。



俺が目を開けたのは、目の前のそれから何かに驚いたような声を聞いた時だった。

大きなそれは左肩の矢の上から煙を出していた。

そして間髪入れずに何者かがそれをタックルで俺たちから遠ざけた。

すると、目の前に長身の細めの体格の男の人が現れた。

「大丈夫?!すまない、すぐ片付けるから」

そう言うと手に持っている弓に矢をつがえ、強く引き絞るとその魔物に矢を放った。

その矢は魔物の右目に直撃した。

そして魔物にタックルした人が、その大きな体を利用して大振りの一撃で首をはねた。

それら一連の動作は1分もかかっていないだろう。

それほどまでに完璧なコンビネーションだった。

あまりの一瞬の出来事に頭が追いついていかなかった。

とにかく、自分たちは助かったのだと心の底から安堵した。

そして俺の腕を掴んでいる陽菜に気がついた。

「もう大丈夫だよ」

声をかけると陽菜が目を開けてこちらを見た。

そこにはまだ恐怖の色が見えるが、魔物の死骸と俺の顔を見ると、安堵の息をもらした。


「怪我はないかい?」

さっきの弓を持った長身の男の人が声をかけてきた。

よく見ると、髪色が青を少し薄くしたようなかんじで、好青年のような顔つきをしている。

「は、はい!」

「まったく、何が”怪我はないかい?”よ。元はと言えばあんたのせいでしょ」

後ろから赤髪の小柄な少女が近づいてきた。

赤色の魔法使いのようなローブを着ていて、見た目はそのまま魔法使いだ。

「あんたの打った矢に驚いてオークはここまで来ちゃったのよ?」

どうやら先程の魔物はオークというらしい。

「だから先にこの子たちの前に立ったんだよ」

なるほど、だからこの人は最初に、すまない、と言ったのか。

「まぁいいわ。ところで、なんでなんの準備もなしにここにいるの?」

「助けていただきありがとうございます。俺たちは……その………」

話していい内容かどうか分からないため、渋っていると

「まぁ誰しも言えない事情ってのはあるもんだ、ガッハッハッ」

さっきの大柄の男性が近づいて声をかけてきた。

手には大きな斧を持っていて、先の戦闘どうりパワーがありそうだ。

顔はごついが、不思議と怖さはなく、親しみやすい印象がある。

「それもそうね。あなたたちこれからどうするつもり?」

赤髪の少女が言った。

「俺たち、ここに来たばかりで、この辺のこともよく分からないんで、どうしようもないんです」

まだこの人たちを完全に信じきれていないので、事情は隠すことにした。

「なら、近くの街まで送ってあげよう。」

「そうね。夜に冒険者でもない人をほっとけないしね。とりあえず今日はそこら辺で野宿しましょ」

そう言うが早いか、さっそく野営の準備を始めた。

「でも、良いんですか?」

俺たちがそう聞くと

「ここで君たちを放っておいたら、ギルドのモットーに反するからね」

そう言うと、青年も準備を始めた。


俺たちは焚き火を囲んで座っている。

「はいよ、熱いうちに飲みな」

そう言うと大柄の男性、ベクターはマグカップのようなコップに、コーヒーのようなものを入れて渡してきた。

「ありがとうございます」

一口飲むと、見た目はコーヒーそのままだが、味はコーヒーよりやや甘いかんじがする。

「すいませんが、この世界のことを教えて頂けませんか?」

まずはこの世界のことを知ることが先決なので、ここらで情報収集しようと口を開いた。

「なんでこの世界のことを聞くのか知らないけど、教えてあげるわ」

赤髪の少女、ルビラが答えた。

ルビラ曰く、この世界はアレフガルドというらしい。

古い文献にこの世界を創った存在と言われているらしく、それが名前の由来らしい。

それが真実かどうかは分からないらしいが。

そして、この世界、アレフガルドには大きな4つの大陸が東西南北にあるらしい。

それぞれ、東をウェスチーニ、西をイーステート、南をサウセスト、北をノーヴァという。

その4つの大陸の中央に神の祭壇と呼ばれる、小さな島だがとても神聖な場所があり、そこは各大陸が共同で管理している。

そこは過去誰も入ったことがないらしく、アレフガルドが死んだ場所と伝えられている。

「それでね、この世界の人たちは魔法を日常的に使って生活しているのよ」

「まぁ魔法がなくても生きていけるけどね」

長身の男性、セストが言った。

今度はセストが説明した。

魔法には複数の属性があるとのこと。

