【「百年前」ある〈復生体〉の最後について】
もう少しでペンを置くことができる。
ここまで長く〈復生体〉について語ってきた私だが、一つ、貴方達に言わなくてはならないことがある。
それは、私が未来視の〈神能者〉であることだ。
視界に捉えた人間の未来を視ることができる。
王国の建国から四百年の節目のこの年に、私はある〈復生体〉と旅をした。
気の良い人だった。
この話は、その〈復生体〉の未来の話だ。
今から百年後に起こる、今はまだない国との戦争。
今回、私が書いたのはそれだけ。
この〈復生体〉はこの後も闘い続ける。
龍の国で空間を喰らう祖龍を倒したり。
世界に蔓延る〈神能者〉のとある組織を壊滅させたり。
遠い東の国で、オイランの女性を助けたり。
ああ、空に浮かぶ伝説の島へ挨拶に行ったりもしていた。
思い出した限り並べて、時系列もバラバラだが。他にも色々。
一度彼の未来が見えなくなった時があったな。どうしてかはわからない。
今書いた書物を世に出回らせるのは百年後にしておこう。
生涯大切に持っておくとして、遺書と共に誰かに渡せば良いだろう。
その人物が素直に出版する確証はないが、それはその人物の未来を見れば一目瞭然だ。
長い間彼は闘い続けた。
今はまだ生まれていない女性の、その生涯に寄り添いながら。
今からおよそ百と余年後のことだ。
グレースという王族が女王になる。
未来の女王を公言してしまうなど、大変なことになってしまうだろう。
しかし時系列も百年後に合わせて書いている。
それに、私はその時には既に死んでいる。
勝ち逃げというわけだ。
一応付け加えておくこととして、彼は私が〈神能者〉であることは知らない。
旅をする中で、彼からたくさんの昔話を聴いた。
そのお礼とでも思ってくれれば良い。
決して、百年前に出逢った人物に未来を除かれていたことを知ったらどうだろう? なんて好奇心ではないことも付け加えておく。
彼はグレースと一緒に老いていく。
一緒にしわくちゃになっていくのに満足しながら。
しかし、彼にとっては最後と言っていい決戦の時、彼は一度死んでしまう。この時のグレースの年齢は八十五歳。
余命わずかな老婆の唇へ、上品な口付けを行う若い〈復生体〉の絵は、あまりの神聖さから有名な絵画のモチーフとなる。
きっとあの先数百年は、愛を象徴する名画として人々の心に刻まれるのだろう。
そこから、彼は独り、静かに老いていく。
仕事をして、休日は本を読み、時には映画を見る。
時が経つ毎に代わりゆく街並みに、グレースの面影を感じながら。
どうしていつもここを歩いているのですか?
散歩中、道ゆく人に尋ねられた彼は、こう答える。昔、デートでこの道を歩いたんだよ、と。
そんな彼も終わりを迎える。
肉体年齢は九十歳。
これまで生きてきた〈復生体〉の中で、抜群の功績を認められた彼の為に、王国は国葬を執り行う。
何千人もの臣民が参加する葬儀告別式の中、彼の遺体は丁寧に棺へと収められることとなる。
私が他の〈復生体〉越しに視ることができた彼の未来はこれが最後だ。
終わりまで教えてしまっては芸がない。
今書いているこの文章だけは、彼の死後に出版するようにして、今だけは日記の一頁として書き記しておく。
そして。
私は最初、貴方達にこう言った。
死ねない彼らに天国はないと。
神の教えの中にある天国なら、私にも判断は付かない。流石の私の〈神能〉も、かの天上の国までは覗くことができない。
それでも、私が視た彼の未来はあれで最後だ。
少なくとも彼のこの世での人生は、あれで終わり。以降、同じ記憶を持った〈復生体〉が生まれることはない。
彼は死んだのだ。
死ねない彼らに天国はない。
では、彼の場合はどうだっただろうか?




