第1話 異世界への転移
「皆気をつけて帰れよ〜」
担任のいつもの一言でホームルームが終わった。
俺の名前は亜神優斗、高校2年生だ。
部活は吹奏楽部に入っている。
顔面偏差値が平均より少し高いぐらいで、その他にこれといった特徴もない、強いて言うなら少し運動が得意というだけの、言わば普通の高校生だ。
今は2月。3年の先輩方も引退して、1、2年で部活をしている。
今日もいつもどおり音楽室へと向かう。
俺のクラスに吹奏楽部員は俺1人なので、いつも1人で向かっている。
「こんにちは〜」
扉を開けて挨拶をした。
これもいつもの事だ。
しかし、非日常はこれから始まる。
中に1歩足を踏み入れたとたん、一瞬音楽室の床に魔法陣的な何かが見えたかと思うと、急に強い光に包まれた。
突然の事で、反射的に目をつぶる。
他の部員の困惑した声が聞こえてきた。
どうやら俺と同じく何かあったのだろう。
俺と同じく光に包まれているか、あるいはその状態の俺を見て困惑しているか、何の関係もない何かがあったか。
とりあえず今は自分の事が先だ。
だがしかし、何かしようにも目が開けられないので何も出来ない。
声を出そうにも、自分の身に起こっている未知の恐怖に怯え、情けない事に何も出せなかった。
視界を占領していた強い光が弱まってきた。
これなら目を開けて自分の置かれている状況を確認できるだろうと目を開けた。
そこに映っていたのは、とても広大な草原だった。
遠くの方を見ると、その草原を囲むように大きな森が広がっていて、そこらじゅうから鳥らしき鳴き声が聞こえる。
その草原のほぼ真ん中に俺は立っていた。
目の前の事態を理解するのに、数十秒はかかった。
何せ、謎の光に包まれ、気がついたら見知らぬ場所にいたからだ。
誰であってもこのような事態をすんなりと受け入れることなど、ほぼ不可能だ。
「うぅ〜」
後ろから声が聞こえたので振り返るとそこに俺のよく知る人物がいた。
「優斗?……優斗だよね」
ふぅ、と、目の前にいるのが俺であるという確認と安堵のため息をついたのは、俺と同じ吹奏楽部に所属している井神陽奈。
同じく高校2年生で、髪は茶髪でミディアムヘアー、二重ではっきりとした瞳が特徴的で、高校2年生の割には発達しすぎた豊満な胸が制服を下から押し上げている。
余談だが、うちの吹奏楽部の男女比はおよそ2:8。
もちろん男子が2、女子が8である。
しかもこぞってうちの吹奏楽部の女子は美少女が多い。陽奈もその1人だ。
俺たちの高校の吹奏楽部は人数が少ないので、比較的男女間の隔たりがなく、皆仲が良い。
今は引退した異性の先輩であっても、同じく異性の後輩でもそれは変わらない。
中でも俺たちはよく話す方だ。
だからと言ってはなんだが、お互いに下の名前で呼びあっている。
さらに言うと、俺の場合、先輩以外は全員下の名前で呼んでいる。
それを他の部が見ると、付き合っているだの、吹奏楽部はハーレムだのと、ありもしない事を言う。
もちろん、俺はそんなことは思っていないし、他の部員も思っていない。
訂正しようとすると、寧ろ逆効果だと思うので、しない。
それはさておき。
「ここどこなの?」
「俺も分かんない」
状況を理解しきれていないのはお互い様で、まずは現状を確認しようとの事で、近くのむき出しの岩を3つほど見つけたので、そこに座る。
話し合いで出た可能性は主に3つ。
1つ、テレビでよくあるドッキリ企画的なやつ。
2つ、これは現実ではなく夢であるということ。
1つ目に関しては、100%ありえない。
ドッキリならば隠しカメラなど、俺たちを撮影する何かが存在するが、そのようなものは見当たらない。
そもそも、ドッキリならばどうやって音楽室から一瞬で外に出るのか。
現代の日本にそんな夢のようなものは存在しない。
そんなものが存在し、一般市民の俺たちに使うのならば、とうに世間に出回っているからだ。