炎、水、土、風が基本四属性と呼ばれ、雷、氷、光、闇、時空、無が上級六属性と呼ばれている。

それらは普通魔法と呼ばれ、魔法の適正さえあれば誰でも覚えられる魔法らしい。

そして普通魔法の他に、種族や家系で使える、特別魔法なるものがあるらしい。

これらはその名の通り、特定の者しか扱えない魔法である。

また、魔法にはそれぞれランク分けされていて、火を起こす、水で手を洗うなど、日常生活で使われる、生活魔法、魔物相手など、殺傷能力のある、戦闘魔法に分けられる。

戦闘魔法には各属性で、初級、中級、上級、最上級、神話級に分けられる。

これは魔法の術式が複雑なほど上に、簡単なほど下に、とのこと。

基本魔法は、自分が使いたい魔法の具体的なイメージと、その魔法名を唱えると発動し、イメージがよりはっきりしてるほど魔法は強い。

「いろいろ一気に話しちゃったけど、ついてこれてる?」

とルビラが言うが、俺はゲーム感覚で、陽菜は頭で理解しているため問題はない。

「はい、大丈夫です」

陽菜が答える。

「じゃあ次は大陸の覇王のことを話すね」

「大陸の覇王?」

俺がそう言うと

「大陸の覇王って言うのはね、各大陸で1番強い人のことを言うの。1年に1回その大会が行われて、なった人は大陸の王様から貴族と同等の権力と、1年間働かずとも暮らしていけるだけのお金が貰えるの。ただし、戦争とか内乱とか、そういう時は無条件で王様に呼ばれて、戦いに参加しなければならないの」

「でもここ最近じゃあ、戦争はおろか、大きな内乱すら起こってなくて、起きたとしても国直属の兵で事が収まるから、ある種、地位と金と名誉を狙っている人たちが多いんだ」

ルビラに続いてセストが言った。

「これがこの世界の大まかなことね。他に何か聞きたいことは?」

「いえ、大丈夫です。教えてくれてありがとうございます」

俺たちがお礼を言った直後、ベクターの声が聞こえた。

「おーい、マリィを呼んできたぞ」

声が聞こえた方を見ると、ベクターとこれまた小柄な女の人が歩いてきた。

「紹介するぜ、こいつはマリィ。俺らのパーティーじゃあ回復と索敵担当になってる。マリィ、こっちがさっき話したやつらだ」

マリィと呼ばれた人物は、ルビラより背が高く、可愛さを全面に出しているようなかんじで、ルビラがまな板だとすれば、マリィは富士山だろうか。

それほどまでに差がある。

「もぉ〜、いつも私を除け者にして3人で戦うんだから」

開口一番に出たのは、ルビラたちへの文句だった。

「あ、あなたたちがベクターの言ってた人たちね。名前はなんて言うの?」

そう言えばまだ名前を言ってなかったと思い、下の名前だけ言うことにした。

皆苗字らしきものは言っていないので、それに合わせるべきだと思ったのもあるが、苗字があると言うだけで何かしら面倒なことになりかねないと思ったからだ。

「俺の名前はユウト、でこっちがヒナ」

「ユウトとヒナ、だね。よろしく」

「俺の名前は……」

「ベクターさんと、ルビラちゃんと、セストさんですね」

ベクターが言う前にマリィ以外の全員の名前を言った。

言ったのは優斗だ。

「なんで分かったんだ?」

ベクターが驚きを隠せないまま優斗に言った。

「なんでもなにも、皆さんが名前で呼んでたからです」

「へぇー、よく聞いているんだね」

セストが言った。

「そういうのは得意なんで」

そう、優斗は観察眼は目を見張るものがある。

陽菜や他の人から見ても、それは素晴らしいものだ。

「あの、皆さんにお願いがあるんですけど」

優斗はルビラからこの世界のことを聞いてからずっと考えてきたものがあった。

「俺たちに魔法を教えて頂けませんか?」

そう、魔法だ。

魔法さえあれば、弱い魔物や、日々の生活ぐらいならなんとかなるかもしれないと思っていたのだ。

「いろいろ詮索するのは野暮なもんだな」

ベクターはああ見えてわりと考える方だ。

「いいんじゃない?街まで何日かあるんだし」

マリィが言った。

「そうだね。なら明日からいろいろ教えてあげよう。僕がオークを逃がしちゃったからね」

セストが答えた。

「良いんですか?ありがとうございます!」

陽菜がそう答えた。

どうやら考えていることは優斗と同じようだ。

そして俺たちは夜を過ごした。

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