したがって、1つ目は不可能。
2つ目は完全にとまではいかないが、ほぼ無理があるだろう。
夢のわりには土を踏んでいる足も、風を感じる肌も本物だ。
もし仮に夢だったとしても、2人で同じ夢を見るなど、あったとしても天文学的確率なので2つ目も不可能に近い。
そして3つ目だが、1番可能性が高く、かつ1番信じたくないものだ。
それは異世界に転移したということ。
それならば、1つ目と2つ目の矛盾の殆どに説明がつく。
よって俺たちは、信じたくない可能性を信じなければいけない、という結論に至った。
そして次は、転移したのは俺たちだけかということ。
陽奈曰く、俺が音楽室の扉を開ける前には、既に優斗以外の全員が揃っていたという。
ならばなぜ俺と陽奈が一緒にいて、他の皆はいないのか。
俺が音楽室に入った時、陽菜はほぼ扉と真反対の方向にいたため、俺たち2人だけが転移したということはないと判断した。
それならば、真反対の方向にいる2人の人間が同じ場所に転移して、俺と比較的近い場所にいた他の人間がいないのか。
そして転移したのは俺たちだけでなく、全員なのか、はたまた数人だけか。
この疑問については、考えても埒が明かないので保留とする。
とにかく、ここに居続けるとここで夜を過ごすことになる。
年頃の異性と2人きりというのもそうだが、ここが今までいた世界とは違うため、何よりもまず、安全を確認するのが先決だということで、2人は歩き出した。
歩くと言ってもどの方向に、どこに向かっているかなど、検討もつくわけがないのだが。
そして2人の距離がいつもより近いのは、自分の不安を一緒にいることで緩和させようとしていることを2人は知らない。
歩くこと数十分、俺たちは終始無言のまま、森の目の前まで来た。
まだ太陽は傾いていないので時間的に森を抜ける方が良いと考えた。
「陽菜、今から森を抜けようと思う」
「……分かった」
少しの間をおいて陽菜は答えた。
「ここから先は離れると面倒になる。手を繋いで離れないようにしよう」
俺がそう言うと、陽菜はその頬を乙女色に染めて、コクッと頷いた。
俺は内心安堵した。
もしここで陽菜が断っていたら、離れる危険性があったかもしれないからだ。
陽菜は俺と目を合わさずに、恐る恐る手を出してきた、その頬を赤に染めて。
俺は陽菜の顔が見えなかったため、そのまま手をとって歩き始めた。
森を歩いてはや数時間。
もしかしたら魔物らしきものがいるかもしれないと用心していたが、出てこなかった。
だが、用心することにこしたことはない。
本当に出てきたならば面倒だが、出てこなければ杞憂で済むのだから。
森を抜けると道が見えた。
どうやら俺たちは、道を挟んでいる森を歩いていたらしい。
自然と俺たちは手を離していた。
そして気がついたら太陽は西に傾いていた。
本当に西がどうかは分からないが。
「参ったな」
日が傾く前に寝泊まりする場所を見つけたかったのだが、現実はそう上手くはいかない。
そして陽菜に相談しようと声をかけようとしたその時だった。
「グアーーッッ!!」
突然、大きく、そして凶暴で獰猛な恐ろしい声が聞こえてきた。
隣で小さな悲鳴が聞こえた。無論、陽菜の声だ。
(どうする!逃げるか!いや声は割と近い!そもそもどこに逃げる!)
頭をフル回転させるが、良い手は浮かんでこない。
(仕方ない、ここは一か八か!)
とにかくどこでもいいから今の声の主から離れないと。
そして走るために陽菜の手を取ったのと、目の前にそれが出てきたのは同時だった。
どうもどうも、作者の大海 航です。
投稿するのはこれが初めてなので、何をするにも手探り状態でいろいろ分からないことだらけですが、頑張っていきたいと思います。
さてさて、投稿ペースの方ですが、リアルではかなり忙しいのでとても遅いです。
素人なので、いろいろと不快に思う事があるかもしれませんが、暖かい目で見ていただければと思います。




